障害者支援施設における生活介護の人員配置基準:厚労省通知のポイント解説
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指定障害者支援施設とは、障害者の方が生活する入所施設のことで、生活介護サービスなどを提供します。この通知の基準を満たさないと、施設の指定(許可)や更新が受けられませんし、運営中に違反すれば改善勧告や最悪指定取消し等の処分もありえます。つまり事業継続の生命線となる重要な基準なのです。
本記事では、この通知の中から生活介護を行う場合(第4条第1項第1号)の人員配置基準についてやさしくシンプルに解説します。生活介護は、障害がある方の日中活動支援サービスで、利用者の健康管理や日常生活支援など手厚いケアが求められます。そのため、施設には適切なスタッフ配置が義務付けられています。
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医師配置の考え方と代替条件
生活介護サービスを提供する場合、利用者の健康管理や療養上の指導を行う医師を配置する必要があります。原則として、利用者の障害特性に応じて必要な人数の医師を置かなければなりません。とはいえ、常勤の医師を雇うのは現実的に難しい施設も多いでしょう。そこで通知では、嘱託医(外部の医師と契約)でも配置とみなして差し支えないとされています。多くの施設では近隣の医療機関の医師に週数回や月数回訪問してもらう契約(嘱託医契約)を結び、この基準を満たしています。
さらに通知では、例外的な取り扱いも示されています。それは、施設で看護師などが日常的に利用者の健康状態を把握し、健康相談に応じていること、そして必要に応じ速やかに医療機関で受診対応できる体制がある場合です。これらの条件を満たすときは、医師を配置しなくてもよいとされています。平たく言えば、「看護職員が利用者の体調管理をしっかり行い、いざというとき病院に連れて行けるなら、施設にお医者さんがいなくてもOK」ということです。
ただし注意すべきは、この場合介護報酬上の減算が発生する点です。医師を置かない選択をすると、「医師未配置減算」という減算が適用されます。ビジネス的にはデメリットとなるため、可能であれば嘱託医を確保し減算を避けたほうが望ましいでしょう。また、医師不在で運営する場合でも、看護職員の十分な配置や緊急時の医療機関との連携手順を文書で定めておくなど、行政から説明を求められても対応できる体制整備が必要です。医師配置基準は利用者の安全に直結する項目ですので、形だけでなく実効性のある体制づくりを心がけましょう。
看護職員・療法士・生活支援員の配置人数と算出方法
生活介護を行う障害者支援施設では、看護職員(看護師等)・療法士(理学療法士または作業療法士)・生活支援員を合わせて一定数以上配置しなければなりません。必要な人数は利用者の数や障害の程度(障害支援区分)に応じて常勤換算で算出します。常勤換算とは、非常勤職員の勤務時間もフルタイム換算で合計できる計算方法です。例えば週20時間勤務の非常勤2名は常勤1名分(40時間)として数えられます。
算出方法のポイント: 通知では少し難しい計算式が示されていますが、要点をかみ砕いて説明します。
(1) 利用者の平均的な支援必要度に応じた人数:まず、大半の利用者について平均障害支援区分を計算します。具体的には、各利用者の区分(区分2〜区分6)に応じて以下の重み付けをして平均値を出します。
平均障害支援区分 = {(2×区分2の利用者数)+(3×区分3の利用者数)+(4×区分4の利用者数)+(5×区分5の利用者数)+(6×区分6の利用者数)} ÷ 総利用者数
この計算で得られた平均値(少数第二位を四捨五入)が、その施設に必要な基礎職員数と考えてください。例えば、区分4の人ばかりなら平均支援区分は4.0となり4人分、区分6の重度者が多ければ平均が5以上になり5~6人分と、多くの職員が必要になります。逆に区分2や3の比較的軽度の方が多ければ平均が2台や3台になり、2~3人分で済む計算です。
(2) 低い区分の入所者に応じた加算人数:次に、施設に入所している利用者のうち支援区分が低い方(区分3以下、50歳以上なら区分2以下)がどれだけいるかを見ます。これら比較的自立度の高い入所者については、10人を1人として計算します。言い換えると、該当する入所者が10人いれば職員1人分、5人なら0.5人分、20人なら2人分…といった具合に追加の職員数を見積もります。
上記(1)と(2)で出した人数を合計した数が、その施設で最低限配置すべき職員の総数です。この人数以上に、看護職員・療法士・生活支援員を配置しなければなりません。例えば具体例で考えてみましょう。
例:利用者が合計20名の施設の場合
- 区分4の利用者10名、区分5の利用者10名だとします(全員施設入所で50歳未満と仮定)。
- 平均障害支援区分 = {(4×10人) + (5×10人)} ÷ 20人 = 4.5 → 4.5人分(※平均値4.5なので4.5人相当の職員が必要)
- 支援区分3以下の入所者はゼロなので(2)は 0人分追加
- 必要職員数合計 = 4.5人分 となります(常勤換算)。この場合、例えば常勤4名+非常勤1名(週20時間勤務を常勤0.5人換算)で4.5人分を確保するといった形が考えられます。
計算結果が端数になることも多いですが、常勤換算では端数でも基準を満たせます。ただし現実には人を「0.5人だけ雇用」することはできませんから、実際の配置では切り上げて人員を手当てする必要があるでしょう。上の例でも4.5人分に対し、実際は5人の職員配置で余裕を持たせるのが一般的です。
最低配置すべき職種要件: 併せて注意したいのが職種ごとの最低配置です。上記の人数要件を満たすだけでなく、看護職員と生活支援員はそれぞれ最低1人以上配置する決まりです。しかも、そのうち少なくとも1人は常勤でなければなりません。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 医師配置の有無と減算: 生活介護では原則医師の配置が求められます。嘱託医を確保するのが基本ですが、どうしても難しい場合は看護職員主体の健康管理体制でも許容されます。しかしその際は医師未配置減算で収入が減ることを念頭に置きましょう。利用者の急変時の対応などリスク管理も含め、医師を置かない判断は慎重に行ってください。
- 人員基準の計算と人材確保: 人員配置基準の計算は複雑ですが、利用者数と支援区分に応じた必要職員数をシビアに算出することが重要です。新規開業時は想定する利用者像で試算し、人件費計画に反映させましょう。運営開始後は毎年利用者の状況に変化がないか確認し、必要に応じて職員数を増減させます。特にスタッフが退職して基準を下回ることがないよう、人員には常に余裕をもたせておくと安心です。
- 配置職種のバランス: 基準を満たすには人数だけでなく職種のバランスも欠かせません。看護職員と生活支援員は最低各1名・うち1名常勤が必要なので、例えば看護職員ゼロで生活支援員だけでは基準違反になります。
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