厚労省通知で学ぶ就労継続支援A型の賃金・工賃支払い基準と起業ポイント
記事の概要:
障害者の就労支援サービスである就労継続支援A型事業では、利用者と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与(賃金)を支払うことが法律で義務付けられています。これは一般の労働者と同様の労働法規が適用されるためで、事業者は労働基準法を遵守しなければなりません。本記事では、厚生労働省の通知の内容をわかりやすく解説し、A型事業所の収支構造や賃金と工賃の関係、積立金の仕組み、最低基準、給付金の充当制限、違反時の対応などについてやさしくシンプルに説明します。
既存の障害福祉サービス事業者の方も、これから障害福祉サービスで起業しようと考えている方も、本記事を読むことでA型事業の賃金最低額のルールや経営上押さえるべきポイントが理解できます。ぜひ参考にしてください。
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賃金と工賃の違い(A型とB型の基本)
就労継続支援事業にはA型とB型があり、支払われる対価の種類が異なります。A型は利用者と雇用契約を結ぶため、利用者は法律上「労働者」となり、事業所から賃金(給料)を受け取ります。賃金とは労働基準法に基づく給与のことで、地域の最低賃金以上を支払う必要があります。一方、B型は雇用契約を結ばないため、利用者には工賃と呼ばれる成果報酬型の賃金が支払われます。工賃は作業成果に対する報酬であり、最低賃金の適用はありません(事業所ごとに工賃アップの努力目標が設定されています)。
要するに、A型=雇用契約ありで賃金(最低賃金遵守)、B型=雇用契約なしで工賃(成果に応じた対価)という違いがあります。A型事業所を運営・起業する場合、利用者は従業員と同じ扱いになるため、労働条件整備(就業規則の作成や社会保険加入など)も必要です。まずこの賃金と工賃の基本的な違いを押さえておきましょう。
A型事業の収支構造と賃金(工賃)支払い基準
厚生労働省通知(指定基準第192条)では、A型事業所の収支構造について重要なルールが示されています。簡単に言えば、利用者に支払う賃金の総額は、事業所の生産活動による収入から生産活動に必要な経費を差し引いた額の範囲内に収めなければならないということです。式で表すと次のようになります。
- 生産活動収入 - 生産活動経費 ≥ 利用者への賃金総額
このルールにより、事業所は生産活動による利益の中で賃金を賄う健全な経営が求められます。仮に生産活動による収入以上に賃金を支払っていると、事業の採算が合わず赤字となるため、この状態が続くと行政から指導が入ります。また、基準を満たせない場合、経営改善計画の提出や最悪の場合は事業所指定の取り消し等の措置対象となるので注意が必要です。
さらに、利用者への賃金や工賃の支払いに、国からの給付金(自立支援給付費等)を充ててはならないという決まりもあります。A型事業所には障害福祉サービスの給付金が支給されますが、原則としてその公的給付は利用者の賃金の支払いに使えません。賃金の財源はあくまで事業収入で賄い、給付金は訓練指導や事業運営の経費に充てる想定です。この制限によって、事業所は給付金頼みの賃金支払いができない仕組みになっています。
ただし、給付金の充当制限には例外も設けられています。例えば大規模な自然災害で事業所や取引先が被災し生産活動収入が落ち込む場合、また経済危機など厚労省が認める場合、さらに経営改善計画実施中の期間など、特別な事情があるときは一時的に給付金で賃金を補填することも認められています。これらはあくまで例外措置であり、平常時から安易に給付金に頼る運営は厳禁です。
余剰金ゼロの原則と積立金の活用
上記の収支ルールから、A型事業所では原則として生産活動による「余剰金」(利益)は発生しない建前になっています。生産活動で得た収入から経費を引いた残りは、すべて利用者の賃金や工賃の支払いに充てるべきだからです。したがって、事業が順調に黒字を出せば出すほど、その分を利用者に還元(賃金アップ)することが求められます。これは利用者の働きに対する適正な対価支払いを確保する趣旨です。
とはいえ、事業運営上将来への備えも必要です。常に全額を賃金として払ってしまうと、設備の更新資金や景気変動への対応資金がゼロになってしまいます。そこで通知では一定の条件の下、積立金の計上が認められています。積立金とは、将来に備えて利益の一部を社内留保する制度で、A型事業所では主に次の2種類があります。
- 工賃変動積立金:将来、事業収入が落ちて利用者への賃金・工賃水準が下がってしまう事態に備え、賃金を補填するための積立金。毎年度、過去3年の平均賃金・工賃額の10%以内を積み立てでき、積立総額は過去3年平均の50%以内とされています。
- 設備等整備積立金:生産活動に必要な設備の更新や、新たな事業(業種)展開のための資金に備える積立金。毎年度、就労支援事業の収入の10%以内で積み立てでき、総額は事業用資産取得額の75%以内とされています。
上記のように一定範囲であれば、利益の一部を翌年以降に繰り越して積み立てることが可能です。積立金を活用することで、景気変動や設備投資による一時的な支出にも耐えうる経営体質を作ることができます。ただし、積立金は利用目的ごとに厳格なルールで管理され、目的外流用は認められません。積立金制度もうまく活用しつつ、安定的に賃金を支払える経営基盤を整えることがA型事業者には求められます。
基準違反時の対応とリスク
最後に、基準に違反した場合の行政の対応について触れておきます。就労継続支援A型事業所が先述の基準(基準第192条)を満たせない状態、例えば「生産活動収入-経費 < 賃金総額」となっている場合や、給付金を原資に賃金を払っているような場合には、行政から改善を求められます。その一環としてまず事業所に対して経営改善計画書の提出が求められ、一定期間(原則1年程度)での改善努力を見ることになります。
改善計画に沿って経営努力を行い、それでもなお基準を満たせない場合や、事業者が改善計画の提出自体に応じない場合には、指定基準違反としてさらに厳しい措置の検討対象となります。具体的には、行政からの勧告や命令を経て、それでも是正されない場合は最終的に事業所指定の取消しや停止といった処分につながるリスクがあります。A型事業所の運営継続には指定権者(都道府県や政令市等)からの信頼確保が不可欠です。基準違反は利用者の生活にも直結する問題のため、行政も厳しく対処します。
以上のように、A型事業の賃金・工賃に関するルールは事業運営の根幹にかかわる重要事項です。適正な賃金支払いと健全経営を両立させることで、利用者にも安心して働き続けてもらい、事業者も安定したサービス提供が可能になります。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイントまとめ
最後に、就労継続支援A型事業の運営上重要なポイントを表形式で整理します。現在事業を運営中の方も、これから障害福祉サービス事業で起業しようという方も、以下の点をしっかりチェックしておきましょう。
【免責事項】
