児童発達支援におけるプログラム策定とインクルージョン推進の実務ポイント
記事の概要:
令和6年度(2024年)の障害福祉サービス基準改正により、児童発達支援の運営基準に新たな規定が設けられました。一つは事業所ごとに「指定児童発達支援プログラム」を策定し、公表する義務です。もう一つは、障害の有無にかかわらず全ての子どもが共に成長できるよう「インクルージョン(包摂)の推進」に努める義務です。本記事では、これら改正の内容をやさしくシンプルに解説します。
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指定児童発達支援プログラムの策定・公表義務とは?
指定児童発達支援プログラムとは、児童発達支援事業所が提供する支援内容をまとめた事業所全体の計画です。ポイントは子どもの発達に関する「5つの領域」すべてに対応した総合的な支援計画になっていること。この5領域とは以下のようなものです。
令和6年の基準改正によって、この支援プログラムの策定・公表が義務化されました。具体的には各事業所ごとに上記の5領域との関連性を明確にした支援プログラムを作成し、ホームページなどインターネットを利用して広く公表しなければならないと定められたのです。支援内容を「見える化」し、ご家族や地域に対して事業所の取り組みを説明できる状態にすることがねらいです。これにより、事業所ごとの支援方針が明確になり、サービスの質の向上や利用者への安心感につながると期待されています。
では、支援プログラムには具体的に何を盛り込めば良いのでしょうか?基本となるのは前述の5領域を網羅した支援内容の全体像です。事業所が提供する発達支援の基本方針や具体的な支援内容をまとめ、利用児童の発達目標や支援方法をわかりやすく示します。さらに実務上は、支援プログラムを作成する際に職員の意見を取り入れること、そして家族支援や関係機関連携、インクルージョンへの取り組みなど事業所の包括的な支援方針も記載するよう求められています。単なるお題目で終わらず、事業所スタッフ全員で共有し実践できる計画にすることが大切です。
公表方法は主にホームページへの掲載が想定されていますが、それ以外にもパンフレット配布や説明会開催など広く周知する工夫が考えられます。
インクルージョン(包摂)の推進とは?
インクルージョンの推進とは、一言でいうと「障害のある子もない子も安心して一緒に育つことができるようにしよう」という取り組みです。児童発達支援の場だけで完結するのではなく、地域の保育園・幼稚園や学校など一般の子どもがいる場で障害児が過ごす機会を作り、共に成長できる社会を目指す考え方です。
令和6年度改正で新設された基準第26条の3において、児童発達支援事業者はこのインクルージョンの推進に努めなければならないと規定されました(努力義務に近い位置づけですが、法律上「努めること」が求められています)。具体的には、障害のあるお子さんが児童発達支援を利用することで、地域の保育・教育など一般の子ども向けの場にも参加できるよう支援することが事業者の役割となります。例えば、児童発達支援事業所での療育を通じて集団行動のスキルを身につけさせ、地域の幼稚園の行事に参加できるよう支援したり、小学校入学前に学校と連携して受け入れ準備を進めたりといった取り組みが考えられます。
インクルージョンの推進は国のこども家庭政策全体の流れの中でも重視されています。障害児と健常児を分け隔てるのではなく共に育ち合う「共生社会」の実現がゴールです。そのため、児童発達支援ガイドラインにも「地域社会への参加・包摂(インクルージョン)の推進と合理的配慮」の理念が掲げられており、事業所も地域の関係機関との連携や情報共有を積極的に行うことが求められます。
実務上、インクルージョンを進めるためには地域とのネットワークづくりが欠かせません。お子さんが通う可能性のある保育所や幼稚園、学校、放課後等デイサービスなどと日頃から連絡を取り合い、情報交換や合同イベントを企画するなどの工夫が有効です。また、保護者に対しても地域の子育て支援活動に参加する方法を案内したり、交流の場を提供したりすることで、家庭と地域の橋渡し役を担うことができます。インクルージョンの実現には時間がかかる場合もありますが、事業者として一歩ずつできることから取り組んでいきましょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 支援プログラムの策定・公表義務(新基準第26条の2) – 令和6年改正で児童発達支援事業所ごとに支援プログラムを作成し、公表することが義務化されました。
- 5領域を踏まえた質の高い支援計画 – 指定児童発達支援プログラムとは、発達の5領域(健康・生活、運動・感覚、認知・行動、言語・コミュニケーション、人間関係・社会性)をすべて網羅した事業所全体の支援方針・計画です。支援内容の見える化によって保護者にも安心感を与える狙いがあり、作成にあたっては職員全員で内容を検討し、必要に応じて家族支援や関係機関との連携、インクルージョンへの取組も盛り込むことが求められています。単なる書面上の計画にせず、現場で実践できる具体的な内容にすることが大切です。
- インクルージョン推進への取り組み(新基準第26条の3) – 障害のある子どものインクルージョン(地域社会への包摂)を促進する姿勢が運営基準で明文化されました。事業者は療育を提供するだけでなく、その先にある地域の保育・教育への橋渡し役を担う意識が重要です。たとえば、地域の幼稚園・学校と連携して受け入れ準備を整えたり、障害児と健常児が交流できるイベントを企画したりするなど、「共に育つ」機会づくりに努めましょう。インクルージョンの推進は事業所の価値向上にもつながり、保護者から選ばれるポイントにもなります。
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