共同生活援助における協力医療機関との連携体制とは
記事の概要:
近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、障害者グループホーム(共同生活援助)における医療連携や感染症対策の重要性を浮き彫りにしました。とりわけ、グループホームで感染者が出た場合、施設内で感染が一気に拡大するリスクが高く、利用者を速やかに受診・入院させられる体制づくりが課題となりました。この背景から、「障害者総合支援法施行規則」の改正により、グループホームの医療連携体制強化が図られています。本記事では、この制度改正のポイントである「協力医療機関等」に関する新たな基準(基準第212条の4)について、やさしくシンプルに解説します。
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① 協力医療機関の立地 – 近くにある病院が安心
制度改正により、指定共同生活援助事業者(グループホーム運営者)はあらかじめ「協力医療機関」を定めておくことが義務になっています。これは利用者の体調が急変したときにすぐ受診できる病院やクリニックを決めておくという意味です。同時に、協力歯科医療機関(歯医者さん)も可能な限り決めておくよう努めなければなりません。いざという時、診てくれるお医者さんや歯医者さんが決まっていると安心ですよね。
協力医療機関や協力歯科医療機関は、グループホームからできるだけ近距離にあることが望ましいとされています。例えば同じ地域内、車で数分程度の病院が理想です。身近にあることで、夜間や緊急時にも連絡・受診がスムーズに行えます。もし利用者さんが夜中に体調を崩しても、近くの病院ならすぐ対応してもらえる可能性が高まります。実際、自治体によっては「協力医療機関は○km圏内」といった距離目安を示すケースもありますし、事前に病院との協定書(提携契約書)を交わすことを求めるところもあります。要は、「うちのグループホームで急病人が出たらお願いします」と普段からお願いしておける、頼れる近所のお医者さんを確保しておくイメージです。
② 新興感染症への平時からの連携体制 – コロナの教訓を活かす
新型コロナの経験から、グループホームでも感染症対策(共同生活援助の感染症対策)を強化する必要性が高まりました。今回の基準改正では、新興感染症が発生した時に迅速に対応できるよう、平時から医療機関との連携体制を構築しておくことが求められています。簡単に言うと、「もしまた新しい感染症(例:新型インフルエンザや未知のウイルス)が流行したらどうするか」を、あらかじめ考えて医療機関と話し合っておきましょう、ということです。
具体的には、感染症対応の拠点となりうる第二種感染症指定医療機関などの病院と連絡を取り、感染者が出た場合の役割分担や対応手順を取り決めておく努力義務が定められました。第二種感染症指定医療機関とは、感染症法に基づき各都道府県に指定された専門病院のことで、新型コロナでいえば患者を受け入れる「指定病院」のような存在です。平時からこうした病院とつながりを持っておけば、いざ利用者に感染者が発生した際に、相談・診察、入院の判断、入院先の調整などをスムーズに行えると想定されています。例えば、「発生から◯ヶ月以降は入院調整を行う」等、状況に応じた対応を決めておくのです。
ここでポイントは「平時から」という点です。感染症が出てから慌てて病院探しをするのではなく、日頃から地域の医療機関と顔の見える関係を築いておくことが大切です。グループホームの運営者は地域の保健所や自治体とも連携し、緊急時の連絡体制や感染者の搬送方法などを盛り込んだ感染症対策マニュアルや業務継続計画(BCP)を整備しておくと良いでしょう。今回の基準改正は、その中でも特に医療機関との事前協力にスポットを当てたものなのです。
③ 第二種協定指定医療機関との関係性 – 病院が指定病院なら事前協議が必須
では、もしグループホームが定める協力医療機関自体が「第二種協定指定医療機関」(感染症指定病院)である場合、何が変わるのでしょうか。改正基準では、その場合について新興感染症の発生時の対応について事前に協議を行うことが義務付けられました。つまり、普段から連携している協力病院が運良く感染症指定病院であるなら、「いざという時どう対応するか」を具体的に打ち合わせておかなければならない、ということです。
協議を行った結果、書面で正式な取り決め(協定)を交わせれば理想的ですが、たとえ文書化まで至らなくてもしっかり話し合っておくこと自体が最低限求められる点が重要です。協力医療機関が感染症指定病院であるケースでは、日頃から緊密に連携しているはずなので、緊急時にもお互い役割を分担して動けると考えられます。そのため可能であれば事前に役割分担を書面で確認し合う(協定を結ぶ)ことが望ましいとされています。例えば、「利用者に感染者が出たら速やかに病院に連絡」「症状が重ければ当該病院が受け入れ、軽症なら経過観察の助言をもらう」といった具体的な取り決めをしておくと安心です。
一方、協力医療機関が感染症指定病院ではない場合でも、第②項で述べたように別途、地域の感染症指定病院と連携体制を築いておく努力義務があります。自分の所の協力病院(たとえば地元のクリニック)はあるけれど感染症指定ではない…という場合には、地元の保健所に相談して近隣の指定病院とのコネクションを作っておくと良いでしょう。要は、自分のグループホームの利用者が感染症にかかったら「誰に相談して」「どの病院に送るか」の道筋を事前に決めておくことが大切なのです。これが障害福祉事業における医療連携強化の要となるポイントです。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 協力医療機関・歯科医療機関の選定:利用者の緊急時に対応できる病院・クリニックを事前に選びましょう。できるだけグループホームに近い医療機関が望ましく、相手方の了承を得て協定書を交わしておくと安心です。歯科についても近隣の歯科医院と連携しておくと、口腔ケアや歯の痛みなどの対応に役立ちます。
- 医療連携体制の書類整備:運営規程や重要事項説明書に、協力医療機関(および歯科)を明記しましょう。緊急連絡先や夜間の対応フロー(誰が病院に連絡するか、付き添いはどうするか等)をマニュアル化し、スタッフにも周知しておきます。
- 感染症対策の事前協議:新興感染症に備え、感染症指定病院との連携方法を計画しておきます。特に自施設の協力医療機関が指定病院である場合は、必ず事前に打ち合わせ(協議)を実施しておきましょう。「発生時は誰に連絡し、どこで診てもらうか」「複数感染したらどう隔離・搬送するか」といったシナリオを想定しておくことが肝心です。これらは感染症対策委員会の議題にしておくと良いでしょう。
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