小規模多機能型居宅介護で実現する障害者向け短期入所特例の全ポイント
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厚生労働省の通知に「基準第125条の2」があります。この特例は、介護保険の小規模多機能型居宅介護事業所が障害福祉サービスの短期入所(ショートステイ)を提供できるようにする制度です。地域でショートステイの施設が不足している場合に、既存の高齢者向け施設が障害のある方の宿泊支援を行えるようにした仕組みで、限られた資源でサービスを持続するため非常に有効な措置です。この記事では、この特例の趣旨や具体的な内容をやさしくシンプルに解説します。
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「第125条の2」の趣旨と背景
「基準第125条の2」は、障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービス基準の特例規定です。簡単にいうと、介護保険サービスである「小規模多機能型居宅介護」という高齢者向けサービスが、地域に障害者向けの短期入所サービスが不足している場合に、代わりに障害のある方への短期入所(宿泊)支援を提供できるよう認める制度です。これは平成30年(2018年)から始まった「共生型サービス」の一環で、高齢者と障害者が同じ事業所でサービスを受けられるようにする取り組みです。特例が設けられた背景には、地方や過疎地域を中心に障害者向けショートステイ施設が足りない現状があります。この制度により既存の高齢者施設を活用してサービス空白を埋めることで、利用者のニーズに応え地域の支援体制を強化する狙いがあります。
条文のポイント解説(第125条の2の内容)
厚生労働省通知に示された「第125条の2」の条文①〜④の内容を、一つずつ平易な言葉で解説します。
- 対象となる利用者(条文①): この特例で宿泊サービスを提供できる相手は、あくまでその小規模多機能施設に「通いサービス」の利用者として登録している障害のある方や障害児だけです。つまり、普段からその事業所で日中のデイサービスや訓練等(生活介護や自立訓練、児童発達支援・放課後等デイサービスに相当するサービス)を利用している人が対象になります。登録していない外部の障害者を一時的に宿泊させることはできません。この点は誤解されやすいので注意が必要です。
- 宿泊サービスの利用定員(条文②): 小規模多機能型居宅介護で提供できる宿泊サービスの定員には上限があります。1日当たりの宿泊利用者数は、その事業所の通いサービス利用定員の3分の1の人数から、多くても9人までと定められています(※サテライト型事業所の場合は6人まで)。例えば通いの定員が12人なら宿泊は最大4人、通い18人なら宿泊は6人、通い27人以上でも宿泊は9人が上限です。通い定員が増えるほど宿泊定員も増えますが、それでも9人を超えることはできません。なお、この定員数には高齢者向けと障害者向けの宿泊利用者を合わせた合計人数がカウントされます。つまり障害のある利用者を受け入れる場合、その分だけ高齢者の宿泊定員に余裕が必要です(例:宿泊定員5人の施設で高齢者が4人泊まっている日は、障害者は1人までしか泊まれない)。
- 居室の基準(条文③): 宿泊に使う部屋についての基準です。小規模多機能型居宅介護では個室でなく多床室(相部屋)を設ける場合がありますが、相部屋の場合は一人あたり7.43㎡以上の居室面積を確保する必要があります。簡単に言えば、「複数人部屋でも1人あたり約7.43平方メートル(4.5畳程度)のスペースは確保しましょう」ということです。例えば3人部屋なら少なくとも約22.3㎡(7.43㎡×3人)、2人部屋なら約14.9㎡以上が求められます。居室が狭すぎると利用者が窮屈になるため、この基準を満たすよう設備を整える必要があります。逆に言えば、狭い多床室しかない施設では障害者を受け入れる人数を減らすなどの対応が必要です。
- 専門機関からの技術的支援(条文④): 障害のある方を受け入れるにあたり、専門的な支援機関からのバックアップを受けることが求められています。具体的には、地域の指定短期入所事業所(障害者のショートステイ施設)や障害児入所施設など、障害者支援の専門機関から必要な技術的助言や協力を得て運営すること、という意味です。高齢者とは異なるケアが必要な場合もあるため、障害福祉の知見を持つ機関と連携し、スタッフ研修や緊急時の相談体制を整えておくことが重要です。例えば事前に近隣の障害者支援施設と協定を結び、定期的なアドバイスや緊急対応時のサポートをお願いしておくなどの取り組みが考えられます。
以上が「基準第125条の2」の主な内容です。対象者は限定され、定員や設備、人材面で守るべき基準が詳しく定められている点に留意が必要です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 登録者しか利用できない: 前述のとおり、この共生型短期入所はその事業所に通いサービスの利用登録をしている方だけが対象です。日中利用していない外部の障害者を「泊まりだけ利用させる」ことはできません。新たに受け入れたい場合はまず日中サービスの利用者として契約・登録してもらう必要があります。この制約を理解せずに外部からの依頼を受けてしまわないよう注意しましょう。
- 宿泊定員管理と利用調整: 障害者の受け入れによって宿泊サービスの利用定員の範囲を超えないように管理することが大切です。高齢者と障害者の宿泊者を合わせた数が上限を超えないよう、日々の利用人数を調整する必要があります。例えば既に高齢者の宿泊で満床の日に新たに障害者を受け入れることはできません。事業計画の段階で「通い定員に対する宿泊定員の割合(1/3以内)」を踏まえ、人員配置や居室数を検討しておきましょう。また、利用希望が重なった場合の調整方法(先着順や緊急度の高い人を優先 etc.)についてもあらかじめルールを決めておくと安心です。
- 居室環境の整備: 受け入れ開始前に、施設の宿泊室が面積基準(7.43㎡/人)を満たしているか再確認しましょう。とくに多床室の場合、ベッドの配置や家具のレイアウトを見直すことで基準を満たせる場合があります。場合によっては障害者受け入れ用に部屋を改修したり、パーテーションで区切って一人あたりのスペースを確保するといった対応も検討されます。基準を満たさずに運営すると指導の対象になり得るため、開始前に十分チェックすることが大切です。
- 専門機関との連携体制: 宿泊サービス開始後も、定期的に障害福祉の専門機関から技術的な支援や助言を受ける体制を維持しましょう。例えば地域の障害者支援センターや先述の短期入所施設の職員と情報交換し、利用者の状態やケア方法について相談できる関係を築いておくと安心です。スタッフに対しては障害特性や緊急対応に関する研修を行い、知識・スキルをアップデートしておきます。共生型サービスとはいえ、高齢者介護と障害者支援では異なる点も多いので、「わからないことは専門家に聞ける」仕組みを作っておくことが現場での安全・安心につながります。
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