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独習 障害福祉サービス 指定基準 | 第九の二 就労選択支援 2 設備に関する基準

労選択支援の設備基準とは?基準第173条の5をわかりやすく解説


記事の概要:
就労選択支援は、障害者が自分に合った働き方を見つけるための新しいサービスです。サービスを提供する事業所には、作業をするお部屋や相談するお部屋、お手洗い(トイレ)やみんなで使えるお部屋など、法律で決められた設備を用意しなければなりません。この設備基準は他の就労支援サービス(就労移行支援や就労継続支援など)とほとんど同じ内容です。本記事では、この設備基準(厚生労働省令の基準第173条の5)について、やさしくシンプルに説明します。

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就労選択支援とはどんなサービス?

就労選択支援とは、障害者本人が自分に合った就労先や働き方を選べるよう支援する新しい障害福祉サービスです。令和6年度(2024年度)の報酬改定で創設が決まり、施行(サービス開始)は令和7年(2025年)10月1日からとなります。このサービスでは、短い期間で実際の作業や活動を行いながら、利用者の得意なことやサポートが必要なことを評価・整理します。そして、その結果をもとに、利用者が就労移行支援や就労継続支援A/B型、一般就労など自分に適した進路を選択できるよう支援するものです。簡単に言えば、「働きたい障害者が、自分に一番合った働き方を見つけるお手伝いをするサービス」と考えるとわかりやすいでしょう。

基準第173条の5と設備基準の意味

就労選択支援事業所を運営するには、人員や設備、運営の基準を満たす必要があります。なかでも「設備に関する基準」は、事業所の物理的な環境(部屋や備品など)の条件を定めたものです。厚生労働省令の基準第173条の5において、「就労選択支援の設備基準」は定められており、その内容は省令第81条の規定を準用するとされています。省令第81条とは他の障害福祉サービス(生活介護事業所)の設備基準のことで、就労選択支援でも基本的に同じ設備を備えなければならないという意味です。要するに、「就労選択支援だからといって特別な免除はなく、他の就労系サービスと同じ設備要件を満たしてください」ということです。

では、具体的にどんな設備を用意する必要があるのでしょうか?以下に主な設備項目を挙げ、そのポイントを解説します。

就労選択支援事業所に必要な設備一覧と解説

設備基準で要求される主な設備は次のとおりです(就労移行支援・就労継続支援A/B型など他の就労系サービスと共通です)。

  • 訓練・作業室:利用者が訓練や作業を行う部屋です。十分な広さが必要で、作業に支障がない空間でなければなりません。国の基準では具体的な面積は示されていませんが、「支障がない広さ」として各自治体が目安を定めている場合があります。例として大阪市では、利用者1人あたり3.0㎡以上の面積を確保することを求めており、最低定員10名を想定すると訓練室は30㎡程度が必要とされています。また、訓練・作業室には実際に訓練や簡単な生産活動を行うために必要な機械器具や備品を備え付けることも求められます。例えば、軽作業用のテーブルや工具類、パソコン等、提供するプログラムに応じた設備を準備しましょう。
  • 相談室:利用者と面談したり、個別に相談支援を行ったりするための部屋です。プライバシーに配慮し、室内での会話内容が外に漏れないよう間仕切りや防音措置を施す必要があります。広さについての具体的基準はありませんが、机と椅子を置いてもゆとりがある空間が望ましいでしょう。防音ドアや壁材の工夫、もしくは簡易的でもパーティションで区切るなど、利用者が安心して話せる環境作りが大切です。
  • 洗面所:手洗いや身だしなみを整えるための洗面スペースです。利用者の特性に応じたものであることと規定されています。例えば車椅子利用者がいる場合は車椅子のまま利用できる高さ・形状のシンクにする、視覚障害のある方には音声案内や点字を付す、といった配慮が考えられます。なお、トイレ内の手洗い場だけで洗面所を兼ねる形態は望ましくありません。自治体によっては「トイレの中の手洗い設備と洗面所は兼用不可」として、トイレ外に独立した洗面所を設けることを求めるところもあります。可能であれば事業所内の共用スペースに独立した洗面台を設置しておくと良いでしょう。
  • 便所(トイレ):利用者の特性に応じたトイレ設備が必要です。具体的には、車椅子利用者や身体機能に障害のある方でも使いやすいバリアフリー仕様のトイレが望まれます。入口の有効幅を広く取る、手すりや緊急呼出ボタンを付ける、車椅子転回スペースを確保する、といった配慮が必要です。男女別の設置が理想ですが、利用者数や事業所形態によってはユニバーサルデザインの個室を1つ用意する形でも構いません。清潔さを保つことはもちろん、アルコール消毒液やペーパータオルの設置、定期的な清掃・消毒の実施など衛生管理にも留意しましょう。
  • 多目的室:余暇活動や休憩、その他多目的に使える部屋です。食事をとったり、イベントやミーティングをしたり、あるいは体調不良時の静養スペースとして使ったりと、柔軟に活用できます。名称は「多目的室」となっていますが、用途に応じてリラックスできる雰囲気に整えるなど、利用者が過ごしやすい空間にしましょう。なお、相談室と多目的室については兼用(同じ部屋で代用)することも可能とされています。例えば事業所のスペースに限りがある場合、日中は多目的スペースとして開放しつつ、利用者との個別面談時には仕切りを立てて相談室として使う、といった工夫も許容されます。ただし兼用は「利用者の支援に支障がない場合」に限るため、相談中に他の利用者が入ってこない運用にする、時間帯を分けるなど配慮が必要です。
  • その他運営に必要な設備:上記の主要な部屋以外にも、サービス運営上必要な設備はすべて整えておく必要があります。例えば事務室(スタッフが事務作業を行い、書類や記録を保管するスペース)は実質的に必須と言えます。利用者の個人情報を扱うので、鍵付き書庫(キャビネット)を用意し、書類管理のルールを徹底しましょう。また、消防・避難設備(非常ベル、消火器、避難経路の確保など)や、照明・空調設備、感染症対策用品(消毒液・マスクの備蓄)なども忘れずに準備してください。これらは直接「設備基準」条文に明記されていなくても、他の法律やガイドライン、運営指導でチェックされるポイントです。利用者が安心かつ安全に過ごせる環境づくりを心がけましょう。

事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

  • 必要設備のチェックリスト:訓練・作業室、相談室、洗面所、トイレ、多目的室の5つが必須設備です。これらがすべて確保できる物件か、図面上でスペースを割り当てられるかをまず確認しましょう。事務室や倉庫スペースも含め、レイアウトを事前に検討することが大切です。
  • 十分な広さの確保:訓練・作業室は利用定員を踏まえて十分な面積を確保します。目安として利用者1人あたり約3㎡、10人なら30㎡前後が望ましいと言われています。余裕のないスペースだと支援活動が窮屈になり、将来の利用者増にも対応できません。可能な限り広めのレイアウトを計画しましょう。
  • 相談室のプライバシー確保:相談室は利用者が安心して悩みや希望を話せる空間にします。壁・ドアの防音性能を高める、カーテンやパーティションで視線を遮るなどの工夫を凝らしましょう。スペースに余裕がなければ多目的室と兼用することも可能ですが、その際は面談中に他者が入らないよう「面談中」と表示する、時間割を決める等の運用ルールを決めておくことが重要です。
  • 設備の兼用・共用計画:既存の事業所と同じ施設内で運営する場合、設備を共用する計画は慎重に検討してください。他サービスと兼用が許されるのは「利用者支援に支障がない場合」だけです。例えば訓練室を他サービスと共有するなら、利用曜日や時間帯を完全に分ける、機材もサービスごとに区分けするなど、明確な区別が必要です。曖昧な共有は後々トラブルのもとになります。


【免責事項】

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。