電磁的方法の活用(基準第224条第2項)のポイント解説
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障害福祉サービスの現場では、これまで多くの手続きや書類のやり取りが紙(書面)で行われてきました。契約書への署名・押印や重要事項説明書の交付など、紙ベースの作業は事業者にとって大きな負担となり、利用者にとっても手続きが煩雑でした。こうした負担を減らし手続きを効率化するため、厚生労働省は障害福祉サービスの電子化(デジタル化)を推進しています。その一環として示されたのが、指定障害福祉サービス事業に関する基準第224条第2項に基づく「電磁的方法の活用」に関する通知です。この通知の目的は、事業者の業務負担軽減と利用者の利便性向上であり、一定の条件の下で書面による手続きの多くを電子的な方法で代替できるようにすることにあります。
※電磁的方法とは? … 法律用語で「電磁的方法」といえば、簡単に言えば電子メールやインターネットを使った情報のやりとりなど、コンピュータ等を利用した方法のことです。例えばメール送信、ウェブ上のフォーム送信、USBメモリでの提供などが該当します。
厚労省の通知には、障害福祉サービスにおける手続きを電子化する際の重要ポイントが①〜⑤の項目で示されています。以下では、この①〜⑤それぞれについて、主要な点をやさしくシンプルに解説します。
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① 電子的な書類交付(利用者の事前承諾が前提)
利用申込者や利用者に対して交付する各種書類(例えば重要事項説明書など)を電子データで提供できるようになりました。ただし事前に相手方(利用申込者・利用者)の「承諾」(同意)を得ることが必要です。具体的には、利用申込時に「メール等の電子的方法で書類を受け取ってもよい」といった了承を利用者から得ておく必要があります。その承諾を得た上で、メール添付や専用アプリ、クラウド上のダウンロードなどの電磁的方法により書類を送信・提供します。利用者が電子的な提供を希望し承諾している場合、紙で渡したのと同じ扱い(交付したものとみなす)になります。
また、利用者にはいつでも紙による交付へ戻す権利も保障されます。通知では、事前承諾を得て電子交付を行っている最中でも、利用者から「やはり紙での交付が良い」という申し出があれば、以降その利用者には紙の書類を交付しなければならないと定められています。後日利用者が再び「電子で受け取りたい」と承諾した場合には、再度電子交付に切り替えることも可能です。
② 電磁的方法による同意の取得(メールによる意思表示など)
サービス利用にあたり利用者等から同意を得る場面でも、電磁的方法が活用できます。例えば従来は利用者に書面で同意書に署名・押印してもらっていたようなケースでも、今後はメールなど電子的な手段で同意の意思表示をもらえば有効とされています。実際の例として、利用者から送られてきた返信メールに「○○の説明内容について同意します」と書かれていれば、それは正式に同意がなされたものと見なせます。重要なポイントは、電子的に同意を得る場合でも「誰が」「何に同意したか」を客観的に確認できる形にすることです。メール本文の保存や、同意画面のスクリーンショット保存など、後から証拠として残るように記録しておくと安心です。
なお、押印廃止の流れを受けて政府が公開した「押印についてのQ&A(令和2年6月19日)」でも、書面への押印に代えて相手からのメール回答などで意思確認する方法が紹介されています。この通知でもそれを参考にするよう記載されており、障害福祉サービスの現場でも積極的に紙の署名・押印を求めない電子化を進める方針となっています。
③ 電子署名を活用した契約の締結
事業者と利用者との契約(利用契約など)を結ぶ場面では、書面での署名や押印の代わりに電子署名を利用することが望ましいとされています。電子署名とは、パソコンやスマートフォン上で行うデジタルな署名のことで、本人確認と内容承諾の証明になります。例えば民間の電子契約サービスを使って双方が電子署名を付与すれば、紙に署名・押印したのと同等に契約の成立を証明できます。通知では、「契約当事者間の関係を明確にする観点から」電子署名の活用が望ましいとされています。これは、後々トラブルになった際に「誰が契約に同意したか」を明確にする効果が電子署名にはあるためです。電子署名にはタイムスタンプや署名者情報が残るため、紙の契約書に押印するよりも信頼性が高まる場合もあります。
ポイントとして、電子契約では原則として物理的な押印や直筆サインは不要になります。ただし利用者が希望すれば紙の契約書での締結も可能ですので、相手の意向に寄り添った手段を選ぶことが大切です。
④ その他の手続きも電子化が可能(原則①〜③に準拠)
上記①〜③に挙げられていないその他の書面手続きについても、法律上電磁的方法で行うことができるとされています。例えばサービス利用契約以外の各種同意書や重要事項の説明補足資料の交付など、「交付・説明・同意・契約締結」に類する手続きは幅広く電子化が可能です。基本的には先に説明した①〜③の方法に準じたやり方(事前承諾を取る、メール等で意思確認する、電子署名を活用する等)で行えば問題ありません。
ただし、障害福祉サービスの基準や本通知の中で「特定の手続きは書面で行う」と個別に規定されている場合は、その規定に従う必要があります。通知自体は原則電子化OKというスタンスですが、一部の書類・手続きについては他の法律や省令で紙原本が求められるケースもありえます。それらについては例外的に紙での対応を継続する必要がある点に注意しましょう。
⑤ 個人情報保護への対応も忘れずに
手続きを電子化する際でも、個人情報の保護や情報セキュリティへの配慮はこれまで以上に重要です。通知では、電磁的方法を用いる場合には個人情報保護委員会が公表しているガイドライン(「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」等)を遵守することが求められています。具体的には、利用者の氏名や住所、障害に関するデリケートな情報を電子データで扱う際は、漏えい防止策を講じなければなりません。例えばメール送信時の暗号化やパスワード付与、クラウドサービス利用時のアクセス制限設定、電子署名サービス利用時の信頼できる事業者選定などが考えられます。
また、パソコンやUSBメモリ内に利用者の個人情報データを保管する場合は、第三者から不正にアクセスされないよう適切な管理(ウイルス対策や端末の持ち出し制限等)を行いましょう。電子化によって便利になる一方で、サイバーセキュリティ面のリスクも生じます。関連法令やガイドラインに沿った安全管理措置を徹底することが、事業者・起業者に求められる責任です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 利用者の事前承諾が必須:書面の電子交付や電子契約を行う前に、必ず相手方(利用申込者・利用者)から「電磁的方法で進めること」の同意・承諾を得ておく。承諾はメールで意思表示をもらうなど客観的に証拠が残る形で取得する。
- 利用者の意思を尊重:電子交付の承諾はいつでも撤回可能。利用者から希望があれば紙での書類交付・契約締結に切り替えること。電子化は強制ではなく、あくまで利用者の利便性向上が目的である点に留意。
- 電子契約では電子署名を活用:障害福祉サービス利用契約等をオンラインで締結する場合、できる限り電子署名によって双方の合意を確認する。電子署名により紙の署名・押印と同等の法的効果が得られ、契約当事者を明確にできる。
- 他の手続きも原則デジタル可:重要事項説明や各種同意書など、書面交付や説明が法律上求められている手続きの多くは電磁的方法で代替可能。ただし一部に紙原本を要する例外規定がないか確認し、該当する場合はその規定に従うこと。
- 個人情報保護とセキュリティ対策:電子化にあたり、利用者の個人情報を適切に守ることが大前提。関係法令やガイドラインを遵守し、暗号化やアクセス制限など必要な安全管理措置を講じる。情報漏えいや改ざんを防ぐ対策を徹底する。
【免責事項】
