指定障害者支援施設の感染対策委員会と感染症予防指針をわかりやすく解説
記事の概要:
本記事のテーマは、指定障害者支援施設における「感染対策委員会の設置」および「感染症・食中毒予防指針の策定」です。これは施設の衛生管理に関する基準(基準第45条)の重要な項目であり、利用者や職員を感染症から守るために欠かせない取り組みです。特に近年、新型コロナウイルスの流行などを受けて福祉施設でも感染症対策の強化が求められており、この基準内容は事業者にとって非常に重要です。この記事では、法律の条文に基づきつつ、指定障害者支援施設の経営者やこれから開業を目指す方に向けて実務的にやさしくシンプルに解説します。
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衛生管理の基準と指定障害者支援施設とは
まず前提として、指定障害者支援施設とは障害者総合支援法に基づき都道府県知事などから指定を受けてサービスを提供する入所施設のことです。そこで働く職員や暮らす利用者が日々安心して過ごすには、衛生管理がとても大切になります。基準第45条「衛生管理等」では、施設に対し職員の清潔保持や健康管理に努め、手洗い設備や使い捨て手袋など感染予防のための備品を用意することなど、感染症を広げないための対策を求めています。こうした衛生管理の一環として義務付けられているのが、「感染対策委員会」の設置と「感染症及び食中毒の予防・まん延防止のための指針」(以下、感染症予防指針)の策定です。
感染対策委員会の設置とは何か?
感染対策委員会とは、施設内で感染症や食中毒を予防し、その発生や拡大を防ぐための対策を話し合うための委員会です。指定障害者支援施設ごとにこの委員会を設け、施設長(管理者)をはじめ、事務担当責任者、医師・看護師、生活支援員、栄養士・管理栄養士など様々な職種の職員がメンバーとして参加します。委員会メンバーそれぞれの役割や責任分担を明確に定め、さらにその中から専任の感染対策担当者(感染症対策を専門に取りまとめる担当者)を決めておくことになっています。感染対策担当者には、できれば看護職員など感染症対策の専門知識を持つ人が就くことが望ましいとされています。また、必要に応じて施設の外部から感染症管理の専門家(例えば感染症に詳しい医師や保健所の職員)を委員に加えることも推奨されています。こうした体制を整えることで、施設内の感染予防策が実効性のあるものになります。
では、この感染対策委員会は具体的にどのように運営するのでしょうか。ポイントの一つは定期的な開催です。委員会は施設の入所者の状況や季節による流行リスクなどを考慮し、おおむね3か月に1回以上は定期的に開かれる必要があります。例えば四半期ごとに1回のペースで会議を開き、インフルエンザが流行しやすい冬場などは状況に応じて臨時で開催するといった具合です。会議では、職員の健康チェック状況や手洗い・消毒の徹底状況、施設内の清掃・換気の状態など日頃の衛生管理について話し合います。また、新たな感染症への対応策を検討したり、近隣で食中毒事故が発生した際の情報共有を行ったりします。委員会で検討した結果は職員全体に周知し、みんなで共有することも大切です。なお、委員会は原則として独立して設置・運営することが求められていますが、メンバーや議題が重なる場合には他の会議と一体的に開催しても差し支えないとされています。たとえば小規模な施設で、すでに衛生管理に関する話し合いを行う場があるなら、それと合同で感染対策委員会を運営しても良いという意味です。ただしその場合でも、感染対策委員会として定められた内容がしっかり話し合われ、記録されるようにしましょう。必要に応じてオンラインの会議システム(テレビ電話装置など)を活用して開催することも可能です。以上が感染対策委員会の概要です。言い換えれば、施設内に「感染症対策チーム」を作り、定期的に話し合って備えることが法律で義務付けられているのです。
感染症・食中毒予防指針の策定とは何か?
次に、感染症予防指針(感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための指針)の策定について説明します。この指針とは、一言でいうと「施設における感染症や食中毒を防ぐためのルールブック」です。施設ごとに、この指針を書面で作成し備えておかなければなりません。指針には大きく分けて、平常時の感染予防策と感染症や食中毒が発生した場合の対応策の2つを定めておく必要があります。
平常時の対策とは、普段から施設内で行う感染症や食中毒の予防策です。例えば施設内の衛生管理として、部屋や設備を清潔に保つこと(環境整備)、排泄物の適切な処理、利用者の嘔吐物や血液・体液を扱うときの処理方法などが含まれます。また、日常のケアにおける感染予防策も重要です。具体的には、職員が利用者の血液・体液・分泌物・排泄物(便など)に触れるとき、また傷口のある皮膚に触れるときにどうするか、といった標準的な予防策(スタンダードプリコーション)のルールを定めます。例えば使い捨て手袋やマスクを着用する手順、皮膚の消毒方法などです。さらに手洗いの基本(石けんによる手洗いのタイミングや正しい方法)や、早期発見のための日常的な観察項目も指針に盛り込みます。観察項目とは「利用者に発熱やせきがないか毎日チェックする」など健康状態の確認ルールです。これら平時の取り決めを職員皆で理解し実践することで、感染症や食中毒の発生自体を防ぐことができます。
一方、発生時の対応とは、万一施設内で感染症患者や食中毒が発生してしまった場合にどう対応するかを決めておくものです。指針には、まず発生状況の把握(何人にどんな症状が出ているか等の確認)や感染拡大の防止措置(該当者の隔離、消毒の徹底など)について書きます。次に、近隣の医療機関への受診や連携も重要です。必要に応じて利用者を病院に受け入れてもらったり、医師の指示を仰いだりします。また、保健所や市町村の担当部署(施設を所管する課など)へ速やかに報告・相談し、公衆衛生の観点で指示を仰ぐことも欠かせません。このように行政への報告手順を指針で決めておくことで、いざという時に迷わず行動できます。さらに、施設内の連絡体制も指針で明確にします。例えば「誰が責任者となって職員に情報を周知するか」「家族への連絡は誰が行うか」といったことです。加えて、前述の保健所や医療機関など外部の関係機関への連絡先一覧を用意し、緊急時にすぐ連絡できるよう整備しておきます。指針にはこうした発生時対応の手順をできるだけ詳しく書いておき、非常時の行動マニュアルとして機能させます。
作成した感染症予防指針は、職員みんなに周知徹底し、必要に応じて訓練(シミュレーション)も行っておくことが望ましいでしょう。例えば年に1回は指針の内容に沿った研修を行い、新人職員にも入職時に指針を教えるようにします(研修の実施自体は別途基準で定められた義務ですが、指針を実効性あるものにするために重要です)。また指針の内容は、国が公表しているガイドラインや手引きを参考に検討することもできます。厚生労働省からは「障害福祉サービス施設・事業所職員のための感染対策マニュアル」など実務に役立つ資料が提供されています。それらを活用しつつ、自施設の実情に合った指針を作り上げると良いでしょう。一度作って終わりではなく、内容は定期的に見直し、例えば新しい感染症の流行時には最新の知見を取り入れて改訂することも大切です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 感染対策委員会の設置義務:指定障害者支援施設では、感染症や食中毒を防ぐための「感染対策委員会」を設置することが法律上の義務です。施設長や看護職員など複数の職種を交えて構成し、専任の感染対策担当者を必ず決めます。委員会はおおむね3か月に1回以上、定期的に開催し、感染症の流行期などは臨時に開くことも想定されています。必要に応じて外部専門家の参加も認められています。
- 感染症予防指針の策定義務:各施設では、感染症および食中毒の予防・まん延防止のための「指針」(ルールブック)を必ず作成しなければなりません。この指針には、平常時の衛生管理や感染予防策、万一感染が発生した場合の対応手順、関係機関への連絡方法などを具体的に盛り込みます。作成した指針は、全職員に周知し、定期的に見直すことが求められます。
【免責事項】
