受託居宅介護サービス事業者への委託契約【基準第213条の20】の要点と実務対応
記事の概要:
外部サービス利用型グループホーム(共同生活援助)では、入居者の介護など一部のサービスを自社スタッフではなく外部の居宅介護サービス事業者に委託できます。厚生労働省の定める運営基準「基準第213条の20」では、グループホームがこうした外部の事業者に業務を委託する際の契約内容や手続き上のルールが細かく決められています。本記事では、「基準第213条の20」に記載された重要なポイントについてやさしくシンプルに解説します。
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委託契約に盛り込むべき7項目
外部サービス利用型のグループホーム事業者(以下、GH事業者といいます)は、居宅介護サービス事業者に業務を委託する際、文書による契約を結ぶ必要があります。契約を締結する相手は指定居宅介護事業者でなければならず、契約書は委託先となる事業所ごとに作成します。契約書には、GH事業者が委託する業務を適切に管理・指揮監督するための事項を定めておかなければなりません。そのため、契約書の中で次に掲げる(a)〜(g)の7項目を双方でしっかり取り決めておくことが法律上求められています。また、委託した業務をさらに第三者に丸投げ(再委託)することは禁止されています。
契約書に明記すべき主な項目(a〜g)は以下の通りです:
GH事業者は必ずこれらの項目を契約書に明記し、受託側と認識を共有しておきましょう。特に(c)や(e)にあるとおり、サービスを外部に任せてもGH事業者の責任が無くなるわけではありません。定期的なモニタリング(訪問や打合せ等でのサービス状況確認)を実施し、その結果を記録しておくことが求められています。
実務上のポイント: 契約書はひな型を利用するだけでなく、自事業所の状況に合わせて上記事項を具体的に落とし込みましょう。例えば(a)では委託する業務内容をできるだけ具体的に列挙し、(f)では事故発生時の連絡方法や保険の適用について触れておくと安心です。契約書は書面で2部作成し署名捺印(電子契約も可)して双方が保管します。
サービス提供状況の確認結果の記録
GH事業者は、委託したサービスがきちんと提供されているか定期的に確認した結果について、記録を作成する義務があります。具体的には、上記表の(c)「業務実施の確認」と(e)「改善要求と確認」に対応する内容です。たとえば、定期確認のために開催した打合せの議事録や、サービス提供状況チェックリストの結果、改善指示に対する是正報告書などが該当します。ポイントは、「いつ・どこで・誰が・どのような確認をして、結果どうだったか」を分かる形で記録することです。
これらの記録は、サービスの質を維持するだけでなく、行政から監査や指導が入った際の証拠にもなります。後述するように一定期間保存も義務づけられていますので、日々の業務チェックやミーティングの内容は漏れなく書面化しておきましょう。
実務上のポイント: 日常的に行うモニタリングの結果は、フォーマットを用意してチェックリスト形式で記録すると便利です。例えば、「入浴介助の提供状況」「利用者の満足度」「問題発生時の対応状況」など項目ごとに○×評価やコメントを書けるシートを作成します。また、月1回程度は受託事業者との打合せを行い、その議事録を残します。こうした記録を積み重ねてファイリングしておけば、いざという時にスムーズに提出・説明ができるでしょう。
GH事業者からの指示は書面で行う
GH事業者が委託先に対してサービス内容の変更や改善など何らかの指示を出す場合、その指示は必ず文書で行わなければならないと定められています。口頭で済ませてしまうと「言った/言わない」のトラブルになりかねないため、書面(またはメール等記録が残る方法)で指示を伝達することが法律上求められているのです。
たとえば、利用者への支援方法について改善が必要だと判断した場合、GH事業者は受託事業者に対し書面で「○○さんの入浴介助の際は△△に留意してください」などと指示します。また、指示を出したらその内容と日付を記録し、先方から受領の返信や署名をもらっておくと確実です。こうすることで、後日になっても「いつどんな指示を出したか」が明確に証拠として残ります。
実務上のポイント: 書面で指示を行う際には、できれば様式を決めておくと良いでしょう。例えば「指示書」や「依頼書」といった文書フォーマットを作成し、日付、宛先(受託事業所名)、指示事項、理由、期限、発行者(GH事業者側)などを記載します。メールで済ませる場合も、件名に「【重要】指示事項:〇〇について」などと付け、送信日時や相手先を控えておきます。指示書のコピーや送信メールの写しは必ず保存し、先の確認記録と合わせてファイルに綴じておきましょう。
記録の5年間保存義務
前述の確認結果の記録については、最低5年間の保存が義務づけられています。これは障害福祉サービスの共通ルールで、重要な記録は一定期間保管しなければならないと定めた規定(基準第75条第2項の準用)に基づくものです。5年間という期間は、サービス提供後に問題が発覚するケースに備えて設定されています。例えば、数年後に利用者や行政から「当時きちんとサービスが行われていたのか?」と問われた際、記録がないと証明できません。5年分の記録があれば、適切に対応していた根拠を示せるわけです。
GH事業者は、この保存義務を怠らないように注意が必要です。紙の書類で保管する場合は年月ごとにファイル分けする、電子データの場合は定期的なバックアップをとるなど、紛失や破損を防ぐ工夫も大切です。保存期間内はいつでも取り出せるよう整理し、行政からの指導監査や第三者評価の際に提出を求められても対応できる体制を整えておきましょう。
実務上のポイント: 保存すべき記録は多岐にわたりますが、特にサービス提供状況のチェック記録や指示書およびその履行確認記録は重要です。5年間保存というと長く感じますが、保管期間を迎えた古い記録から順次処分し更新していけば負担は軽減できます。自治体によっては記録の保管状況を確認することもありますので、保管場所や方法(紙・電子の別)についても事業所内でルールを決めておくと良いでしょう。
複数の事業者に委託する場合の留意点
外部サービス利用型GHでは、必要に応じて複数の居宅介護サービス事業者と契約することも認められています。例えば、日中はA事業所、夜間はB事業所に委託するといった柔軟な運用が可能です。ただし、その場合は事業者ごとの役割分担を明確にしておくことが求められます。誰がどの時間帯・どのサービスを担当するのか、責任の範囲があいまいにならないよう事前に取り決めておく必要があるということです。
複数の事業者を活用するメリットは、サービス提供体制の強化やバックアップ体制の確保などが挙げられます。一方で、GH事業者には調整役としての負担が増えます。契約上も運用上も、各事業者との間で伝達ミスや責任のなすり合いが起きないよう注意が必要です。役割分担については個別支援計画書や運営規程にも反映させ、職員間でも共有しましょう。
実務上のポイント: 複数委託する場合、月例の連絡会議など三者以上での情報共有の場を設けることが望ましいです。GH事業者、事業所A、事業所Bが一堂に会して利用者支援の状況を確認し合えば、抜け漏れや重複を防げます。また、仮に問題が生じた場合に責任の所在を明確にできるよう、契約書ごとに担当範囲と責任事項を明記しておくことが重要です。「誰が何をするか」がはっきりしていれば、利用者も安心してサービスを受けられるでしょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 契約は必須&重要事項を網羅: 外部サービス利用型GHが居宅介護サービス事業者に業務を委託するときは、書面による契約が必須です。その契約書には、本記事で取り上げた7つの項目を盛り込む必要があります。内容を明確に定め、双方の役割と責任を契約上はっきりさせましょう。なお、委託業務の再委託は禁止です。必ず契約した事業者自身がサービスを提供します。
- GH事業者の責任は継続: 業務を外部に任せてもGH事業者の責任は終わりません。定期的なサービス状況の確認と記録が義務づけられており、問題があれば書面で指示を出して改善を求め、その結果も確認して記録します。これらの記録は少なくとも5年間保管する必要があります。行政からチェックが入る可能性も踏まえ、日頃から記録の蓄積と保管体制を整えておきましょう。
- 複数委託もOK(役割分担が鍵): 必要に応じて複数の居宅介護事業者に委託契約を結ぶことも可能です。例えば介助内容や時間帯で分けて担当してもらうなど、柔軟な組み合わせができます。ただし、その場合は「誰が何を担当するか」役割分担を明確化することが不可欠です。契約書と支援計画等に各事業者の担当範囲を記載し、情報共有を密に行ってサービスの抜け漏れを防ぎましょう。
【免責事項】
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