障害福祉サービスの「前年度の平均値」とは?新規開業・増床・転換時の計算ポイント
記事の概要:
障害福祉サービス事業では、「前年度の平均値」という用語がよく出てきます。これは簡単に言えば「昨年度の平均的な利用者数」のことです。この記事では、前年度の平均値の意味と、新規開業や定員の増減、旧制度からの移行時にこの数値をどう考えればよいかを、やさしく解説します。
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前年度の平均値とは?
まず「前年度の平均値」とは何かを説明します。前年度とは、前年の4月1日から翌年3月31日までの1年間です。前年度の平均値は、その1年間にサービスを利用した延べ利用者数を、その年度の開所日数(営業日数)で割って求める平均人数です。要するに「昨年度1日あたり何人がサービスを利用したか」という数値になります。計算式で表すと「前年度の平均値 = 前年度の延べ利用者数 ÷ 前年度の開所日数」となり、計算時には小数点第2位以下を切り上げます (小数点第一位の数字ががひとつ増える)。例えば、昨年度に延べ2000人の利用があり、営業日が250日なら、平均は2000 ÷ 250 = 8人です。なお、この平均利用者数をもとに翌年度の必要な職員数などが決まるルールになっています。
新規開業・再開・増床の場合の計算方法
では、今年新たに事業を始めた場合や事業を再開した場合、あるいは定員を増やした場合(増床)はどうなるでしょうか。昨年度のデータがない、または1年分揃っていないので、そのままでは前年度の平均値を計算できません。そこで厚生労働省のルールでは、新規開業や増床などで前年度の実績が1年未満しかないケースでは、一定の仮の数値(推定値)を用いて平均利用者数を算出します。具体的には次の通り段階的に設定します。
- 開業・増床から6か月未満の場合:便宜上、定員の90%を前年度平均利用者数の代わりとします。例えば定員が20名なら、その90%である18名を「平均的な利用者数」とみなします。
- 開業・増床から6か月以上1年未満の場合:直近6か月間の延べ利用者数合計を、その6か月間の開所日数で割って求めた値を使います。つまり、直近半年分の実績データから平均利用者数を計算するイメージです。
- 開業・増床から1年以上経過している場合:直近1年間の延べ利用者数を1年間の開所日数で割って求めます。この時点で初めて実際の1年分のデータを使った「前年度の平均値」が算出できることになります。
- 定員を減らした場合(減床):減少後に3か月以上の実績があるときは、その直近3か月の延べ利用者数を3か月間の開所日数で割った平均人数を使います。
※なお、上記の方法では適切な数字が出せない特別な事情がある場合は、他の合理的な方法で利用者数を推定して構いません。
生活介護サービス費の場合
生活介護サービス費(障害福祉サービスの一つ)では、利用者にサービスを提供する時間の長さによって基本の報酬額が決まります。そのため、サービスを利用する人の数(利用者数)を計算するときには、一人ひとりのサービス利用時間を考慮しなければなりません。
新規開設・再開・増床の場合(前年度の実績が1年未満の場合):
前の年に十分な利用実績がない事業所では、以下の方法で利用者数を算出します。
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開設から6か月未満の場合: 仮に定員(受け入れ可能な人数)の90%が埋まっていると考えます。その上で、利用者一人あたりのサービス時間が短い場合は0.5人(半日利用に相当)、長い場合は0.75人(長時間利用に相当)として数え、その合計をその期間の利用者数とみなします。
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開設から6か月以上1年未満の場合: 直近6か月間にサービスを利用した延べ人数に、平均的なサービス利用時間に応じて0.5または0.75をかけます。その結果を、直近6か月間の開所日数(施設を開けて営業した日数)で割り算し、1日あたりの平均利用者数を求めます。
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開設から1年以上経過した場合: 直近1年間の延べ利用者数に対して同様に0.5または0.75をかけ、その数を直近1年間の開所日数で割って平均利用者数を算出します。
定員を減らした(減床した)場合:
施設の定員を減らした場合も、利用者数の計算方法は基本的に同じ考え方です。減床後に3か月以上の実績データがあるときは、減床後の直近3か月間の延べ利用者数に0.5または0.75をかけ、その結果を直近3か月間の開所日数で割って平均利用者数を求めます(定員を途中で減らした場合も同様です)。
このように、生活介護サービスにおいても、新しく事業を始めた場合や定員の変更があった場合には、実績期間に応じて利用者数を調整します。
旧法の施設から移行する場合(特定旧法指定施設の転換)
次に、以前の制度で運営されていた施設(いわゆる「特定旧法指定施設」)が、新しく現行制度の指定障害福祉サービス事業所に転換するケースについてです。現行制度での前年度実績がないため、この場合の前年度の平均値は指定申請日の前日から遡った直近1か月間の延べ利用者数をその1か月間の開所日数で割って求めた値を使います。簡単に言えば、直近1か月の平均利用者数をとりあえず「前年度の平均値」とみなすわけです。そして、新しく指定を受けてから3か月間サービスを提供した実績がたまった段階で、その実績に基づいて平均値を見直す(再計算する)ことができます。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
最後に、事業運営上のポイントをまとめます。障害福祉サービス事業を始める人や現在運営している事業者は、次の点に注意しましょう。
- 新規開業時は定員の9割で計画:開業直後は利用者が定員いっぱいにならなくても、人員計算上は定員の90%が来る前提です 。つまり最初から満員近く来ると想定して職員を配置しましょう。
- 半年後以降は実績データで見直し:開業から6か月経過したら、実績データから平均利用者数を算出し、人員体制を見直しましょう。利用者が少なければ職員配置の効率化を、多ければ増員など早めの対応が重要です。
- 定員変更時の対応:定員を増やす場合は上記の推定方法で得た平均利用者数に合わせて職員を配置します。定員を減らす場合も、3か月の実績データで適切な職員数に調整します。定員変更時は行政への届出を行い、基準を満たす人員配置を維持しましょう。
- 旧施設から移行する場合:旧制度から移行する施設は、直近1か月の利用状況データを用いて指定申請を行います。移行後3か月の実績で平均利用者数を再計算できるため、計画と実際に差が出たら人員配置を見直しましょう。
- 困ったときは専門家に相談:前年度の平均値は人員配置や報酬算定に関わる重要ポイントです。計算に迷ったり適用に悩んだら、行政書士など専門家に相談しましょう。
【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。
