障害者支援施設等における「提供拒否の禁止(基準第9条)」をわかりやすく解説
記事の概要:
本記事では、 提供拒否の禁止(基準第9条)に関する内容を取り上げます。障害福祉サービス事業者(指定障害者支援施設等)は、利用申込みがあった際に原則としてサービス提供を拒んではならないという重要なルールがあります。本記事ではこのルールの趣旨と具体的な内容を、やさしくシンプルに解説します。また、サービス提供を拒める正当な理由や、万が一ルールに違反した場合のペナルティなどについても説明します。
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提供拒否の禁止とは何か?
「提供拒否の禁止」とは、その名のとおり障害福祉サービスの提供を利用申込者からの依頼があったときに原則拒否してはいけないという決まりです。事業所や施設は、自分たちの都合だけで利用者を選り好みすることは許されません。特に、利用者の障害の程度(障害支援区分)や収入の高い・低いといった理由でサービス提供を断ることは固く禁止されています。例えば「重度の障害だから対応が大変なので断りたい」とか「収入が低そうだから支払いが滞るかも…」という理由での拒否は認められないのです。
このルールは、障害のある方が必要なサービスを公平に受けられるよう差別を防ぐためのものです。利用申込みがあれば基本的には受け入れてサービスを提供する義務があることを示しています。
サービス提供を拒否できる正当な理由とは
もっとも、「どんな場合でも絶対に断ってはいけない」というわけではありません。事業者側にサービス提供を断ることができる“正当な理由”がある場合は例外として認められています。正当な理由とは具体的にどんなケースでしょうか。
- 定員オーバーの場合:事業所や施設の利用定員を超える申し込みがあり、物理的・人員的に受け入れ不可能な場合。例えばグループホームやデイサービスで定員がいっぱいの場合です。
- 利用者が入院治療を要する場合:サービスを利用する以前に、医療的ケアのため入院が必要な状態のとき。たとえば重篤な状態でまず病院での治療が優先されるケースです。
- 事業所の主な支援対象と異なる障害の場合:提供しているサービスが特定の障害種別に特化している場合などで、申込者の障害が対応範囲から大きく外れており、適切なサービス提供が困難な場合。例えば知的障害者向けのグループホームで高度な医療的ケアが必要な肢体不自由者の申し込みがあったケースなど、事業所の設備・専門性では十分な支援ができない場合です。
上記のような場合には、「やむを得ない正当な理由」としてサービス提供をお断りできる可能性があります。ただし、その場合でも放置せず速やかに他の適切な事業所を紹介するなどの対応を行うことが求められています。これは利用申込者がサービス難民にならないようにするための配慮です。
就労移行支援における留意点 – 利用者の選別は禁止
障害者支援施設が提供するサービスの中には、就労移行支援(障害者の就労を支援する訓練サービス)があります。このサービスでは、事業所ごとの前年度の実績(就職後の定着率など)によって報酬が変動します。そのため、「就職できそうな人だけを受け入れて成績(実績)を上げよう」と考えてしまいがちですが、これはルール違反です。
厚労省の通知文書でも「就労移行支援事業所では、就労定着者の割合(実績)を高めるために利用者を選別することは認められない。支給決定を受けた障害者には原則サービス提供しなければならない」と明記されています。つまり「成績が下がるから利用を断る」といった選別行為は禁止されており、公平に受け入れる必要があります。
提供拒否の禁止に違反した場合のペナルティ
もし事業者が正当な理由もなく利用申込者のサービス提供を拒否した場合、行政からの指導・処分の対象となります。具体的には、まず勧告(是正するよう促す指導)が行われ、それでも改善されない場合は命令が発出されます。それでも従わない悪質なケースでは、事業者指定の取消し(事業の指定を取り消され営業継続不可になる処分)といった措置が取られる可能性があります。
また、市町村など行政側でもこのルールを周知徹底することになっています。利用者がサービス提供を拒否された場合には、その事業所の情報(連絡先等)を行政が把握できるようにして、違反を見逃さない体制を整えることが重要だとされています。要するに、勝手な理由で利用申込みを断れば行政に筒抜けになり、厳しいチェックと処分対象になるということです。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
利用申込みは基本断らない覚悟を!: サービス利用の申込みがあったら、原則全て受け入れる方針で臨みましょう。障害の重さや利用者の経済状況などで利用者を選別してはいけません。事前に十分な人員配置や設備を整え、どんな方でも受け入れられる準備が重要です。
正当な理由を理解し、判断は慎重に:定員オーバーや医療上の理由など、認められる正当事由以外での拒否はNGです。万一受け入れ困難な場合でも、他サービスの紹介や自治体への相談など速やかに対応しましょう。理由が正当か判断が迷うときは行政や専門家に相談すると安心です。
就労移行支援では特に公平な受入れを:実績評価が事業収入に影響するからといって、利用者を選ぶことはできません。全ての利用希望者に公平にチャンスを提供することが、結果的に事業の信頼性向上にもつながります。
ルール違反は事業継続に致命的:提供拒否の禁止は行政による実地指導のチェック項目でもあります。違反が発覚すれば行政処分のリスクがあり、最悪の場合事業が継続できなくなります。法令遵守(コンプライアンス)を最優先に、利用者本位の運営を心がけましょう。
【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。
