重度障害者等包括支援計画の作成に関する実務解説(基準第134条)
記事の概要:
重度障害者支援の一環として「重度障害者等包括支援計画」というものを作成する決まりがあります。これは、常に介護が必要な重度の障害者の方々に対して、複数のサービスを組み合わせて包括的に支援するための計画です。例えば、一人の利用者さんに対し、居宅介護や生活介護、短期入所など複数の障害福祉サービスをパッケージにして24時間体制で支えるイメージです。この計画を立てることで、利用者さんの生活を途切れなく支えるとともに、急な体調変化やトラブルにも柔軟に対応できるようにする狙いがあります。
本記事では、その「重度障害者等包括支援計画」の基本方針や作成手順、そして運用上のポイントについて、やさしくシンプルに解説します。
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① 基本方針
重度障害者等包括支援計画とはどんな計画? 一言でいうと、「重い障害のある人を切れ目なく支えるための総合的なケアプラン」です。この計画書には、利用者さんが受ける具体的なサービス内容がまとめられています。例えば、居宅介護を利用する場合は居宅介護の計画、生活介護を利用する場合は生活介護の個別支援計画といった各サービスごとの支援計画がありますが、包括支援計画ではそれらを一つに束ねて記載します。さらに、それだけではありません。この計画には、利用者さんの体調や環境の変化によって新たに発生するニーズに柔軟に対応する方法、たとえば急に支援内容を変更しなければならないときにどう調整するか、災害や急病など緊急時にどう対応するかといったことも盛り込まれます。つまり、普段の支援+もしもの時の対応策までカバーした包括的な計画となっています。
なぜ基本方針が大事なの? 重度障害者等包括支援計画を作成する上でまず大事なのが「アセスメント(事前評価)」と呼ばれるプロセスです。これは、利用者さんの現在の状況をしっかり把握・分析して、その人が抱えている課題は何か、包括支援を提供することでどんな問題を解決したいかを明らかにする作業です。利用者さん一人ひとり、障害の状態や生活環境、困りごとは違います。ですから、それぞれに合った支援計画にするため、事前に丁寧に利用者さんのことを知る必要があるのです。
また、利用者さんによっては自分の希望や意思を上手に伝えられなかったり、意思決定が難しかったりする場合もあります。そのような場合には、周囲がしっかりとサポートしてあげることが重要です。具体的には、利用者さんの表情や日々の様子、家族の意見などからその人の本当の意思や好みを汲み取る努力をします。そして、利用者さんができるだけ自分の意思で決められるように支援(これを意思決定支援といいます)を行うことが基本方針として求められています。例えば、「今日は体調が悪そうだから無理せず短時間の利用にしようか?」と尋ねて本人の意思を確認したり、言葉が難しい方には写真やカードを使って希望を引き出したりする工夫が考えられます。
誰が計画を作るの? 重度障害者等包括支援計画は、サービス提供責任者(事業所においてサービスの調整や計画作成を担当する職員)が中心となって作成します。ここで注意したいのは、相談支援専門員(いわゆる計画相談員)などサービス等利用計画を作成する人(ケアマネージャーのような役割の人です)が、この包括支援計画まで代わりに作ってしまうのは適切でないという点です。サービス等利用計画は市町村指定の相談支援事業所が本人の希望を聞いて作る全体的な計画ですが、重度障害者等包括支援計画は実際にサービスを提供する事業者側が立てる具体的な支援の段取りです。それぞれ役割が違うので、計画相談員とサービス提供責任者が連携しつつも役割分担することが求められます。
② 作成の手順
では、具体的に重度障害者等包括支援計画はどのような手順で作られるのでしょうか。大まかな流れを見てみましょう。
- (1) 支給決定とサービス担当者会議への参加: まず、市町村からその利用者さんに「重度障害者等包括支援」の支給決定が下りたら、サービス提供責任者は速やかに動きます。利用開始前〜開始時に、相談支援専門員が中心となってサービス担当者会議(いろいろなサービス事業者や関係者が集まる話し合い)を開くことが多いです。サービス提供責任者はこの会議に参加し、利用者さんの状態や希望について情報共有します。また、どのサービスを誰が担当するかといった役割分担を確認します。
- (2) 各サービス担当者との調整: 次に、重度障害者等包括支援に関わる各サービス提供者(担当者)と具体的な調整を行います。例えば、日中は生活介護事業所、夕方以降は居宅介護ヘルパー、夜間は短期入所など、利用者さんの1日の流れを支える複数のサービスがあります。それぞれの担当者同士で連携し、「どの時間帯をどのサービスでサポートするか」「緊急時は誰が駆けつけるか」など細かな取り決めを行います。サービス提供責任者はこの調整役となり、計画の骨子(基本方針で述べた内容)を取りまとめます。
- (3) 包括支援計画の作成: 調整内容がまとまったら、サービス提供責任者が重度障害者等包括支援計画書を作成します。計画書には、先ほど決めたサービスの具体的な提供内容のほか、急な予定変更時の対応方法や緊急連絡先、利用者さんや家族が困ったときにどう支援するかといった柔軟対応の方法も明記します。計画書は箇条書きや表形式で、時間帯ごとの支援スケジュールや担当者、連絡先などが一目でわかるように整理すると分かりやすいです。
- (4) 利用者・家族への説明と共有: 計画書ができあがったら、サービス提供責任者はその内容を利用者さん本人およびご家族に説明します。難しい言葉はできるだけ避け、例えば「この時間は○○さん(ヘルパー)が来ます」「万が一発作が起きたらこう対処します」など具体的に伝えます。利用者さんや家族から疑問や不安が出たら、それも踏まえて計画を修正することも大切です。最終的に納得を得られたら、計画書の写しを利用者さんとご家族にお渡しします。
- (5) 関係機関への情報提供: 作成した計画書は、計画相談支援を行う事業所(相談支援専門員が所属する事業所)にも遅滞なく提供(交付)します。これによって、相談支援専門員(ケアマネージャーのような人)も詳細な支援内容や緊急対応策を把握でき、利用者さん全体のサービス等利用計画と齟齬がないか確認できます。また、サービス提供責任者は今後も相談支援専門員と密に連携していきます。具体的には、定期的なサービス担当者会議に参加したり、日々の利用状況について報告したりして、常に情報を共有するよう努めます。
以上が大まかな手順です。まとめると、「支給決定 → 関係者で調整 → 計画書作成 → 説明・共有 → 継続的な連携」という流れになります。
③ 解決すべき課題の適切な把握
計画を作ってサービスを開始したらそれで終わり……ではありません。むしろ本番はここからです。利用者さんの状態や環境は時間とともに変化することがあります。そのため、継続的に利用者さんの課題を把握し続けることが重要です。
重度障害者等包括支援では、複数の障害福祉サービスを組み合わせて一人の利用者さんを支えています。その目的は、利用者さんの「解決すべき課題」に合ったサービスを途切れず提供し続けることにあります。例えば、ある利用者さんの課題が「夜間の一人きりの時間に不安が強い」という場合、夜間帯に重度訪問介護のスタッフが見守るサービスを提供することで安心して生活できるようになります。しかし、支援を続ける中でその不安が薄らいできたら、支援の内容を見直して別の課題(例えば「日中の活動の幅を広げたい」など)に焦点を移すべきかもしれません。このように利用者さんの課題は変化し得るものです。
そこで、サービス提供責任者は常に利用者さんの様子に目を配り、課題の変化に気づくことが大切になります。具体的には、スタッフ間で「最近できることが増えたね」「ここ困っているみたいだね」と情報共有したり、定期的に本人や家族と面談して意見を聞いたりします。相談支援専門員とも連絡を取り合い、サービス提供状況や利用者さんの状態をお互いに確認します。そして、必要に応じてサービス等利用計画の変更を市町村や相談支援専門員に提案したり、事業所内で包括支援計画そのものを見直していきます。
例えば、利用者さんが新たに医療的ケア(喀痰吸引など)が必要になった場合、それまでの計画には無かった医療的支援が課題として浮上します。そのときは、計画相談員と相談してサービス等利用計画を変更(例えば医療的ケアのための訪問看護サービスを追加)し、それに合わせて包括支援計画にも新しい支援内容を盛り込む、といった対応を取ります。逆に、状態が安定してサービス量を減らせる場合には、市町村と相談して支給決定を調整し、計画を簡素化することもあるでしょう。
このようなPDCAサイクル(Plan計画→Do実行→Check評価→Act改善)のように、計画を作成して実行した後も定期的にモニタリング(状況確認)と見直しを行うことが重要です。厚生労働省の通知でも、サービス提供責任者は支援開始後も利用者や家族、相談支援専門員、関係サービス事業者と緊密に連絡を取り合い、モニタリング結果をお互いに交換しあったり、サービス担当者会議や個別支援会議(事業所内の会議)を合同で開いたりして連携強化を図るよう求められています。簡単に言えば、「作りっぱなしにせず、みんなで見守りながら常にベストな支援を考えていこう」ということです。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 包括支援計画は“普通の計画”+“もしもの対応”:これは、単なる個別支援計画の集まりではなく、普段の支援内容に加えて、急な体調悪化や災害時に誰が何をするかといった緊急時対応や柔軟なサービス調整方法までをあらかじめ盛り込んでおく必要がある計画書です。
- 作成主体はサービス提供責任者:サービス等利用計画は相談支援専門員が作成するのに対し、包括支援計画は事業所のサービス提供責任者が自らの責任で作成し、利用者にしっかり向き合って内容を組み立てることが求められます。
- 利用開始時に速やかに計画作成:支給決定を受けた段階で、サービス開始と同時に包括支援計画を用意し、利用者やその家族に丁寧に説明して同意を得る体制を整えておくことが重要です。
- 関係者との情報共有を徹底:計画書は必ず利用者や家族に交付するとともに、相談支援専門員にも速やかに共有し、サービス担当者会議などを通じて全ての支援関係者が計画内容を理解し、支援方針を共有できる体制を整えます。
- 利用者の状態変化に敏感になる:支援が始まった後も、利用者の日常の様子や困りごとに常に目を配り、支援の過不足や課題の変化に気づくための意識と観察を持ち続けることが大切です。
- 計画の定期的な見直し:半年ごとや年度単位での見直しはもちろんのこと、利用者に明らかな変化があった際にはその都度サービス等利用計画や包括支援計画を柔軟に見直し、最適な支援内容を維持することが求められます。
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