児童発達支援における身体拘束適正化:指針の作成と研修のポイント
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児童発達支援事業所では、障害児への身体拘束(子どもの体を押さえつけたり行動を制限する行為)は原則禁止されています。しかし、命の危険がある緊急やむを得ない場合に限り一時的な身体拘束が認められるため、事業所は職員による安易な拘束を防ぐ取り組みを徹底しなければなりません。そこで令和6年(2024年)の制度改正により、「身体拘束等の適正化のための指針」(事業所内ルール)の整備と、職員に対する定期研修の実施が義務化されました。本記事では、この指針に盛り込むべき内容と研修実施のポイントについて、やさしくシンプルに解説します。
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指針の作成と研修
まず、身体拘束等の適正化のための指針とは何かを説明します。簡単に言えば、「うちの事業所では身体拘束をしないためにこう取り組みます」という施設内のガイドラインです。これは厚生労働省の通知により、指定児童発達支援事業所が必ず作成すべきものと定められました。その指針には具体的に以下のような項目を含める必要があります。
- 基本的な考え方: 事業所として身体拘束を避ける基本姿勢や理念
- 委員会等の組織: 内部に身体拘束適正化検討委員会などの組織を置き、拘束廃止に向け検討・監視する体制
- 職員研修の方針: 拘束適正化のために職員研修をどう行うかの基本方針
- 報告の方法: 万一事業所内で身体拘束が発生した際の報告手順や対策に関する方針
- 発生時の対応: 拘束が起きてしまった場合の具体的な対処方法に関する方針
- 指針の閲覧: 利用する障害児やその家族がこの指針を閲覧できるようにするための方針
- その他必要な方針: 上記以外で身体拘束の廃止・適正化を進めるために必要な取り組みに関する方針
上記のように、事業所の姿勢から具体的手続まで網羅した内容を定めることが求められています。ポイントは、単に書類を作るだけでなく、職員全員に周知し現場で実践することです。そのため、指針に基づいて日々の支援を見直し、身体拘束に頼らないケアを徹底する体制整備が重要です。また、この指針は保護者から求めがあれば見せられる状態にしておき、事業所がどのように人権尊重の支援を行っているかを透明化することも大切です。
次に、職員研修の実施についてです。新しい基準では、事業所は職員に対し身体拘束等の適正化のための研修を定期的に行わねばなりません。具体的には少なくとも年に1回以上、継続して研修を実施する必要があります。さらに新規採用時には必ずこの研修を行うことが求められています。研修では、身体拘束が子どもの心身に与える影響や禁止されている理由、緊急時の対応方法、代替手段(声掛けや環境調整など)の工夫など、拘束の適正化に関する基礎知識を職員に浸透させます。加えて、自事業所の上記の指針の内容を踏まえ、自分たちの現場でどう徹底するかを学ぶ場とします。研修は事業所内で開催して問題ありません。他の研修(例えば虐待防止研修)と一緒に実施し、その中で身体拘束廃止の内容を扱っても構いません。つまり、虐待防止に関する研修の一部で身体拘束について教える形でもOKという柔軟な運用が認められています。重要なのは、研修を行ったら内容と日付を記録に残すことです。誰がどんな研修を受けたか記録し、必要に応じて行政や保護者に説明できるようにしておきましょう。
以上の指針の整備と研修の実施は法律で義務付けられており、実施しない場合は運営基準違反となります。具体的には、児童発達支援や放課後等デイサービスでは、これらが未実施だと「身体拘束廃止未実施減算」といってサービス費用が減額されるペナルティもあります。せっかく頑張って良い支援をしても、基準違反で信用を落としては元も子もありません。事業者はこの指針と研修をしっかりと運用し、子ども達の人権と安全を守る支援を行いましょう。それが結果的に事業の信頼性向上にもつながります。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 身体拘束適正化指針の整備: 児童発達支援事業所は、自施設内の身体拘束廃止に向けた指針を作成する義務があります。指針には基本理念、委員会体制、研修方針、報告手順、発生時対応、指針の公開方法、その他の必要方針という7つの項目を盛り込み、職員と保護者に周知・共有しましょう。
- 職員研修の徹底: 年1回以上の定期研修と新人職員への必須研修が求められます。身体拘束が子どもに与える影響や緊急時対応などについて研修プログラムを作成し、計画的に実施してください。研修実施内容は記録に残し、他の研修(例:虐待防止研修)と合同で行う場合も拘束廃止の内容を確実に扱うことが重要です。
- 法令順守とリスク回避: 以上の指針整備・研修実施は法令で義務化されており、未対応の場合は運営基準違反となります。行政から指導を受けたり、報酬の減算(収入減)対象となるリスクがあるため注意が必要です。適正な対応は事業所の信頼確保にも直結します。必須事項として確実に実行し、安心・安全で質の高い障害児支援を提供しましょう。
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