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独習 障害者支援施設等 指定基準 | 第三 指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準 3 運営に関する基準 (39) 

害者支援施設の業務継続計画(BCP)策定義務:感染症対策と災害対応のポイント


記事の概要:
障害者支援施設では、地震や台風などの災害や新型コロナウイルスのような感染症が発生しても、福祉サービスを安定的に提供し続けることが求められます。こうした非常時に備える「業務継続計画(BCP)」の策定は、福祉事業のリスク管理において非常に重要です。国はこの必要性に鑑み、令和6年(2024年)4月からすべての障害者支援施設に対し業務継続計画の策定を義務付けました。BCPとは、災害や感染症発生時でも事業を止めずに障害者支援施設のサービスを継続・早期再開するための計画のことです。利用者である障害者の生命と生活を守ることが目的であり、BCPには平常時の備えから緊急時の感染症対策・災害対応までを網羅する必要があります。適切なBCPを作成し日頃から訓練しておくことで、有事の際にも利用者が安心してサービスを受け続けられる体制を整えることができます。

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業務継続計画(BCP)の具体的な作成手順と実践ポイント

厚生労働省の通知「業務継続計画の策定等」(基準第42条の2)では、障害者支援施設に対し次のようなポイントが定められています。

  • BCPの策定と訓練の義務:すべての指定障害者支援施設は、感染症や災害が起きてもサービス提供を継続できるように業務継続計画(BCP)を策定し、従業員に必要な研修や訓練(シミュレーション)を行わなければなりません。非常時でも途切れない支援体制を作ることが目的で、作成した計画に基づき職員全員が適切に動けるよう訓練します。なお、BCPの策定や訓練は施設単独でも他の事業者と協力して行っても構いません。訓練の際は全職員が参加できるようにし、有事に備えます。
  • BCPに盛り込むべき内容:業務継続計画には「感染症発生時に備えた計画」と「災害発生時に備えた計画」の2つを用意し、それぞれ以下のa~cの項目を含めることが求められています(感染症と災害を一体の計画としてまとめても差し支えありません)。以下に感染症に係るBCPと災害に係るBCPの項目を対応表でまとめます。


項目 (a~c)感染症に係るBCPの内容災害に係るBCPの内容
a. 平時からの備え日頃からの体制づくり・整備、感染予防策の徹底、マスクや消毒液など必要物資の備蓄などを行う。平常時に建物や設備の安全対策を講じ、停電・断水などライフライン停止への備え、非常食や物資の備蓄などを行う。
b. 初動対応感染疑い者や感染者が出た際の初期対応。速やかに感染拡大防止策を実行し(例:保健所へ連絡、濃厚接触者の特定、関係者への周知)、施設内の感染封じ込め体制を敷く。災害発生直後の緊急対応。被害状況の確認、安全確保と避難誘導を行い、あらかじめ決めた基準に従ってBCPを発動する。職員間で役割分担し、利用者の安全確保と必要な支援の提供を開始する。
c. その後の対応
(
感染症の場合)
感染拡大防止体制の確立

(
災害の場合)
他施設・地域との連携
感染拡大防止のための体制づくり。保健所や医療機関と連携しながら感染の広がりを防ぎつつ、限られた人員でサービス提供を継続する方法を定める。状況が落ち着いた後の業務再開手順や利用者支援の継続方法も計画しておく。地域や他施設との協力体制の確立。近隣の福祉施設や自治体と連携し、応援職員や物資の支援を受けられるようにする。災害後は被害状況に応じて他機関とも協力しながら復旧を進め、利用者へのサービス提供を継続・早期再開できるよう計画しておく。


上記のように、感染症対策と災害対応それぞれについて「平常時の備え」「発生直後の対応」「事後の継続対応」の段階に分けて計画を立てることが重要です。たとえば感染症BCPでは、平時からマスク等を備蓄し感染予防策を講じ、万一施設内で感染者が出た場合は直ちに保健所と連携して隔離等の初動対応を行い、その後もサービスを止めない体制を整えます。同様に災害BCPでは、日頃から避難経路の確認や備蓄を行い、災害発生時は速やかに安否確認や避難支援を行い、必要に応じて他施設や行政と協力して支援を続けます。このようにBCPには具体的な手順や役割分担をあらかじめ明記し、職員全員に共有しておくことが求められます。

職員研修と計画の周知:策定したBCPは「作って終わり」ではありません。全職員に対して定期的に(少なくとも年2回以上)、BCPの内容や緊急時対応についての研修や訓練(シミュレーション)を実施することが法的義務です。また、新たに職員を採用した場合は別途研修を実施することが望ましい(努力義務)とされています。この研修や訓練は、感染症の予防・災害対策に関する他の研修と一体的に実施しても構いません。

訓練については、「机上訓練」と「実地訓練」を適切に組み合わせて実施することが推奨されています。つまり、ただマニュアルを読むだけの研修や机上のやりとりだけで終わらせるのではなく、実際に動いてみる訓練(実地)と、状況を想定して全員で流れを確認する訓練(机上)の両方を組み合わせて実施するのが、現場で本当に役立つBCP運用のポイントです。

事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

  • BCP策定は義務であり経営リスク対策:業務継続計画の策定は法律上の義務であり、怠ると2025年4月から報酬が1%減算されるペナルティがあります。したがってBCP未策定は経営上のリスクです。必ず感染症・災害それぞれの計画を用意し、所管行政への届出やWAMネットへの情報公表も忘れずに行いましょう。義務だから仕方なく作るのではなく、BCPは事業を守る保険だと捉えて前向きに取り組むことが大切です。
  • 実効性のある計画を立て定期的に見直す:BCPは単なる書類ではなく、非常時に本当に機能する内容であることが重要です。机上の計画にならないよう、シンプルで実行可能な手順を盛り込みましょう(難しいことを盛り込みすぎず、「誰が」「いつ」「何をするか」を明確にします)。策定後は定期的に訓練を行い、計画の不備をチェックして改善します。例えば地域の防災訓練や他施設との合同訓練に参加し、地域との連携強化にも努めると良いでしょう。BCP策定をきっかけに日頃から職員同士や他機関との連携体制を築いておけば、いざという時にスムーズに対応できます。
  • 利用者の安全と事業継続を両立させる視点:障害者支援施設のBCPで最も大切なのは、利用者の命と暮らしを守りつつ事業を継続することです。非常時には職員も混乱しがちですが、誰も置き去りにしない仕組みを平時から準備しておく必要があります。避難訓練や感染症発生時のシミュレーションを通じて、職員全員が自分の役割を理解し行動できる体制を作りましょう。BCPには利用者一人ひとりに必要な支援や連絡体制も盛り込み、緊急時でも安心して過ごせる環境を確保します。結果として、利用者から信頼され選ばれる施設運営にもつながります。

【免責事項】

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。