共同生活援助における利用者負担額等の受領とは?制度の趣旨と実務対応の解説
記事の概要:
利用者負担額の基本ルール
グループホーム(共同生活援助)を提供する際の基本ルールは、まずサービス利用者から利用者負担額をきちんと受け取ることです。利用者負担額とは、そのサービスにかかる費用の一部を利用者が自己負担する分のことで、通常は総費用の1割程度(原則1割負担)に当たります。ただし所得などにより負担上限額が設定されている場合や負担が0円になる場合もありますが、基本的には他の障害福祉サービスと同じように決められた自己負担分を利用者に支払ってもらう必要があります。利用者負担額以外に受領できる費用の範囲と注意点
グループホームの事業者は、利用者負担額のほかにどのような費用を利用者から受け取ることが認められているのでしょうか? 基準となる省令や通知では、グループホームで提供される日常生活上のサービス(「便宜」といいます)に要する実費について、以下のような費用であれば利用者から受け取ることができると定められています。- 食材料費:食事の提供にあたり必要となる食材や調味料等の費用です。利用者の食事に使う食材の実費に相当します。
- 家賃:グループホームで生活するための居住費用です。建物の賃料(または減価償却相当額など)、共用部分の維持費等、居住にかかる適正な額が該当します。
- 光熱水費:電気・ガス・水道などの光熱水道費です。共同生活住居で日常生活を営む上で各利用者が負担すべき水道光熱費の実費相当分です。
- 日用品費:日常生活に必要な消耗品や身の回り品の費用です。例えば、トイレットペーパーや洗剤、利用者個人が日常使う歯ブラシ・石鹸など、日々必要となる物品の実費です。
- その他の日常生活費:上記に挙げたもの以外で、グループホームの提供する日常生活上のサービスに伴って必要となる費用のうち、「日常生活においても通常必要となるもの」に係る費用で、利用者に負担させることが適当と認められるものを指します。簡単に言えば、通常の生活でも必要になるもので、サービスの一環として事業者が提供するオプション的な便利サービスの実費です。
上記の費用は、いずれも利用者の生活に直接必要な実費であり、公的給付(介護給付費や訓練等給付費)の対象にはなっていない部分です。そのため、これらについては利用者と事業者との間で実費負担の形でやり取りすることが認められています。グループホームは生活の場ですから、家賃や食費など生活費相当分は利用者が負担するのが基本というわけです。
しかし、注意すべきポイントとして、こうした費用を徴収する際は次のルールを守らなければなりません。
サービスと重複しない費用であること:公費で支払われる介護サービス部分と重複しない、純粋な生活費用でなければなりません。例えば、介護スタッフによる見守りや相談支援に対して「サポート料」などと称して追加料金を請求するのは、サービス内容に含まれる部分の二重取りとなるので認められません。
- 費用の名目を曖昧にしないこと:何の費用かはっきりしないあいまいな名目で利用者からお金を取ることは禁止されています。実際、厚労省の通知でも「お世話料」「管理協力費」「共益費」「施設利用補償金」といった漠然とした名前での費用徴収は認められないと明記されています。こうした名目では利用者にとって何に対する支払いかわかりにくく、サービス費用と生活費用の線引きも不明確だからです。請求する際は内訳を明確にして、何の費用か利用者に分かる形で提示しましょう。
- 事前に十分説明し同意を得ること:利用者負担額以外の費用を徴収する場合、事前に利用者へ費用の内容や金額をしっかり説明し、同意を得る必要があります。例えば入居時の契約や面談で、「食材料費として毎月○円を預り、実費精算します」「家賃は○円です」等、納得してもらった上で契約書などに明記します。また、実際に費用を受け取ったら領収証を発行し、金銭のやり取りを明確に記録します。説明なく勝手に天引きしたり、領収証を出さないのはトラブルの元なので避けましょう。
- 実費相当額の範囲内であること:追加で受け取る費用はあくまで実際にかかる額に基づくべきで、必要以上に多く徴収してはいけません。例えば食材料費なら食材の購入費用の範囲内、日用品費も実際に提供した物品の原価程度にとどめる必要があります。事業者が利益を上乗せするような形で過大な額を請求するのは不適切です。
- 運営規程への明記と掲示:これら利用者負担額以外の費用について、その種類と金額(または算定方法)は事業者の運営規程に定め、利用希望者が分かるように施設内の見やすい場所に掲示することが求められています。ただし金額が都度変動する性質のものは「実費」といった形で規程に記載することも可能です。利用者に対して透明性を持って周知することが大切です。
以上の点を踏まえれば、利用者にとっても事業者にとってもお金のやり取りがクリアになり、障害福祉サービスの実務対応として適切な費用管理ができます。
体験利用(お試し入居)を行う場合の費用負担
グループホームへの正式入居前に、体験利用として短期間お試しで滞在してもらうケースがあります。例えば「何日間か実際に共同生活を体験してみて、生活に馴染めそうか確認したい」という利用希望者に対し、短期入居を提供する場合です。この体験利用者から費用をもらう際にも、適切な扱い方が定められています。
ポイントは、利用した日数や期間に応じて公平に按分(あんぶん)することです。厚生労働省の解釈通知でも「入居前の体験利用に係る利用者については、利用日数に合わせて按分する等の方法により適切な額の支払を受けること」と明記されています。具体的には、体験利用が数日であればその日数分の家賃や食材料費のみを日割り計算で請求するといった形になります。
例えば1か月あたりの家賃が30,000円の部屋に3日間滞在したなら、30,000円÷30日×3日=3,000円程度を家賃相当分として請求するイメージです。食事も1日いくらと決めておき、提供した分だけ負担してもらいます。決して正式入居者と同じ丸々1か月分の費用を請求してはいけません。利用した分だけ、できるだけ細かく日割りや実費で計算し、短期利用でも負担が過大にならないようにします。
このように按分しておけば、体験利用者にとっても不公平感がなく、安心してお試し利用ができますし、事業者側も適正な範囲で費用回収ができます。体験利用後に正式入居につながるケースも多いでしょうから、金銭面で嫌な思いをさせないよう、公正な取り扱いを心がけましょう。
食材料費の管理・精算と利用者への説明義務
グループホーム運営において特に実務的に気を遣うのが食材料費の管理です。食材料費は毎日の食事に直接関わるお金であり、利用者から事前に預かって共同購入する方式をとる事業所も多いでしょう。その際、以下の点を守ることが求められています。
まず、集めた食材料費は適切に管理し、定期的に精算することが大前提です。例えば1ヶ月分の食材費として利用者から預かったお金があれば、月末や一定期間ごとに実際の支出と照らし合わせて収支を清算します。もし結果として使い切れずに残金(余剰金)が出た場合は、そのお金をどうするか注意が必要です。残った食材料費は利用者に返金するか、翌月以降の食材料費に充てるなど、利用者の利益にかなう形で適切に取り扱わねばなりません。他の費目に流用したり、事業者が勝手に蓄えてしまったりすることは認められません。
次に、利用者への十分な説明と同意取得も重要です。食材料費はいくらに設定するのか、どんな食事(サービス内容)を提供する見込みなのか、これらをサービス利用開始時や費用変更時に利用者にしっかり説明し、同意を得ておく義務があります。例えば、「朝夕2食提供で月○円の食材料費を預かります。その範囲で栄養バランスの取れた食事を提供します」など、事前説明して了解してもらいます。
まとめると、食材料費は利用者のお金ですから、あずかった以上無駄なく使い、使わなかった分は返す、そして何に使ったかを説明できるようにしておくことが大切です。事業者側の都合で曖昧に扱うとトラブルの原因になりますので、ルールに沿って公正に管理しましょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 受領できるその他の費用は実費のみ:利用者負担額以外に受け取れるのは、食材料費・家賃・光熱水費・日用品費など生活に必要な実費に限られます。いずれも公的給付の対象外で、利用者の生活に直接必要な費用です。
- 曖昧な名目の追加徴収は禁止:サービス内容と明確に区別できない費用や、不透明な名目での料金(例:「お世話料」「管理費」「共益費」等)を利用者に請求することはできません。追加で費用をもらう場合は、何の費用か内訳をはっきり示し、適正な金額のみ徴収しましょう。
- 追加費用は事前説明と同意が必須:食材料費などの生活費相当額を利用者からもらう場合、契約時などにサービス内容と金額を説明し、利用者の同意を得ておくことが必要です。また、受け取ったお金については必ず領収証を発行し、記録を残します。
- 体験利用時は日割り計算:入居前のお試し利用(体験利用)では、利用日数に応じて費用を按分計算し、実際に使った分だけの適正な額を請求します。短期間の利用者に丸ごと1ヶ月分の家賃等を課すようなことは避け、公平な負担にします。
- 食材料費の精算と説明を徹底:利用者から預かった食材料費は定期的に収支精算し、余った分は利用者へ返金または次回に繰越します。食材料費の設定額や内容も予め説明して同意を得ておき、利用者から求められた際には収支の内訳を説明できるようにしておきましょう。
【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。
