就労定着支援の『職場定着支援』実務ポイント
記事の概要:
本記事では、厚生労働省の留意事項通知に基づき、職場への定着のための支援の実施に関する重要ポイント(通知の項目②および③)を、やさしくシンプルに解説します。月1回の面談や支援レポートの作成、支援期間終了後のフォロー体制など、大切なポイントをあらためて確認します。
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就労定着支援とは?(概要)
就労定着支援は、障がいのある方が一般就労した後に職場へ定着できるよう支援する障害福祉サービスです。就職後最大3年間、生活面・仕事面の課題解決をサポートし、働き続けられる状態を目指します。就労移行支援事業所等で一般就労に繋がった利用者が対象で、市町村から支給決定を受けて利用します。支援期間中に利用者が職場に十分適応し、支援終了後も自力で働き続けられるようにすることがゴールです。
ポイント: 就労定着支援は単なる就労後の見守りではなく、就職に伴う生活環境の変化への対応支援から、職場で生じる課題の解決支援まで幅広く関わる重要なサービスです。報酬算定上も「支援レポート」の作成が義務化されるなど制度面の整備が進んでおり、サービス提供者には確実な制度理解と実践が求められます。
職場への定着のための支援内容(②)
厚労省の解釈通知②では、就労定着支援における具体的な「支援内容」について定められています。 支援者(就労定着支援員)は利用者本人との面談を少なくとも月1回以上行うことが求められます。この面談は基本的に対面(直接会って話すこと)で行い、利用者の状況を把握して適切な助言や支援を提供します。ただし遠隔地に就職したケースなど対面が難しい場合は、電話やオンラインなど対面に準ずる方法で面談しても構いません。その際は「お互いの意思疎通が十分できること」「利用者の体調や感情面の変化を把握できること」「必要時にすぐ対応できること」に留意し、例えばテレビ電話やWeb会議ツールを活用するなど工夫します。オンライン面談を行う場合でも、利用者に通信環境の負担が生じないよう配慮することも大切です。
さらに、毎月1回以上「支援レポート」を作成し、支援内容を記録・報告することも義務づけられています。支援レポートは利用者ごとの支援経過をまとめる書類で、国への報酬請求時にも提出が必要です。レポート作成を習慣づけることで、支援計画に沿った支援ができているか振り返り、課題を見落とさないようにします。
支援の基本ルール(まとめ)
- 面談頻度: 利用者とは月1回以上、必ず面談を実施(対面が原則だが状況に応じ電話やオンラインも可)
- 記録の作成: 面談など支援内容は月1回以上「支援レポート」に記録し、サービス管理責任者が確認
上記が最低限のルールですが、支援の質を高めるための考え方も通知で示されています。利用者支援では「本人の主体性を引き出す」視点が重要です。困りごとが起きたときに、支援員が代わりにすべて解決してあげるのではなく、支援終了(最長3年)を見据えて利用者自身が問題解決のスキルを身につけていけるように支える姿勢が求められています。例えば時間管理が苦手な利用者にはスケジュール管理の方法を一緒に考える、自身の体調やストレスを医師に伝えられない利用者にはメモの取り方を練習するといった具合に、将来自立して働くためのスキル習得を後押しする支援を心がけましょう。
事業主への働きかけも重要
就労定着支援では、利用者を雇用している事業主(雇用先)への働きかけも欠かせません。通知では、事業所(雇用主)への利用者の状況確認を月1回以上行うことが「努力義務」とされています。努力義務とは法令上の義務ではないものの、できる限り実施が望まれる事項です。なぜ努力義務かというと、利用者によっては職場に自分の障害を開示しておらず、支援員が企業側と連絡を取れない場合もあるためです。そのような特別なケースを除き、基本的には月に1回以上は職場を訪問したり、電話で連絡を取ったりして利用者の勤務状況を把握し、必要に応じて助言することが望ましいとされています。
事業主への定期連絡・訪問を通じて、職場での利用者の様子や困りごとを把握できます。例えば「最近ミスが増えている」「体調が優れないようだ」等の情報を早めに得られれば、支援員が利用者本人と面談して対策を講じたり、事業主に障害特性への理解を促したりできます。また、職場環境の調整や同僚への説明など事業主側に協力してもらいたいことが出てきた場合も、日頃から連携しておくことで依頼がしやすくなります。就労定着支援は利用者本人だけでなく、周囲の職場環境も含めて支援するサービスです。障害を職場に開示しているケースでは積極的に企業側とコミュニケーションを図り、三者(利用者・事業主・支援員)が協力して職場定着を目指す体制を整えましょう。
現場で押さえたいポイント:事業主へのアプローチ
- 月1回のペースで連絡・訪問: 利用者の勤務状況や職場での課題を定期的に把握する
- 障害特性の説明: 必要に応じて利用者の障害特性や配慮事項を職場に説明し、理解を促進
- 協力の依頼: 業務上の配慮や役割調整など、職場定着に必要な協力を企業にお願いできる関係づくり
以上が「支援内容」に関する主な実務ポイントです。まとめると、「利用者への定期的な面談支援」と「職場への働きかけ」の両輪で利用者の職場定着を支えていくことになります。
支援期間終了後のフォロー体制(③)
就労定着支援は最長で3年間利用できますが、その後は福祉サービスとしての支援が一区切りとなります。解釈通知③では、支援期間が終了した後の対応について示されています。原則として、3年間の支援期間で利用者が職場に安定して定着できる状態になることを目指します。しかし支援終了時点で「まだ解決できていない課題が残っている」「支援なしで働き続けるには不安がある」場合もありえます。そのようなケースでは、事業者は引き続き利用者を見捨てずにフォローすることが重要です。
たとえば、支援期間内に解決が難しい課題が残ると見込まれる場合は、就労定着支援の終了後も一定期間サポートを続ける措置を検討します。具体的には、利用者本人と今後の支援方針について十分に話し合った上で、地域の公的支援機関に支援の引き継ぎを依頼します。その受け皿となる代表的な機関が「障害者就業・生活支援センター」です。障害者就業・生活支援センター(就業生活センター)は全国各地に設置された、公的な就労支援機関で、福祉サービス終了後も無料で継続的な職業生活の相談支援を行ってくれる心強い存在です。必要に応じてハローワークや地域の福祉機関とも連携しながら、障がい者の職場定着を長期的にフォローしてくれます。
就労定着支援事業所は、支援期間終了が見えてきた段階で利用者の状況を改めて評価し、「このまま支援なしで大丈夫か?」「他機関のフォローが必要か?」を検討します。仮に追加の支援が必要と判断した場合は、遅くとも支援終了の3か月前には就業生活センター等に相談し、引き継ぎの準備を始めましょう。支援終了間際になって「今日でサービス終わりです、あとはお願いします」では利用者も受け手のセンター側も困ってしまいます。少なくとも終了3か月前には関係機関とケース会議を開くなどして、利用者の課題や支援方法について情報共有を行います(もちろんこの際は利用者本人の同意を得てから情報提供することが必要です)。こうした引き継ぎ準備により、サービス終了後も利用者がスムーズに新しい支援につながり、途切れなくフォローを受けられるようになります。
一方で注意したいのは、支援が不要なのに機械的に他機関へ引き継がないことです。支援期間が満了したからといって形式的に全員をセンターにつなぐのではなく、あくまで本人にとって本当に必要な場合だけに絞りましょう。利用者の中には、3年間で十分に職場に定着し支援なしでやっていける自信をつける方もいます。そうした方にまで一律で他機関を紹介すると、利用者の自立心を損ねたり、受け皿の機関に不要な負担をかける恐れがあります。あくまでケースバイケースで、「この課題についてあと半年くらい誰かのフォローがあった方が良い」という場合に限り、丁寧に引き継ぎ対応を行うことが大切です。
継続支援が必要な場合の引き継ぎポイント
- 必要性の精査: 支援終了までに解決困難な課題があるか慎重に見極め、利用者本人の希望も確認する
- 早めの連携: 終了の約3か月前を目安に障害者就業・生活支援センター等に相談し、情報提供や打ち合わせを開始する
- 本人の同意: 個人情報を共有する際は事前に利用者の同意を文書で得ておく(信頼関係を大切に)
- ケース会議: 必要に応じて支援員・利用者・受け皿機関の三者でケース会議を実施し、課題と支援方針を共有する
- スムーズな移行: 支援終了後はセンター等の支援員が引き続きフォロー。終了後も困ったら元の事業所が協力する姿勢も大事
以上が通知③に基づく「支援期間終了後の取扱い」のポイントです。まとめると、就労定着支援の役割は支援期間で終わりではなく、その後の生活・就労を見据えて必要な橋渡しをするところまで含まれると心得ましょう。
最後に、利用者が就労定着支援サービスを受けている途中で離職する場合について述べておきます。指定就労定着支援事業所は、支援期間中に利用者が現職を離職した場合でも、新たな就職を希望する利用者に対し、指定特定相談支援事業者やハローワーク等と連携して他の障害福祉サービス事業者への橋渡しを行います。具体的には、離職後の求人情報の提供・応募書類作成支援・面接同行などを通じて、利用者ができるだけスムーズに次の職場へ定着できるよう調整・フォローアップを行うことが求められます。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 利用者との定期面談: 少なくとも月1回は利用者と直接会って状況を把握し、必要な支援を行います(遠隔の場合も双方向のコミュニケーションを確保)。支援内容は毎月「支援レポート」に記録し、計画的な支援に役立てます。
- 利用者の主体性尊重: 支援員が何でも代行するのではなく、利用者自身が課題解決できるよう促します。将来の自立した職業人としての成長を見据えたサポートを心がけましょう。
- 職場へのアプローチ: 企業側への働きかけも可能な限り実施します。障害を職場に伝えている場合は月1回程度の訪問や連絡で状況を共有し、職場定着に向けた協力を依頼します(障害非開示の場合は利用者の意思を尊重しつつできる範囲で対応)。
- 支援終了後の備え: 最長3年の支援終了後も見据え、終了前から利用者の課題を再評価します。必要であれば障害者就業・生活支援センター等との連携を早めに開始し、支援終了後も途切れなくフォローできる体制を準備します。
- ケースバイケースの対応: 引き継ぎはあくまで必要な場合に限ります。不要な支援をダラダラと続けたり、逆に必要なフォローを怠ったりしないよう、一人ひとりの状況に合わせた柔軟な対応が重要です。
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