2024年度新設「就労選択支援」の制度背景と人員基準(人員配置・兼務・研修要件)について
記事の概要:
2024年度報酬改定で新たに創設された障害福祉サービス「就労選択支援」について、その制度背景や創設目的、厚生労働省が想定する今後の展望を解説します。続いて、厚労省の通知文書に基づき人員配置基準、兼務の可否と条件、研修要件および経過措置の3点をわかりやすく説明します。
▶︎ 就労選択支援 関連記事まとめページはこちら
就労選択支援の制度背景・創設の目的
就労選択支援は、障害のある人が自分に合った働き方や就職先を選べるようにサポートする新しいサービスです。具体的には就労アセスメント(就労評価)を通じて、本人の希望・能力・適性などを把握し、最適な就労支援の選択につなげることを目的としています。このサービスは2025年10月から開始され、制度上、2025年10月以降は就労継続支援B型(以下B型)を利用する前に原則として就労選択支援を利用することが求められます。さらに2027年4月以降は、新たに就労継続支援A型を利用する場合や、就労移行支援の標準利用期間(原則2年間)を超えて延長利用する場合にも、原則として事前に就労選択支援を利用する仕組みに移行する予定です。厚生労働省はこのように就労選択支援を就労系サービス利用の入口に位置付ける方針で、障害者の就労ニーズに合った支援選択の質を高める展望を描いています。
創設の目的として、就労選択支援は障害者が適切なタイミングで就労移行支援や一般就労へのチャレンジを選択できるよう支援することを掲げています。背景には以下のような課題が指摘されていました:
- 就労系サービス利用希望者の能力や適性を客観的に評価する手法が確立されておらず、評価結果がサービス選択や支援内容に活かされていない。
- 障害者本人や支援者が、その人の就労能力や一般就労の可能性を十分把握できておらず、適切なサービスにつなげられていない。
- 一度B型やA型を利用し始めるとその場に固定されてしまいやすく、次のステップ(就労移行支援や一般就職)へ進む機会が失われがち。
- 本人の将来を見据えて次のステップを促す支援者の有無によって、職業生活や人生の展望に大きな差が生じている。
こうした課題への対策として就労選択支援が導入されました。障害者の働く力と意欲を引き出し、適切な時期により高いステップへ移行できるよう後押しすることで、「本来は一般就労できる力を持つ人が福祉サービス内に留まり続ける事態を減らせるのでは」と期待されています。厚労省は就労選択支援により就労ニーズへの多様な支援メニューを充実させ、障害者が望む生活やキャリアを実現できる社会を目指しています。
人員配置基準:就労選択支援員の配置要件
就労選択支援事業を行うには、一定の人員配置基準を満たす必要があります。中心となる従業者は「就労選択支援員」と呼ばれるスタッフで、利用者に直接サービス(アセスメントや相談支援など)を提供します。
配置基準の概要:就労選択支援員の配置数は利用者数に応じて定められており、具体的には「常勤換算方法で、利用者の数を15で除した数以上」配置しなければなりません。簡単に言えば、利用者15名につき支援員1名以上が必要ということです。常勤換算とは、職員の勤務時間をフルタイム職員に換算して数える方法です。例えば非常勤スタッフ2名がそれぞれ週20時間勤務する場合、合計40時間でフルタイム1名相当(1.0人)とみなします。したがって利用者が1~15人の場合は就労選択支援員1人以上、16~30人なら2人以上、31~45人なら3人以上…と、利用者15人あたり1名の割合で配置する計算になります(端数が出る場合は切り上げて確保する必要があります)。
この15:1という人員配置基準は、他の障害福祉サービスと比較すると比較的広めの配置割合です(例:就労継続支援B型では利用者6人に支援員1人程度など)。就労選択支援は主にアセスメント(評価)と相談・調整が中心のサービスであり、大人数の利用者に対して少数の職員で対応できる設計になっています。ただし配置数はあくまで最低基準であり、サービスの質を確保するためには利用者の特性や支援内容に応じて十分な人員を配置することが望ましいとされています。
兼務の可否と条件:他サービス職員との人員融通
新規に事業を立ち上げる際、「人員基準を満たすために専属スタッフを雇わなければいけないのか?」という疑問が生じるかもしれません。就労選択支援員の兼務については、一定の条件下で他の障害福祉サービス従業者との兼務が認められています。厚労省の通知によれば、就労選択支援事業所と一体的に運営(同じ敷地内や併設など)される他のサービス事業所がある場合には、そこの常勤スタッフが就労選択支援員を兼務できるとされています。
具体的に兼務が認められる対象となる他のサービスは、通知上「生活介護等」と総称されています。これには以下のサービスが含まれます:
- 生活介護(施設での日中活動支援サービス)
- 自立訓練(機能訓練・生活訓練)(生活能力向上のための訓練サービス)
- 就労移行支援(一般就労への移行を目的とした訓練・支援サービス)
- 就労継続支援A型・B型(雇用型・非雇用型の継続的な就労支援サービス)
上記のようなサービスを併設し一体的に運営している事業所(以下「生活介護事業所等」)では、そちらに配置されている常勤の職業指導員や生活支援員、就労移行支援員などの直接支援業務の職員が、条件付きで就労選択支援員を兼務できます。条件は「本来のサービス提供に支障がないこと」です。つまり、併設先の利用者へのサービスが疎かにならない範囲であれば、同じ職員が就労選択支援の業務も担えるということです。
兼務が認められた職員が就労選択支援の業務に従事した時間は、そのまま就労選択支援員の常勤換算上の勤務時間としてカウントできます。例えば、生活介護の職員が週10時間を就労選択支援の業務に充てた場合、その10時間分は就労選択支援員としての配置人員計算に含められます。この仕組みにより、新たに就労選択支援を開始する事業者は既存事業の人員を有効活用でき、人員基準を満たしやすくなっています。
注意点として、兼務可能だからといって人手を過度に共有すると、それぞれのサービスの質低下を招く恐れがあります。兼務職員が本来担当するサービスに支障なく利用者支援を行える範囲で、人員配置計画を立てることが重要です。また、併設していない単独の就労選択支援事業所の場合は兼務ができないため、その場合は必要数の人員を専任で確保する必要があります。
研修要件および経過措置:就労選択支援員の資格要件
就労選択支援員として利用者支援業務に当たるには、単に配置数を満たすだけでなく所定の研修を修了していることが求められます。厚労省の定める研修要件は次の通りです:
- 就労選択支援員となる者は、原則として「就労選択支援員養成研修」を修了していなければなりません。この研修は就労選択支援に特化した養成研修で、サービスの質を担保するための専門的な内容になっています。
- ただし、経過措置として令和10年3月31日(2028年3月末)までは、一定の研修修了者であれば未修了でも就労選択支援員の業務に従事可能とされています。具体的には、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)等が実施する「雇用と福祉の分野横断的な基礎的知識・スキルを付与する研修」、通称「基礎的研修」を修了した者、またはそれと同等以上の研修を修了した者であれば、経過措置期間中は就労選択支援員養成研修を修了していなくても業務に就けます。これは、新サービス開始当初において研修修了者が不足する事態を避けるための特例措置です。
言い換えると、2028年3月末までは基礎的研修修了者であれば就労選択支援員として働けますが、経過措置終了後の2028年4月以降は必ず養成研修を修了していることが必要になります。事業者側としては、この期限までにスタッフが養成研修を受講・修了できるよう計画しておくことが重要です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- サービスの位置付けと目的:「就労選択支援」は2025年開始の新サービスで、就労移行支援や就労継続支援A/B型への入口(事前アセスメント段階)として制度化されています。障害者の就労ニーズに応じた適切なサービス選択を支援する目的があり、将来的に利用前提化される場面が拡大します。事業展開を考える上で、このサービスが他の就労系サービスとどのように連携し位置付くかを理解しておきましょう。
- 人員配置基準の遵守:利用者15名に対して支援員1名以上という人員配置基準(15:1)を満たす必要があります。非常勤職員を組み合わせて常勤換算で確保することも可能ですが、最低基準以上の人員配置でサービスの質を維持・向上させることが重要です。
- 既存スタッフの有効活用(兼務):生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援A/B型等を併設する場合、これらの事業の常勤職員が就労選択支援員を兼務できます。新規採用を抑えつつ人員基準を満たせるメリットがありますが、兼務による負担が過大にならないよう調整が必要です。
- 研修要件への対応:就労選択支援員には養成研修修了が求められます。2028年3月末までは経過措置で基礎的研修修了でも対応可能ですが、それ以降は養成研修修了者でなければなりません。事業開始までにスタッフの研修受講計画を立て、将来の要件強化に備えておきましょう。
- 最新情報のチェック:就労選択支援は新設制度のため、今後細則や運用方法がアップデートされる可能性があります。厚生労働省の通知やQ&A、研修実施情報など、最新動向を継続的に確認し、適切に事業運営へ反映することが大切です。
【免責事項】
