障害者支援施設のハラスメント対策義務をやさしく解説
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障害者支援施設など障害福祉の現場では、職員に対するハラスメント(嫌がらせ)を防ぐ取り組みがとても重要です。上司や同僚からのパワハラ(パワーハラスメント)やセクハラ(セクシュアルハラスメント)だけでなく、利用者やその家族から職員へのいわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)も大きな問題となっています。こうした背景から、障害者支援施設の指定基準においても職場のハラスメント対策が義務化され、事業者は適切な職場環境を維持する責任を負います。本記事では、この指定基準第42条第4項に関する通知の内容をやさしくシンプルに解説し、障害福祉サービス事業者や起業を目指す方が押さえておくべきポイントをまとめます。
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制度趣旨:なぜハラスメント対策が必要なのか?
障害者支援施設の職場でハラスメント対策が義務付けられた背景には、職員が安心して働ける環境を整えることが利用者への質の高いサービス提供につながるという考え方があります。職員がパワハラやセクハラを受けて疲弊したり、人間関係のストレスから離職してしまったりすると、結果的に利用者への支援にも悪影響が出てしまいます。そこで政府は法律を整備し、全ての事業者に対して職場のハラスメント防止措置を講じることを求めました。障害福祉分野も例外ではなく、障害者総合支援法に基づく指定障害者支援施設等の運営基準(指定基準)にも、このハラスメント対策義務が明記されたのです。
基準第42条第4項で求められる具体的な対応措置
指定基準第42条第4項により、障害者支援施設の事業者(雇用主)は職場におけるセクハラ・パワハラを防止するための雇用管理上の措置を取らなければなりません。通知文では、この義務を踏まえ事業者が講ずべき具体的措置を次のように示しています。内容を平易に整理すると、主に以下の2つの柱があります。
- ハラスメント防止の方針を定め周知すること – まず事業者は、「職場でハラスメントを行ってはならない」という明確な方針(ルール)を定め、全ての職員に周知・啓発する必要があります。例えば就業規則や職員ハンドブックに「パワハラやセクハラは禁止」と明記し、研修やミーティングで繰り返し伝えるといった取り組みが求められます。職員一人ひとりがハラスメントの具体的な内容(どんな言動がパワハラ・セクハラに当たるのか)を理解し、「してはいけない」ラインを共有することが大切です。
- 相談窓口の設置と対応体制の整備 – 次に、ハラスメントに関する職員からの相談や苦情に適切に対応するための窓口をあらかじめ設置することが求められます。具体的には、「ハラスメント相談担当者」を決めておき、もし職員が被害を受けたり見聞きしたりした場合に安心して相談できる窓口を社内に用意します。小規模な事業所では社内に専門部署を作るのは難しいかもしれませんが、管理者や信頼できるベテラン職員を相談役に任命したり、場合によっては外部の相談機関(社会保険労務士や産業医等)と連携すると良いでしょう。大事なことは、「困ったときはここに相談すればきちんと対応してもらえる」という体制を職員に周知しておくことです。
なお、実際に相談が寄せられた場合には速やかに事実関係を確認し、必要に応じて加害行為者への指導・処分、被害を受けた職員のケア(配置転換やメンタルヘルス支援など)を行うことになります。相談者や被害者が不利益を受けないよう配慮すること(報復の禁止、プライバシー保護)も、当然ながら重要なポイントです。これらは通知文に直接書かれていなくても、厚生労働省のガイドラインに定められている基本事項ですので、事業者としてしっかり押さえておきましょう。
さらに通知文では、「セクシュアルハラスメントには上司や同僚だけでなく利用者やその家族等から受けるものも含まれる」と注意喚起されています。つまり、障害福祉の現場では職員同士だけでなく利用者やご家族からの性的嫌がらせもセクハラに当たることを認識し、防止策を講じる必要があるということです。例えば、利用者さんから過度なボディタッチや暴言があった場合、黙って耐えるのではなく上司に報告・相談する、といったルール作りや対応訓練も求められます。
望ましい取組:現場でさらに進めたいハラスメント対策
上記の措置は最低限講じるべき義務的な対策ですが、通知文では続けて「事業者が講じることが望ましい取組」についても言及されています。特に近年問題視されているのが、利用者やその家族から職員への著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応です。厚生労働省のパワハラ防止指針でも、顧客等からの迷惑行為の防止策として事業者が配慮すべき取り組み例が挙げられており、通知文でもそれを参考にするよう促しています。望ましい取組の例をわかりやすく紹介すると、次の3点がポイントです。
- 相談対応体制の更なる充実 – カスハラに関しても、被害に遭った職員が適切に相談・報告できるよう体制を整えておくことが大切です。先述のハラスメント相談窓口で利用者や家族からの嫌がらせについても受け付け、必要に応じて管理者が対応にあたります。日頃から「困ったら必ず相談する」文化を作り、現場で一人で抱え込まないようにしましょう。
- 被害者への配慮(サポート) – 万が一カスハラ被害が発生した場合、被害に遭った職員の心身のケアに努めます。例えば、精神的にショックを受けている職員には産業カウンセラーや専門医に繋ぐ、同じ加害者(迷惑行為をする利用者等)への対応を決して一人に任せない(複数職員で対応する、男性職員と女性職員をペアにする等)といった配慮が考えられます。現場で働く人の安全と健康を最優先に、柔軟な対応を検討してください。
- 被害防止のための取組(予防策) – 日頃からカスハラを予防するためのルールや手順を定めておくことも重要です。例えば、利用者や家族とのトラブル対応マニュアルを作成し、「暴言が続く場合は面談を複数名で行う」「明らかな悪質クレームには管理者が対応し、場合によっては利用契約の見直しも検討する」といった手順を決めておきます。また職員向け研修で、想定されるハラスメント事例(利用者からのセクハラ発言など)と適切な対処法をシミュレーションしておくのも有効です。業種・業態に応じて工夫できる予防策は積極的に取り入れ、「ハラスメントを起こさせない職場作り」を目指しましょう。
以上のように、障害福祉の現場におけるハラスメント対策では義務的な基本措置と望ましい追加取組の両面からアプローチすることが推奨されています。厚生労働省も「障害福祉の現場におけるハラスメント対策マニュアル」や職員向けリーフレットを作成し、各事業所で活用できる資料を提供しています。ぜひこれらも参考に、自社の職場環境を守る対策を検討してみてください。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- ハラスメント対策は法律上の義務:障害者支援施設の指定基準でハラスメント防止策の実施が明確に求められており、規模の小さい福祉事業者であっても対応が必要です。怠ると行政指導の対象になり得るため、開業前に就業規則やマニュアルでしっかりルール化しましょう。
- 職員が安心して働ける環境づくり:パワハラ・セクハラを許さない職場方針を示し、相談しやすい窓口を設置して、問題発生時には迅速に対処する体制を整えます。ハラスメントのない職場は職員定着にもつながり、結果的に利用者にも質の高いサービスを提供できます。
- 利用者や家族からのハラスメントにも備える:福祉現場では利用者やそのご家族によるカスハラも起こり得ます。現場スタッフを守るために、迷惑行為への対処方法をあらかじめ決めておき、必要に応じて複数名での対応やサービス利用の見直しなども検討できる体制を作っておきましょう。
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