障害者支援施設における地域移行等意向確認担当者の選任等とは?
記事の概要:
障害者支援施設では入所者(施設に暮らす障害のある人)の地域生活への移行に関する意向確認が新たに義務化されました。簡単に言うと、施設に入所している障害者が「地域で生活したいか」「施設の外のサービスを利用したいか」といった希望(意向)を定期的に確認する仕組みを作り、専任の地域移行等意向確認担当者を配置する必要があるということです。
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地域移行等意向確認担当者とは何か?
地域移行等意向確認担当者とは、障害者支援施設において入所者の地域移行の意思を確認する役割を担う専任スタッフのことです。ここでいう「地域移行」とは、今まで暮らしている施設を出て地域で生活すること(例:自宅やグループホームで暮らすこと)を指します。また「意向確認」とは、入所者本人が将来どのように生活したいか、例えば「地域のアパートで暮らしてみたい」「施設外の日中活動サービス(デイサービスなど)を利用してみたい」といった希望や考えを確認することです。地域移行等意向確認担当者は、こうした入所者一人ひとりの希望を定期的にヒアリングし、記録・共有する役割を持ちます。
この制度ができた背景には、障害のある人ができる限り地域で自分らしく生活できるように支援するという国の方針があります。従来、障害者支援施設では長期間入所し続けるケースも多くありました。しかし近年は障害福祉サービスにおける地域移行の推進が重視されており、施設入所者にも地域生活へのチャレンジ機会を提供しようという流れがあります。
新しい義務の概要(何をしなければならないか)
障害者支援施設の事業者が行うべき具体的な内容は大きく3つあります。
- 指針(ガイドライン)の策定: 入所者の地域移行に関する意向確認をどう実施するかについて、施設ごとの「方針・手順」を定めた指針を作成します。指針には後述するような実施時期や方法、連携体制の内容を盛り込みます。
- 意向確認担当者の選任: 施設のスタッフの中から「意向確認担当者」を1名以上選びます。この担当者が中心となって入所者への意向確認面談等を実施します。担当者について、厚労省は「サービス管理責任者」(個別支援計画を作成する管理者)や、地域の相談支援制度・福祉サービスに詳しい職員が適任であると示しています。要は入所者の状況を把握し、地域資源にも詳しい人が望ましいということです。
- 定期的な意向確認の実施と報告: 選任した担当者は、すべての入所者に対して定期的(少なくとも6ヶ月に1回程度)に意向確認を行うことが望ましいとされています。例えば半年ごとに「地域で暮らしてみたい気持ちに変化はないか?」等を本人に尋ねるイメージです。確認した内容(利用者が何を望んでいるかや、現在利用している施設外サービスの状況など)は、サービス管理責任者に報告し、個別の施設支援計画(個別支援計画)を立てる会議で共有・検討することが義務付けられました。これにより、入所者の希望が支援計画にしっかり反映される仕組みになっています。
さらに、意向確認担当者は施設の外部とも連携することが求められます。具体的には、市町村の相談支援事業所(地域相談支援専門員)や地域移行支援(施設から地域への移行を専門に支援するサービス)担当者などと協力し、入所者が地域の障害福祉サービスを試しに利用できるよう手配したり、地域生活への準備をお手伝いしたりします。例えばデイサービスへ体験参加してもらったり、ショートステイや外泊体験を調整したりといった支援です。こうした関係機関との連携先も含めて、施設内であらかじめ体制を整えておくことが望ましいとされています。
指針に盛り込むべき内容の例として、厚労省は次のような項目を挙げています。
- 意向確認を行う時期・頻度(例:「入所後○ヶ月目から定期的に半年ごと」など)
- 意向確認担当者の選任方法(誰が担当者となりうるかの基準や手続き)
- 意向確認の具体的な進め方や体制(どのように本人の意思を聞き取るか、記録・共有方法、関係職員の役割分担など)
- 地域でのサービス体験利用の支援内容(外出同行や体験利用の機会提供など、地域生活移行に向けたサポート策)
- 地域の連携機関(協力する相談支援事業所や自治体窓口等のリストや連携方法)
施設ごとに利用者の特性や地域資源は異なるため、指針は各施設の実情に合わせて作成されます。ただし上記のようなポイントを盛り込んでおくことで、担当者が中心となって一貫した意向確認と地域移行支援を進めやすくなります。厚労省は具体的な手順やポイントをまとめたマニュアルも公表しており、それを参考に各施設で指針を整備することが推奨されています。担当者自身もこのマニュアル等を学習し、入所者の意思決定支援に配慮した聞き取り方法を身につけることが望ましいでしょう。
施行スケジュールとペナルティ(罰則)
この新ルールは段階的に導入されています。2024年(令和6年度)・2025年(令和7年度)の2年間は経過措置期間と位置づけられ、地域移行等意向確認担当者の配置や指針整備が努力義務(できるだけ取り組むべき義務)とされています。つまり、直ちに違反による罰則はありませんが、行政としては早めの体制整備を奨励しています。実際、2024年度中に各施設が準備できるようマニュアル提供や研修の支援も行われています。
そして2026年(令和8年度)4月からは本格施行となり、これらが法的義務になります。具体的には、もし障害者支援施設が「意向確認の指針を作っていない」「担当者を選任していない」といった基準違反の状態であれば、行政監査で指導を受けるほか報酬(給付費)の減算対象となります。減算措置としては1日につき5単位(施設入所支援の基本報酬から差し引かれる)のペナルティが科されます。5単位は金額に換算するとごくわずかですが、減算が続けば経営にも響きますし、何より利用者の権利を守るための重要な取り組みですので怠らないよう注意が必要です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 障害者支援施設では必須の取り組み: 施設入所支援を提供する事業者は、地域移行等意向確認担当者の選任と指針の策定が義務(2026年より本格施行)であることを忘れないでください。他の障害福祉サービスにはない独自の義務であり、事業運営上の重要ポイントです。
- 早めの体制整備と職員教育: 2026年4月までに体制未整備だと減算対象になるため、余裕をもって準備しましょう。サービス管理責任者など経験豊富な職員を担当者に充て、必要に応じて外部研修や厚労省のマニュアル活用で意向確認のスキル向上を図ることも有効です。入所者へのヒアリングでは、専門用語を避けわかりやすい説明に努め、本人が自分の希望を伝えやすい工夫をするよう指導しましょう。
- 個別支援計画への反映と記録: 意向確認で得られた入所者の希望や不安は、必ず個別支援計画に反映させましょう。例えば「○○さんは将来地域で暮らしたい意向あり」と計画に明記し、具体的な支援目標を設定します。記録はエビデンス(証拠)にもなるため、公的な監査や計画相談員との連携時にも役立ちます。
- 地域の資源と積極的に連携: 担当者は一人で抱え込まず、自治体の相談支援専門員や地域移行支援事業所、グループホーム等と積極的に連携してください。地域での体験利用の場づくりや、住まい探しの情報収集など、外部とのネットワークが入所者の地域生活移行を後押しします。地域の自立支援協議会などにも参加し、最新の支援情報を得ることも大切です。
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