就労移行支援事業所に求められる様々な取組み(職場定着支援・就職状況の報告・就労選択支援の情報提供)
記事の概要:
障害者の就労を支援する「就労移行支援」事業所においては、様々な取組みが求められます。本記事では、それらの取組みのなかでも、厚生労働省の通知に含まれる (5)職場への定着のための支援等の実施(基準第182条)、 (6)就職状況の報告(基準第183条)、 (7)就労選択支援に関する情報提供(基準第183条の2) について、シンプルにやさしく解説します。
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(5) 職場定着のための支援等の実施(基準第182条)
就職後のフォロー体制義務化: 就労移行支援事業所は、利用者(障害者)が一般企業に就職した後も、職場に定着できるよう支援を行う義務があります。具体的には、利用者が就職してから少なくとも6ヶ月間、以下のようなフォローアップを行います。
- 関係機関との連携: 地域の障害者就業・生活支援センター(障害者の就職や生活を支える公的機関)や職場適応援助者(いわゆるジョブコーチ)と協力しながら支援を続けます。必要に応じてハローワーク等とも情報共有し、専門機関と一緒に利用者を見守ります。
- 事業主や職場への助言: 就職先の企業(事業主)に対して、障害のある従業員を受け入れる上での助言やサポートを提供します。例えば、働き始めて出てきた困りごとについて企業側にアドバイスしたり、職場環境の調整について提案したりします。
- 利用者への定着支援: 利用者本人に対しても、職場で困っていることや不安を解消するための相談支援を行います。具体的には、職場訪問や家庭訪問などで直接面談し、職場に馴染めているか様子を確認します。職場での人間関係や仕事の進め方で課題があれば、一緒に解決策を考えたり精神面のフォローをしたりします。
6ヶ月以降の対応: 就労後6ヶ月が経過したら、事業所だけで支援を続けるのではなく、他の支援機関へ引き継ぐ調整を行う必要があります。具体的には、6ヶ月以降も利用者が安心して働き続けられるように、障害者就業・生活支援センターやジョブコーチ等の外部機関が相談支援を継続して提供できるよう話し合います。事業所はそれら機関と連絡を取り、必要な情報を共有して、スムーズに支援のバトンタッチを行います。支援がいつまでも事業所任せにならないようにすることで、事業所は新たな利用者支援にもリソースを集中でき、利用者も長期的な支援体制の下で働き続けられます。
(6) 就職状況の報告(基準第183条)
就職実績の年次報告義務: 就労移行支援事業所は、自事業所の利用者の就職状況を毎年報告する義務があります。具体的には、前年に就職した利用者の人数やその他就職に関する状況を取りまとめて、所管行政(都道府県や政令市等)に報告します。これにより行政は地域全体の就職実績を把握し、支援策の検討やサービスの質の向上に役立てます。
- 報告内容の例: 報告項目には、前年に一般就労へ移行(就職)できた利用者数、就職後一定期間(例:6ヶ月後や1年後)の定着状況、就職先の業種・職種の傾向などが含まれる場合があります。数字だけでなく、必要に応じて課題や成功事例の報告を求められることもあります。
- 市町村との情報共有: 就労移行支援は利用者ごとに市町村が支給決定を行います。そのため、利用者が就職した場合には本来サービス利用の区分変更等が生じる可能性があります。報告制度により、都道府県等を経由して市町村にも就職の情報が伝達される仕組みとなります。事業所は利用者が就職した際、速やかに関係機関に伝えることで利用者の支援計画の見直し等が円滑に行われるよう協力しましょう。
(7) 就労選択支援に関する情報提供(基準第183条の2)
多くの選択肢の中から進む道を決めるのは簡単ではありません。そこで、「就労選択支援」という新たなサービスが創設され、障害者一人ひとりに合った就労支援の選択を手助けすることになりました。就労移行支援事業所には、この就労選択支援について利用者に情報提供する義務が課されています。
- 就労選択支援とは?: 就労選択支援は、障害のある方が「自分にどんな働き方や支援が合っているか」を見極めるための短期集中の支援プログラムです。例えば、短期間の作業や職場体験を通じて、その人の得意なこと・苦手なこと、働く意欲や体力などを評価(アセスメント)し、一般就労を目指すべきか、就労移行支援や就労継続支援A/B型を利用すべきか等、最適な進路を一緒に考えて提案するサービスです。2022年の法改正で制度化され、2025年より開始されます。このサービスを活用することで、本人に合わない支援サービスに長期間通い続けて時間を浪費してしまうミスマッチを防ぎ、なるべく早く適切な道に進めることが期待されています。
- 情報提供の内容: 就労移行支援事業所は、自分の事業所を利用している障害者に対し、「就労選択支援という選択肢があること」「就労選択支援では何ができるのか」「利用を希望する場合はどうすれば良いか」といった情報を伝えます。具体的には、「もし就職や訓練の進み具合に不安があれば、就労選択支援という新しい制度で一度キャリアの方向性を一緒に考えることもできますよ」といった案内を行います。
- 定期的かつ連携して行う: 情報提供は一度きりではなく定期的に行います。利用者それぞれの状況に応じて、支援計画の見直し時や面談時などに折に触れて案内すると良いでしょう。また、この情報提供は計画相談支援を行う者(相談支援専門員)と連携して行うことが求められています。相談支援専門員は市町村から委託を受けてサービス利用計画を作成する専門家で、利用者が利用すべきサービスを一緒に考える役割があります。事業所は相談支援専門員とも情報を共有し、利用者が就労選択支援について正しく理解し、自ら希望する場合にはスムーズに利用手続きに進めるよう協力します。
- 「囲い込み」の防止: 就労移行支援事業所にとって、自事業所の利用者に他のサービスを案内することは、一見デメリットに思えるかもしれません。しかしこの取組みは、利用者の利益を最優先に考えたものです。支援が長引いている利用者に対して他の手段を提案せず自事業所に留め置くような「囲い込み」を防ぎ、本当にその人に合った支援へと繋ぐことが目的です。事業所も適切な情報提供を行うことで利用者からの信頼が高まり、結果的にサービスの質向上や社会的評価にも繋がるでしょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 就職後6ヶ月間の定着支援を計画せよ: 利用者が就職したら少なくとも半年間はフォローを続ける体制が必要です。支援員による定期的な職場訪問・相談を実施し、企業やジョブコーチ等とも連携しましょう。6ヶ月以降は外部の支援機関に引き継ぐ段取りも事前に考えておきます。
- 就職者データの管理と年次報告: 前年度の就職者数等を行政へ報告する義務があります。日頃から誰がいつ就職したか、定着状況はどうかを記録し、年度末に迅速に集計できるようにしておきましょう。報告漏れは違反となるので注意が必要です。
- 就労選択支援の周知と連携: 自事業所の利用者には、新設される就労選択支援の情報を適宜提供しましょう。相談支援専門員とも打ち合わせを行い、利用者が必要なときにこのサービスを利用できるよう促します。利用者本位の視点で他サービスも含めた最善策を提案することが、信頼される事業運営に繋がります。
【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。
