障害者グループホームの入退居と記録についてやさしく解説
記事の概要:
本記事のテーマは、障害者向けグループホーム(指定共同生活援助)における入退居とその記録の取り扱いです。厚生労働省が定める運営基準のうち、第210条の2および第210条の3に規定された内容について、やさしくシンプルに解説します。入居時・退居時に事業者が行うべきことや記録・報告の義務について丁寧に説明し、制度の背景や現場での注意点も踏まえてまとめます。
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入退居に関する運営基準(第210条の2)
「入退居」に関する基準第210条の2では、障害福祉サービスである共同生活援助(グループホーム)の入居・退居時のルールが定められています。
ポイントは大きく3つあります。第一に、グループホームの提供対象者です。共同生活援助は「共同生活住居への入居を必要とする者」(=グループホームでの生活を必要としている障害者)に提供するものとされています。言い換えれば、自宅での単独生活が難しく、共同での生活環境による支援が必要な方が利用対象です。ただしここには例外が明記されており、「入院治療を要する者」は対象から除かれます。つまり医療的ケアのため入院が必要な状態の障害者は、グループホームでは受け入れないことになっています。グループホームは病院ではなく生活の場であるため、治療が必要な場合は適切な医療機関で対応すべきという趣旨です。
第二に、入居時の取り組みです。新たに利用申込者(入居希望者)がグループホームに入る際、事業者(グループホームの運営主体)はその人の心身の状態や生活歴、病歴などをきちんと把握するよう努めなければならないと定められています。平易な言葉で言えば、「入居するときは、その人の身体や精神の具合、これまでの生活の様子や病気の経過をできるだけ詳しく知っておきましょう」ということです。事業者が入居者の背景情報を十分に把握することで、適切な支援計画(個別支援計画)の作成や安全配慮に役立ちます。例えば、持病や服薬状況を事前に知っていれば、入居後のケアで医療サービスと連携しやすくなりますし、過去の生活歴を知れば日常支援の方法を利用者に合った形に調整できます。
第三に、退居時の支援と連携です。利用者がグループホームを退出する(退居する)際、事業者は二つの観点で対応する義務があります。一つ目は利用者の意思を尊重した必要な援助です。具体的には「利用者の希望を踏まえ、退居後の生活環境や支援の継続性にも配慮して、退居に必要な援助を行うこと」とされています。簡単に言えば、「退居するときは、その人がこの先どんな暮らしを望んでいるかを考慮しつつ、新しい生活先(自宅や他の施設など)で無理なく生活を続けられるように、必要な手助けをしてください」ということです。例えば、本人が「自立して一人暮らしに挑戦したい」と希望して退居するなら、賃貸住宅探しの助言や日常生活の自立に向けた練習支援を行うといったサポートが考えられます。また退居後の生活環境(例えば実家に戻る場合なら家族のサポート体制、一人暮らしなら地域の支援サービス利用など)にも気を配り、途切れなく支援が続くよう配慮する必要があります。
もう一つの観点は関係機関との連携です。退居に際して事業者は「利用者に適切な援助を行うとともに、保健医療サービスまたは福祉サービス提供者との密接な連携に努めること」が義務づけられました。これは先ほどの継続性の話とも重なりますが、退居後に利用者が必要とする医療サービス(例:訪問看護、通院先の医師)や福祉サービス(例:ホームヘルプ、就労支援、地域相談支援など)としっかり引き継ぎを行うよう努めなければならないということです。グループホームを出た後も利用者が地域で安心して生活できるよう、事業者間で情報共有をしたり、引継ぎの場を設けたりすることが期待されています。
以上が第210条の2で定められた入退居時のルールです。この規定はグループホームが単に「住む場所」を提供するだけでなく、利用開始から終了まで一貫して利用者本位の支援を行い、地域生活への架け橋となることを目的としています。特に退居支援と他サービスとの連携は、従来明文化されていなかった点であり、利用者の地域移行・地域定着を促進する昨今の福祉行政の方向性を反映しています。
入退居時の記録と報告の義務(第210条の3)
続いて「入退居の記録の記載等」に関する基準第210条の3について解説します。これは、その名のとおり入居や退居に際して記録を残すことと行政への報告を義務づけた規定です。
具体的には2つの義務があります。まず一つ目は受給者証への記載義務です。受給者証とは障害福祉サービスを利用する障害者一人ひとりに自治体から交付される証明書で、サービスの種類や事業者名、支給量などが記載されたものです。第210条の3第1項では、事業者は入居者が入所または退所する際に「事業者の名称、入居または退居の日付その他必要な事項」を利用者の受給者証に記載しなければならない、と定めています。平たく言えば、新しく入った利用者がいる場合や、利用者がグループホームを出て行く場合には、その事業所名と入退居の日付等を本人の受給者証に書き込みなさいということです。この記録によって、受給者証を見れば「何月何日からどの事業所に入居した/退居した」という情報が一目で分かるようになります。
記載すべき「その他必要な事項」について具体的な例示は条文上ありませんが、一般的には利用者番号や支給決定障害者等番号、あるいは入退居の区分(入居なのか退居なのか)などが該当します。自治体によっては、受給者証の備考欄等に所定の事項を記入する形式になっているので、指定された方法に従いましょう。注意点として、受給者証に記載した後は必ずその写し(コピー)を取り、事業所で保管しておくことをおすすめします。受給者証は原本を利用者本人が保有しますので、事業所側でも控えを残しておかないと後々証拠が手元に残らないからです。
二つ目は市町村への報告義務です。上記の受給者証への記載事項およびその他必要事項を、遅滞なく市町村に報告しなければならないと定められています。つまり入退居の情報は書類に書くだけで終わらせず、必ず管轄自治体にも届け出なさいということです。実務上、具体的な報告方法は自治体ごとに決められています。多くの場合は「入退居連絡票」や「サービス開始・終了報告書」といった様式を提出するか、受給者証の写しを添えて届出を行う形になります。報告の期限も自治体により多少異なりますが、「遅滞なく」ですのでできるだけ速やかに提出するのが望ましいでしょう。
以上が第210条の3の概要です。この規定により、グループホームの入退居情報は利用者本人が持つ受給者証という公式書面に記録され、行政もその情報を共有することになります。利用者、事業者、行政が情報を共有することで、サービス提供期間の開始・終了が明確になり、不正受給の防止や利用者の転居後の支援スムーズ化につながります。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- グループホームの利用対象:障害者総合支援法に基づく共同生活援助は、共同生活が必要な障害者に提供するサービスです(※入院治療が必要な人は対象外)。医療的ケアが欠かせない場合は入居を断念し、適切な医療機関で治療を受けてもらう判断も必要です。
- 入居受け入れ時の情報収集:新規入居の際は、利用者の心身の状態・生活歴・病歴などを事前に十分把握します。本人や家族への聞き取り、紹介元からの資料提供などを通じて情報を集め、支援計画に反映させましょう。
- 退居時の支援計画:退居が決まったら、利用者の意向を尊重しつつ退居後の生活を見据えた支援を行います。引越しや新生活の準備を手伝ったり、生活技能の指導を行ったり、必要に応じて家族にも助言します。利用者が安心して次のステップに進めるようサポートしましょう。
- 関係機関との連携:退居時には、医療機関や他の福祉サービス提供者と綿密に連携し、支援が途切れないようにします。退居前に関係者を交えたケース会議を開く、サービス等利用計画担当者や地域移行支援の専門員と調整する、といった連絡体制を整えておくことが理想です。
- 受給者証への記録:利用者が入退居したら、受給者証に事業者名・日付等を記載することが義務です。記入漏れがないようチェックリストを作成すると良いでしょう。記載後は必ず写しを取り保管し、原本は利用者に返却します。
- 市町村への速やかな報告:入退居の発生時には、遅滞なく自治体へ報告する必要があります。所定の届出書や受給者証のコピー提出など、自治体指定の方法で迅速に届け出ましょう。報告した控えも事業所で保存し、提出日や担当者名を記録しておくと安心です。
