障害者支援施設における「実習」と「求職活動支援」
記事の概要:
本記事では、障害者支援施設の運営に関する指定基準のうち、第30条「実習の実施」と第31条「求職活動の支援等の実施」について解説します。
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第30条「実習の実施」とは何か
第30条では、障害者支援施設が行う「実習」について定めています。ここでいう実習とは、利用者が施設の外の企業やお店などで職場体験(インターンシップ)をすることです。施設は利用者ごとに「施設障害福祉サービス計画」という支援計画を作り、それに基づいて実習を行います。ポイントは以下のとおりです:
- 利用者に合った実習先を複数用意する: 利用者の体調や得意なこと、そして本人の希望に合った適切な実習先を一つではなく複数確保します。例えば、事務作業を希望する人にはオフィスでの実習先を、接客を希望する人には店舗での実習先を用意するといった具合です。複数の選択肢があることで、利用者は自分に合った職場を見つけやすくなります。
- 就労支援員が中心となって開拓する: 障害者支援施設では就労支援員などの職員が配置されており、この職員が中心となって実習先(受入先)の開拓に努めます。就労支援員は企業に協力をお願いしたり、ハローワーク等から情報を集めたりして、利用者が安心して実習できる場を探します。
- 関係機関と連携する: 実習先を確保するときは、施設だけで頑張るのではなく、公共職業安定所(ハローワーク)や障害者就業・生活支援センター、特別支援学校などとも連携して進めます。例えばハローワークの職員と相談し、地域の企業を紹介してもらうなど、専門機関の力を借りて実習先を見つけます。
- 実習中のフォロー: 利用者が実習をしている間、施設の職員がずっと付き添えない場合もあります。そのときは、実習期間中に毎日、利用者本人や受入先の企業担当者から様子を聞き取り、日報(その日の記録)を作成します。そして少なくとも週に1回は、その日報の内容をもとに支援計画を見直し、必要があれば支援内容を調整します。例えば、「作業ペースが速すぎて負担になっていないか?」「体調面で困っていることはないか?」といった点をチェックし、問題があれば企業側と調整したり支援方法を変えたりします。
第31条「求職活動の支援等」とは何か
第31条では、利用者が仕事を探す活動(求職活動)を施設が支援することについて定めています。就労移行支援等を利用して実習を経験した後は、いよいよ実際の就職活動に進みます。この条文により、障害者支援施設は利用者の求職活動を積極的にサポートする責任があります。具体的な内容は次のとおりです:
- ハローワークでの登録支援: 利用者が公共職業安定所(ハローワーク)で求職登録をするのを支援します。初めてハローワークに行く利用者も多いため、職員が同行して手続きを手伝ったり、必要書類の準備をサポートしたりします。
- 就職面接会や企業面接への参加支援: 障害者合同就職面接会(企業が集まって行う説明会・面接会)や、個別企業の採用面接などに参加する機会を提供します。例えば、地域で開催される就職面接会の情報を利用者に伝え、参加の申し込みを代行したり、当日会場まで付き添ったりします。個別企業を受ける場合も、応募書類の書き方を教えたり、面接日の調整を一緒に行ったりします。
- 就労支援員による必要なサポート: 求職活動がスムーズに行えるように、就労支援員などの職員が必要に応じて支援します。たとえば、面接前に模擬面接(練習)を行って受け答えの練習をする、仕事探しのスケジュール管理を手伝う、家族と連携して励ます、といったきめ細かなフォローをします。利用者が不安を感じている場合は相談に乗り、応募を迷っているときは一緒に企業情報を調べるなど、精神的な支えも提供します。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 就労支援員の配置とネットワークづくり: 就労支援員など専門スタッフをきちんと配置し、地域の企業やハローワーク等とのネットワークを構築しておきましょう。実習先の開拓や求人情報の入手には、人脈や情報共有が欠かせません。日頃から企業見学会への参加やハローワーク主催の説明会に顔を出すなど、信頼関係を築いておくとスムーズです。
- 利用者本位&複数プラン: 支援計画を作る際は利用者本人の希望を最優先に考えます。誤解しやすい点ですが、「実習や就職活動を無理に押し付けない」ことも重要です。条文でも「利用者の希望に応じた」とあり、嫌がっている人に一方的に実習を強要するものではありません。利用者が不安な場合は段階を踏んで提案し、興味のある分野から挑戦してもらいましょう。また、実習先は最初から一つに絞らず複数候補を準備することで、「合わなかった場合」のリスクに備えることができます。
- 記録・報告の徹底: 実習中の日報作成や週次での計画見直しなど、記録と報告のプロセスをルール化しておきます。誰がどの頻度で利用者の様子を確認し、記録を残すのかを明確に決め、職員間で情報共有します。例えば、「毎日○○担当が実習先に電話連絡し、結果を日報システムに記入。週1回チームでケース会議を行う」などの仕組みを作ります。記録が残っていれば、いざ行政から監査が入った際にも基準遵守を説明しやすくなります。
