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独習 障害者支援施設等 指定基準 | 第三 指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準 3 運営に関する基準 (25)

害者支援施設における生産活動の工賃支払い基準をわかりやすく解説


記事の概要:
厚生労働省の通知に基づき、障害者支援施設で利用者が生産活動に従事する場合の「工賃(こうちん)」支払いの基準・ルールを解説します。やさしくシンプルな言葉でまとめ、事業運営上のポイントや注意点を紹介します。

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制度の目的と概要

障害者支援施設では、利用者の日中活動の一環として簡単な作業や生産活動が行われることがあります。これは、障害のある方に就労の機会や収入の機会を提供し、自立や社会参加を支援する目的があります。施設側は、地域のニーズに合った多様な作業の場を用意し、利用者それぞれの障害特性や能力に配慮して無理のない範囲で活動を提供するよう努めます。例えば、長時間の作業にならないよう休憩時間を確保したり、安全に配慮した設備を使ったりして、利用者に過度な負担がかからないよう工夫することが求められています。

こうした生産活動によって製品を販売したり請負作業をしたりすると、施設には収入が発生します。その収入の扱い方について示したのが今回の厚労省の通知です。ポイントは、施設が得た収益は利用者の工賃(賃金)として適切に分配すべきであり、施設が利益を抱え込んではいけないという考え方です。以下で、この工賃支払い基準の具体的な内容を見ていきましょう。

工賃支払いの義務と基準

生産活動収入は利用者に還元: 障害者支援施設で利用者が生産活動に従事して収入を得た場合、その収入から必要経費を差し引いた残り全てを、利用者に「工賃」として支払わなければならないと定められています。平たく言えば、材料費や光熱費などかかった経費を除いた利益は全額、作業に参加した利用者のお給料(工賃)になるということです。施設が収入を不当に蓄えることなく、働いた利用者にきちんと還元する仕組みです。

例えば、ある月に施設の生産活動で売上が10万円あり、材料費等の経費が6万円かかったとします。すると利益は4万円です。この4万円がそのまま工賃総額となり、参加した利用者に分配されます。参加人数が10人なら、一人あたり平均4,000円が支払われる計算です(実際の配分方法は施設の規程によります)。万一、経費を差し引いて利益がゼロかマイナス(赤字)の場合、他の財源を回して工賃を支払うことは制度上想定されていません。生産活動が赤字続きの場合は、工賃の計算方法や金額設定を見直す必要があります。これは、事業として収支が合わないほど無理に工賃を支払うのではなく、採算の取れる範囲で適正な工賃を支払うことを求めているからです。

工賃の最低額(平均月額3,000円)と例外規定

平均月額3,000円以上を確保: 障害者支援施設で就労継続支援B型に相当する活動を提供する場合、利用者一人あたりの工賃の平均月額が3,000円を下回ってはならないとされています。これは工賃の最低基準とも言える数字で、極端に低い工賃となることを防ぐ狙いがあります。言い換えると、施設全体で支払った工賃の総額を利用者数で割った一人当たり平均額が月3,000円以上になるように運営しなければいけません。3,000円という金額自体は決して高くありませんが、この基準を下回らないよう工賃水準の向上が求められます。実際、全国平均のB型事業所の工賃は月1万円以上と言われており(大阪府平均12,688円)、3,000円はあくまで最低ラインです。

例外的な計算方法: では、利用者の中に月に数日しか利用しない人がいる場合はどうでしょうか。出席日数がごく少ない利用者がいると、その人に支払われた工賃も少額になり、平均額が下がってしまう可能性があります。この点について通知では例外規定が設けられており、「利用日数が極端に少ないケースでは、行政(都道府県知事等)の判断で、その影響を除外した計算方法で平均額を算出してよい」とされています。簡単に言えば、週1回程度しか来られない利用者などがいる場合、平均額算定からその要因を調整できるということです。施設側は必要に応じて所轄庁と相談し、公平な方法で平均工賃額を算出しましょう。

工賃向上の指導: 先述の平均月額3,000円の基準に関連して、前年度の平均工賃が3,000円未満だった場合には、都道府県など行政から工賃アップに向けた指導が行われる仕組みです。この指導はペナルティではなく、工賃水準を引き上げるための助言や支援と考えてよいでしょう。事業者はこうした指導も踏まえ、製品の付加価値を高めたり販路を開拓したりして、利用者への工賃を少しでも増やせるよう工夫することが大切です。また、近年の報酬制度では工賃が高い事業所ほど評価される傾向にあり、工賃アップは利用者のためだけでなく事業所自身の経営安定にも繋がります。

工賃に関する届け出・通知の義務

工賃目標と実績の通知・報告: 工賃水準を向上させる取り組みの一環として、毎年度の工賃目標と前年度の工賃実績を利用者に通知し、行政へ届け出る義務があります。具体的には、年度当初に「今年度は平均月○○円の工賃を目指します」という目標工賃を定め、利用者全員に知らせます。同時に、前年度に実際支払われた平均工賃額も利用者に知らせます。これらの数字(目標と前年度実績)は、管轄の自治体(都道府県や政令市等)にも届け出て報告しなければなりません。利用者への周知は、個別通知のほか掲示板への掲示など事業所ごとに方法が定められていますが、重要なのは利用者に現状と目標をしっかり伝えることです。そうすることで利用者のモチベーション向上につながり、事業所も目標達成に向けた計画を立てやすくなります。

なお、工賃の目標設定や届出の具体的な方法については、厚労省の別途通知(平成19年4月2日付「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」)で詳しく示されています。事業者はこの通知も確認し、定められた様式や手順に従って毎年忘れず届出を行いましょう。

関連通知・会計処理の留意点

会計処理のルール: 工賃を適正に支払うには、収入と経費を正確に把握する会計管理も欠かせません。厚労省通知では、社会福祉法人が運営する施設の場合は「社会福祉法人会計基準」に準拠し、それ以外の法人の場合は「就労支援等の事業に関する会計処理の取扱い通知」に従って会計処理を行うよう求めています。要は、生産活動に関する収支をきちんと帳簿上区分し、工賃算出の根拠を明確に残すことが必要です。事業者は自施設の設置主体に応じた会計ルールを確認し、工賃に関する収入・支出を正確に記録しましょう。必要に応じて工賃規程(支払いルールを定めた内部規程)を整備し、利用者にもその内容を周知しておくと安心です。

事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

  • 工賃支払いの基本ルール: 生産活動で得た利益(収入-経費)は全額を利用者に工賃として支払う義務があります。施設が利益を留保することなく、適正に還元しましょう。万一赤字の場合は他収入の穴埋めではなく、事業の見直しが必要です。
  • 最低工賃額の確保: 工賃の平均月額が3,000円以上になるよう運営し、これを下回らないよう注意します。特に就労継続支援B型相当の活動を行う場合、この数値は最低ラインです。平均額が低迷している場合は、製品やサービスの工夫、作業効率アップなどで工賃向上に努めてください。
  • 例外的な算定と対応: 利用者の中に利用日数が極端に少ない方がいる場合、平均額算定の例外適用が可能です。必要に応じて所轄の自治体に相談し、適切な算定方法を採りましょう。平均工賃が基準未満の場合には行政から指導が入るため、改善計画を持っておくことも大切です。
  • 目標工賃の設定と報告義務: 毎年度、目標工賃を定め前年度実績とともに利用者へ通知し、行政にも届け出ることが求められます。届け出は年度ごとに必要なので忘れず実施してください。これら数値目標は事業運営の指標にもなるため、単なる事務作業でなく計画的な工賃アップの目安として活用しましょう。
  • 関連規程・会計管理: 工賃の計算方法や支払い方法については工賃規程を整備し、利用者に説明できるようにしておきましょう。あわせて、収支管理を徹底し帳簿を整備することが肝心です。会計ルールに沿って記録を残しておけば、実地指導や監査の際も安心です。

【免責事項】

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。