就労継続支援A型の指定基準を解説:社会福祉事業を行う実施主体と雇用契約のポイント
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厚生労働省が定める就労継続支援A型の指定基準(運営基準)の中から、重要なポイントを平易なことばで解説します。この記事では特に、「実施主体」(基準第189条)と「雇用契約の締結等」(基準第190条)について取り上げます。これは、A型事業所を運営する法人の条件と、利用者との雇用契約に関するルールのことです。
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実施主体(基準第189条)とは?
「実施主体」とは、就労継続支援A型事業所を運営する法人(会社や法人格)のことです。基準第189条では、この法人に関する条件が定められています。
- 専ら社会福祉事業を行う法人であること: 事業所を運営する法人は、同じ法人内で他の事業をせず、社会福祉事業だけを行っている必要があります。簡単に言えば、「福祉専門の会社」でなければいけません。例えば、一つの会社で福祉サービスと関係ない飲食店経営を両方やる、といったことは認められないという意味です。これはA型事業所が本来、営利目的ではなく障害者支援を目的とする社会福祉事業だからです。
- 例外: ただし、少し特殊な例外があります。昔の法律(旧民法第34条)で設立された社団法人や財団法人等で、福祉以外の事業を行っている法人については、都道府県知事が「その事業は社会福祉事業に準ずる」と認めれば、この限りではありません。要するに、歴史的経緯で福祉以外の事業も持つ法人でも、行政のお墨付きがあれば認められるケースがあるということです。新しくこれから起業する場合はあまり関係ない特殊ケースでしょう。
- 特例子会社は不可: また、A型事業所の運営法人は特例子会社であってはいけないとされています。特例子会社とは、大企業が障害者の雇用率算定で特例扱いを受けるために設立する子会社のことです。簡単に言えば、大企業グループの中で障害者雇用の受け皿となる特別な会社ですが、こうした会社はA型事業所の指定を受けることはできません。
- 生産活動収入を増やす努力: 加えて、運営法人は障害者の能力や知識を高めるための訓練を行い、それによって事業所の生産活動による収入を増やすよう努めなければなりません。A型事業所では利用者と雇用契約を結んで賃金を支払いますから、事業の収入を上げる努力をすることで、より安定して利用者に給与を支払えるようにする狙いがあります。具体的には、利用者(障害者)の方々に仕事の訓練をしっかり行い、生産性を上げて売上を伸ばす工夫をしましょうということです。
雇用契約の締結等(基準第190条)とは?
「雇用契約の締結等」とは、A型事業所の利用者との契約形態に関する基準です。A型の場合、利用者と雇用契約を結ぶのが原則ですが、基準第190条では雇用契約を結んだ場合・結ばない場合それぞれで気を付けるべき点が示されています。
- 雇用契約を結んだ利用者は労働者: 就労継続支援A型事業所の利用者のうち、運営法人と雇用契約を結んでいる人は、法律上労働者(労働法規の適用対象)になります。つまり、一般の会社社員と同じように労働基準法や最低賃金法などが適用されるということです。事業者はこうした利用者に対し、最低賃金以上の賃金を支払い、労働時間や休暇など労働関連法規を遵守する必要があります。※どうしても利用者の能力等により最低賃金を下回る賃金しか支払えない場合は、「最低賃金の減額特例」の行政手続を経て許可を得る必要があります。
- 雇用契約を結ばない利用者も一部認められる: A型事業所では原則として雇用契約に基づく就労が前提ですが、実は雇用契約を結ばない利用者の受け入れも一定範囲で可能です。雇用契約を結ばない利用者については、法律上は事業所の労働者(従業員)ではない扱いになります。ここでいう「労働者性」とは、その人が法律上「労働者」とみなされるかどうかという意味です。事業所と契約のない利用者は労働者ではないので、賃金ではなく「工賃」と呼ばれる報酬を受け取ります。
- 作業の区分と配慮: 雇用契約のない利用者には、雇用契約ありの利用者とは作業内容や作業場所を分けるなど、提供する仕事と報酬(工賃)との関係が明確にわかるように配慮しなければなりません。もし契約なしの人に、雇用契約ありの従業員とほとんど同じ業務を同じ場所でさせ、事実上労働力として使っているような場合、それは契約なしでも実質「労働者」と見なされてしまう恐れがあります。そうなると労働法違反(いわゆる偽装雇用の問題)につながりかねません。ですから、契約を結ばない利用者には職場実習的な軽作業や訓練が中心となるよう役割分担を明確にし、処遇にメリハリをつける必要があります。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 法人形態の選択: 就労継続支援A型事業は、社会福祉事業に専念する法人でないと行えません。新規に始める場合は、社会福祉法人やNPO法人、一般社団法人など福祉専業の法人を用意しましょう(営利企業の場合も事業目的を福祉に限定する必要があります)。特例子会社など、大企業の障害者雇用目的の会社は指定不可です。
- 労働法規の遵守: A型事業所で雇用契約を結んだ利用者は、法律上れっきとした労働者です。最低賃金の保証、労働時間・福利厚生の管理、社会保険への加入など、一般の従業員と同様に労働関係法令を遵守しなければなりません。労働者としての権利を利用者にもしっかり保障しましょう。
- 契約なし利用者の取扱い: 雇用契約を結ばない利用者も上限人数内で受け入れ可能ですが、その場合は従業員との業務を明確に区別することが重要です。契約なしの方には訓練的な作業を担当してもらい、支払う報酬(工賃)も生産活動収入に応じたものとします。労働者性の観点でグレーゾーンにならないよう注意が必要です。
- 事業収入の向上努力: A型事業は利用者に給料を支払う以上、事業として黒字に近づける努力も欠かせません。利用者の能力開発や生産性向上の研修を積極的に行い、生産活動収入のアップを目指しましょう。これは結果的に利用者の処遇改善(賃金アップ等)にもつながります。
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