障害児への児童発達支援: 指定生活介護・通所介護事業所による提供特例
記事の概要:
2024年の法改正で、指定生活介護事業所や介護保険の指定通所介護事業所等が障害児に対して児童発達支援を提供できる特例が新設されました。これは、地域に児童発達支援事業所が不足している場合に、既存の高齢者・障害者向けサービス事業所が子どもたちにもサービスを提供できるようにする仕組みです。いわゆる「共生型サービス」と呼ばれる制度の一環で、年齢や障害の別を問わず一貫した福祉サービスを地域で受けられることを目指しています。本記事では、この特例の内容と満たすべき条件について、やさしくシンプルに解説します。
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指定生活介護事業所で児童発達支援を提供できる特例 (基準第54条の10)
指定生活介護事業所は本来、成人障害者の日中活動や介護を行う事業所ですが、2024年の制度改正により、地域で児童発達支援事業所(※児童発達支援センターを除く)の数が少なく障害児が支援を受けにくい場合、特例的にその生活介護事業所が障害児にサービスを提供できるようになりました。提供するサービス内容は児童発達支援とみなされ、法律上「基準該当児童発達支援」として扱われます。つまり、形式上は生活介護事業所であっても、一定の条件を満たせば児童発達支援事業所と同等のサービス提供が認められるということです。
この特例を利用するため、指定生活介護事業所が満たすべき条件は人員配置に関するものです。具体的には、障害児を受け入れる場合、その子どもも含めた利用者全体の人数に対して必要な職員数を確保していることが求められます。もともと生活介護には利用者数に応じた人員基準がありますが、子どもを受け入れる場合は大人と子どもの合計人数で再計算し、その人数に見合った職員数以上を配置しなければなりません。簡単に言えば、「子どもを受け入れるなら、その分スタッフも増やしてね」ということです。この条件をクリアすれば、生活介護事業所であっても地域の障害児に児童発達支援を提供できるようになります。
指定通所介護事業所等で児童発達支援を提供できる特例 (基準第54条の11)
介護保険法による指定通所介護事業所等(いわゆるデイサービスなど高齢者向けの通所介護サービス事業所)についても、上記生活介護の場合と同様に、地域で児童発達支援を受けられる場が不足している場合には障害児を受け入れ、児童発達支援サービスを提供することが認められます。こちらも提供されるサービスは基準該当児童発達支援として扱われますが、生活介護の場合より条件がいくつか追加されています。指定通所介護事業所等が障害児にサービスを提供する際に満たすべき条件は次の3点です。
- 設備基準(面積): 事業所内の食堂や機能訓練室の広さが、利用者(高齢者等)と障害児の合計人数で割って1人あたり3㎡以上になること。つまり、子どもを受け入れて利用者が増えても、一人当たりのスペースが3平方メートル以上確保されている必要があります。これは児童発達支援の基準に照らしたゆとりある空間を担保するための要件です。
- 人員基準: 前述の生活介護の場合と同様に、受け入れる障害児を含めた総利用者数に対して必要な職員数以上を配置していること。高齢者デイサービスのスタッフ配置基準を、子どもも含めた人数分に拡充するイメージです。子どもの特性に配慮しつつ、安全にサービス提供できるだけのスタッフを確保することが求められます。
- 専門的支援体制: 障害児への支援を適切に行うために、障害児入所施設などの関係機関から技術的な支援を受けていること。高齢者向けデイサービスのスタッフは障害児支援の専門知識や経験が不足しがちです。そのため、例えば地域の障害児施設や児童発達支援センターなどと連携し、助言や指導を受けながら運営することが条件となっています。専門機関との連携により、子どもへの対応方法や支援計画の質を確保する狙いがあります。
なお、介護保険の通所介護事業所等では通常児童発達支援管理責任者(児発管)の配置義務はありません。本特例においても法律上は児発管を置かなくても良いことになっています。しかし、質の高い支援のために研修の受講を推奨しています。具体的には、その事業所の管理者や職員のうちから、児童発達支援管理責任者になるための要件に相当する実務経験を持つ人に「児童発達支援管理基礎研修」および「相談支援従事者初任者研修(講義部分)」を受講させることが望ましいとされています。そして、これらの研修を修了したスタッフが、デイサービスを利用する障害児一人ひとりの児童発達支援計画を作成するのが望ましいとされています。要するに、法律上は必須ではないものの、子どもたちへの支援計画は専門知識を持った人が立てるようにし、サービスの質を担保しましょうということです。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 既存事業所の活用条件を確認: 地域に児童発達支援の場が少ない場合に、生活介護事業所や通所介護事業所で障害児を受け入れることができます。ただし、人員配置や施設の広さなど所定の基準を満たすことが必要です。子どもを受け入れる前に、自事業所の職員数や設備面積が条件をクリアしているか確認しましょう。
- スタッフ体制の強化と研修: 子どもを受け入れる際は、大人と子どもの合計人数に応じた職員数を確保することが重要です。また、法律上は児童発達支援管理責任者の配置義務はありませんが、実務上は研修修了者を配置して支援計画を作成することが望ましいです。スタッフに児童発達支援管理基礎研修等の受講を検討させ、専門知識を持った体制づくりを心掛けましょう。
- 専門機関との連携: 高齢者デイサービス等で障害児支援を行う場合、障害児支援の専門機関との連携が成功の鍵です。児童発達支援センターや障害児入所施設などから定期的に助言を受けたり、情報交換したりして、子どもの発達支援に必要なノウハウを取り入れましょう。外部の技術的支援を受けることで、サービスの質を維持・向上させることができます。
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