障害者支援施設の定員超過とその基準をわかりやすく解説
記事の概要:
このブログ記事では、障害者支援施設の運営基準で定められた「定員の遵守」について解説します。なぜ定員を守る必要があるのか、どういう場合に定員超過(定員を上回る利用者の受け入れ)が認められるのかを、やさしくシンプルに説明します。最後に、実際に事業を運営する人やこれから起業を目指す人向けに、このルールが事業計画や日々の運営でどのように影響するか、注意すべきポイントを紹介します。
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定員の遵守とは?その趣旨と例外
「定員の遵守」とは、障害者支援施設などの事業所がサービスごとに定めた利用定員を超えて利用者を受け入れないようにするルールです。これは利用者に対して適切なサービス提供を行い、安全や支援の質を確保するために設けられています。定員を大きく超えてしまうと、スタッフの数や設備が足りず、十分な介護や支援ができなくなる恐れがあるため、まず原則として「定員を守る=定員を超えて人を受け入れない」ことが基本です。
もっとも、現場では「どうしてもこの人を受け入れたいが定員がいっぱいだ」という状況が起こりえます。例えば、地域に他の受け入れ先がなく新規の利用者を引き受ける必要がある場合など、やむを得ない事情があるときです。このような場合には、一定の条件付きで例外的に定員超過が認められることになっています。ただし、その場合でも「適正なサービスの提供が確保されること」が前提条件です。つまり、受け入れる側の施設が必要な職員配置や設備を整え、利用者全員にきちんとケアできる体制を維持していることが求められます。
では、具体的にどの程度まで定員を超えて利用者を受け入れることができるのでしょうか?以下では、昼間に行うサービス(生活介護等)と、夜間の施設入所支援サービスそれぞれについて、厚生労働省の運営基準で定められている定員超過の上限を解説します。ポイントは1日あたりの利用者数と、過去3か月間の平均利用者数に関する制限の2つです。それぞれ利用定員が「50人以下」なのか「51人以上」なのかで基準が異なりますので、分かりやすく整理してみましょう。
昼間実施サービスの定員超過基準
障害者支援施設が提供する昼間のサービス(例:生活介護や就労継続支援B型などの通所系サービス)では、運営基準によって以下のような定員超過の条件が定められています。
- 1日あたりの利用者数の上限: 利用定員が50人以下の場合は、定員の150%まで受け入れることが可能です。定員が51人以上の施設では、「定員超過分」についてはやや厳しい基準となり、50人を超えた部分については定員の125%相当までしか受け入れできません。簡単に言うと、定員51人以上では定員が大きくなるほど超過できる割合が下がる仕組みです。具体的な算定は少し複雑ですが、「定員が50人を超える場合、その超過している人数部分の125%に、50人分の150%(=75人)を加えた人数」が1日あたりの上限になります。下の表にまとめたので参考にしてください。
- 過去3か月間の利用者数(延べ数)の上限: 定員超過は一日のみならず、長期間で見ても頻繁に起こらないよう平均利用人数にも制限があります。過去3か月間の合計延べ利用者数(※各開所日の利用者数の合計)が、「定員 × 開所日数 × 125%」以内に収まっている必要があります。これは「3か月間の平均利用者数が定員の125%以内」という意味です。例えば定員が40人で3か月(おおむね90日)営業した場合、延べ利用者数の上限は 40人×90日×125% = 4,500人 となります。1日平均に直すと約50人までです。なお定員が11人以下の小規模な事業所については特例があり、「定員に+3人した人数」を基準に計算します。例えば定員10人の事業所なら、10+3=13人を基準として過去3か月の平均を算出します。小さい施設では利用者が数人増えるだけでも割合的に大幅超過となりやすいため、+3人までは見逃す緩和措置と考えるとよいでしょう。
以下に昼間サービスにおける定員超過の許容範囲をまとめた表を示します。左列が施設の利用定員とその規模区分、中央列が1日あたり受け入れ可能な最大利用者数、右列が過去3か月間で受け入れ可能な延べ利用者数(平均人数)の上限です。
上記の計算例を補足します。例えば利用定員が20人の生活介護事業所では、1日あたり最大で30人まで受け入れ可能です(20×150%=30)。一方、利用定員が60人の大規模事業所では、1日あたりの上限人数は次のようになります。まず定員60人のうち最初の50人分は150%までなので75人、その後の超過分10人については125%までなので12.5人です。合計すると87.5人となり、小数点以下は実際には切り捨てて87人まで受け入れ可能という計算になります(※規定上は「…得た数以下」となっており、小数点は発生しないよう調整されます)。また、過去3か月間(約90日間)の利用者延べ数は、定員60人の場合60×90×125% = 6,750人が上限です。1日平均に直すと75人/日までとなり、先ほどの1日上限87人より低い数字になります。このように長期間で見ても平均125%を超えないよう運営する必要がある点に注意が必要です。
施設入所支援の定員超過基準
次に、障害者支援施設で提供される夜間の施設入所支援サービスにおける定員遵守と定員超過の基準です。施設入所支援とは、施設に入所する障害者に対して主に夜間に行う介護(入浴・排せつ・食事の介助など)サービスのことで、いわば「宿泊部分」の支援と考えられます。こちらも昼間サービス同様、1日あたりの利用者数と過去3か月間の平均利用者数について上限が定められています。
- 1日あたりの利用者数上限: 利用定員が50人以下の施設入所支援では、定員の110%まで受け入れ可能です。つまり定員いっぱいのところにさらに1割程度、多くても数人の余裕しかない計算です。定員が51人以上の場合は、昼間サービスと同様に50人を超えた部分について割合が下がり、超過部分は定員の105%までと定められています。換言すると、定員が大きい施設ほど一日の超過受け入れ余地は相対的に小さいということになります。具体的には「50人分は110%(=55人)、残りの(定員-50人)分は105%相当を加えた人数」が上限です。
- 過去3か月間の利用者数(延べ数)の上限: 施設入所支援では、過去3か月の延べ利用者数が「定員 × 開所日数 × 105%」以内である必要があります。平均すると定員の105%(1.05倍)までということです。昼間サービスよりも厳しく見えるのは、夜間の居住支援では安全確保のために定員超過を最小限に抑える趣旨と考えられます。小規模施設に対する特例(定員+3人基準)は施設入所支援には明記されていません。したがって定員が10人だろうと50人だろうと、平均105%という共通の制限となります。
以下に施設入所支援サービスにおける定員超過の許容範囲を表に整理します。
こちらも計算例を挙げてみます。利用定員が50人の入所施設では、1日あたり最大55人まで受け入れ可能です(50×110%=55)。利用定員が80人の大型施設では、まず最初の50人分で55人、残り30人分については105%までなので31.5人となります。合計すると86.5人で、小数点以下切り捨てで86人が1日の受け入れ上限になります。過去3か月間(約90日)の延べ人数は、定員80人の場合80×90×105% = 7,560人が上限です。1日平均にすると84人ほどまでとなり、やはり1日あたり上限(86人)より低めの水準になります。施設入所支援では平均105%以内に収める必要がある点を覚えておきましょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 定員設定と計画運営: 事業開始時に設定した利用定員は、その施設の人員配置や設備面積に基づき許可された上限です。日々の運営で利用希望者が増えても、安易に定員を超えて受け入れないよう計画しましょう。慢性的に定員以上のニーズがある場合は、役所に相談して定員増加(増床)の手続きを検討することが必要です。無届での定員超過は基準違反となり、行政処分の対象にもなり得ます。
- 一時的な受け入れ拡大の対応: やむを得ない事情で一時的に定員超過で受け入れる場合は、必ず提供するサービスの質が確保できる範囲内で行ってください。追加の利用者に対して十分な職員体制(例:非常勤職員の配置や残業対応など)を整え、事故や支援不足が起きないよう注意します。また、定員超過が発生した場合は事後に自治体へ報告を求められるケースもあります。記録を残し、なぜ受け入れが必要だったのか理由を説明できるようにしておくと良いでしょう。
【免責事項】
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