障害者支援施設の運営規程(解釈通知⑥〜⑨)をやさしく解説
記事の概要:
この記事では、障害者支援施設の運営規程に定められる項目のうち、解釈通知⑥〜⑨について、やさしくシンプルに解説します。障害者支援施設は「指定障害者支援施設」として行政の指定を受けて運営される障害福祉サービス事業であり、運営するためには運営規程というルールブックを作成し、施設内で遵守しなければなりません。運営規程には全部で13項目の内容を含める必要がありますが、その全体像をまず以下の表にまとめます。
運営規程の必須項目(全13号)
この記事を読むことで、運営規程の中でも特に重要な「非常災害対策」「主たる対象障害の種類」「虐待防止の措置」および施設運営上の「望ましい取組」について、その内容や背景を正しく理解できます。
それでは、⑥〜⑨の各項目について順番に見ていきましょう。
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基準第10号:非常災害対策(非常時への備え)
非常災害対策とは、障害者支援施設で火災や地震などの災害が起きたときに被害を最小限にするための準備や計画のことです。施設では「非常災害に関する具体的計画」を定め、必要な設備を整え、非常時に速やかに消防署や警察など関係機関へ連絡できる体制を用意しておく必要があります。また、普段から職員にその計画を周知しておき、定期的に避難訓練や救出訓練を行うことも義務づけられています。例えば、施設には消火器やスプリンクラーなどの消防設備を備え、避難経路を確保します。そして年に何回か、利用者さんと職員が一緒に避難練習を行い、「非常ベルが鳴ったらどう動くか」「誰が利用者を誘導するか」など役割を確認します。こうした訓練を繰り返すことで、本当の災害時にも落ち着いて対処できるように備えるのです。
基準第11号:主たる対象とする障害の種類(サービスの対象者)
「主たる対象とする障害の種類」とは、施設が提供するサービスについて、特に中心的な対象とする障害の種類をあらかじめ定める場合のその障害区分のことです。障害者支援施設は本来、知的障害・身体障害・精神障害など障害の種類にかかわらず幅広く受け入れることが基本方針ですが、提供するサービスの専門性を高めるためにどうしても必要がある場合には、「うちの施設は○○障害の方を主な対象とします」と決めておくことも認められています。たとえば医療的ケアが必要な肢体不自由の方を専門に受け入れる施設や、自閉症の方に特化した支援プログラムを用意した施設などが該当します。ただし、このように主たる対象者を定めた場合、その対象となる障害のある方から利用の申し込みがあったときには、施設は原則として受け入れを拒んではならない(=応諾義務)とされています。逆に言えば、主たる対象に当てはまらない障害種別の方であっても、空きがあれば柔軟に受け入れること自体は差し支えありません。
基準第12号:虐待防止の措置(虐待を防ぐしくみ)
「虐待防止のための措置」とは、施設利用者に対する虐待を未然に防止し、万一発生した場合に適切に対応するための取り組みを指します。障害者支援施設では、この虐待防止策について運営規程の中に定めておかなければなりません。法律上も「障害者虐待防止法」という法律で、障害者への虐待を予防する対策や虐待が起きてしまった場合の対応手順が規定されています。障害者支援施設においては、そうした対策をより確実なものにする観点から、利用者に対する虐待を早期に発見し、迅速かつ適切に対応するための措置をあらかじめ運営規程に盛り込むことが義務付けられているのです。
具体的に施設で講じる虐待防止の措置としては、例えば以下のようなものがあります:
- 虐待防止委員の配置: 施設内で「虐待防止に関する責任者(担当者)」を決め、虐待の兆候把握や職員研修の計画などの中心役を担わせる。
- 成年後見制度の活用支援: 判断能力が不十分な利用者について、必要に応じて成年後見制度(利用者の権利や財産を守る仕組み)の利用を支援し、経済的・精神的な虐待を防止する。
- 苦情解決体制の整備: 利用者や家族からの苦情や相談を受け付け、公正に対応する窓口(第三者委員を置くなど)を設けておく。
これらは一例ですが、要するに利用者の人権を守り安全・安心にサービスを利用してもらうための仕組みをあらかじめ準備しておくことが求められるわけです。職員による暴力や暴言はもちろん、利用者同士のトラブルも虐待につながる場合があります。そうした事態を未然に防ぐため、定期的に職員研修を行って倫理意識を高めたり、利用者の悩みを早期に察知する相談体制を整えたりすることが大切です。
基準第13号:望ましい取組(積極的に推奨される努力)
第13号の「望ましい取組」とは、法律で義務とはされていないものの、障害者支援施設の質の向上のために積極的に行うことが望まれる取り組みのことです。運営規程の必須項目ではありませんが、厚生労働省の通知などで各施設に推奨されている事項がいくつかあります。言い換えると、施設運営におけるプラスアルファの自主的な取り組みです。
障害者支援施設に関する基準は必要最低限のラインですが、事業者は常にサービスの向上に努める義務があります。その一環として、例えば以下のような自主的取組が望ましいとされています。
身体拘束ゼロへの取り組み: 障害者支援施設では利用者の行動を制限する身体拘束(例:ベッドに縛る、閉じ込める)は原則禁止ですが、どうしても緊急やむを得ない場合に限り一時的に行われることがあります。望ましい取組として、身体拘束を可能な限り無くすための委員会やチェック体制を設け、職員全員で代替手段を検討することが奨励されています(この取り組みは令和4年度から義務化されました)。
地域生活拠点等に関する記載:障害者支援施設が「地域生活支援拠点等」として自治体から指定されている場合には、その旨も運営規程の中で明記する必要があります。地域生活支援拠点等とは、障害のある人が地域で安心して暮らし続けられるよう、相談支援、緊急時の受け入れ、一時的な体験利用、専門職による助言や支援、地域全体のネットワークづくりなど、いくつかの重要な機能を分担して担う仕組みです。施設がこの拠点等に該当する場合は、どの機能を担っているか(たとえば、緊急一時受入や体験利用、相談支援など)、満たしている役割を運営規程の中に具体的に記載しなければなりません。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 非常災害対策の計画策定と訓練実施: 消防設備・避難経路の整備、非常時連絡網の構築、年2回程度の避難訓練の実施を確実に行う。計画は文書化して職員に周知し、いざという時すぐ対応できるよう備える。
- 虐待防止の体制整備: 虐待防止責任者の配置、虐待防止委員会の設置、苦情受付窓口の明示など、利用者の人権を守る仕組みを運営規程に明記。職員研修を通じて虐待の兆候に早く気付く感度を養う。
- 主たる対象障害の明示(必要な場合): 特定の障害分野に特化する場合でも、対象外の障害の方を不当に排除しないよう留意する。主たる対象を決めたら、その障害の方からの申込みは原則断らないこと(応諾義務)。
- 法定外の望ましい取組への対応: 法令基準を満たすだけで安心せず、さらに一歩進んだ取組を行う。虐待防止指針の策定、身体拘束ゼロ運動、感染症・災害時の業務継続計画(BCP)策定、カスハラ対策マニュアル整備など、ガイドラインで推奨される事項にも可能な範囲で着手する。
【免責事項】
