障害福祉サービス事業者に対する監査の選定基準とは
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障害福祉サービス事業に関わる事柄の中でも、「監査」という言葉には不安を感じる方も多いでしょう。本記事では、行政による監査がどのような場合に実施されるのか(監査対象となる基準)について、厚生労働省の通知文書をもとにやさしくシンプルに解説します。監査に至る典型的なケースである苦情・通報や不正請求の疑い、そして定期的に行われる運営指導との関係について取り上げ、押さえておくべきポイントもご紹介します。
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監査とは?運営指導との違い
障害福祉サービス事業所には通常、自治体による運営指導(旧称:実地指導)が数年に一度(サービス種別によって3年〜6年(次回更新まで)に1回程度)行われます。運営指導は事前に通知され、書類確認やヒアリングを通じて日常の運営状況をチェックし、必要に応じて助言や改善指導を行う「定期健診」のようなものです。一方、監査は、運営指導とは全く性格が異なります。監査の対象となるのは重大な違反や不正の疑いがある事業所で、実施も原則抜き打ち(予告なし)で行われます。監査は違反や不正の事実を確認し、必要な行政処分(改善勧告、命令、指定取消し等)につなげることが目的であり、言わば事業所運営の「緊急手術」のような位置付けです。
監査の対象となるケースと情報
それでは、具体的にどんな場合に監査が実施されるのでしょうか。厚生労働省の通知によれば、監査を行う判断基準として次のような情報が挙げられています。
- 利用者等からの通報・苦情:利用者や職員、ご家族などから行政に対して「事業所で問題が起きている」という通報・相談や苦情が寄せられた場合です。市町村窓口や相談支援事業所(利用者の相談窓口機関)に苦情が持ち込まれるケースも含まれます。こうした直接的な声は、虐待やサービス怠慢など重大な問題のシグナルであり、行政は事実確認の必要性が高いと判断します。
- 請求データの特異な傾向:サービス提供に伴う給付費(報酬)の請求データを分析した際に、他の事業所と比べて不自然な偏りや異常な数値が見られる場合です。例えば、ある事業所だけ極端にサービス提供量が多く報告されていたり、通常では考えにくいパターンの請求が続いていたりすると、不正請求や水増しの疑いが持たれます。このようなデータ上の「赤信号」は、監査による詳細調査の対象となります。
- 運営指導で判明した基準違反:定期的な運営指導の場で、法令の定める指定基準(障害福祉サービスの提供に必要な人員配置や運営上の基準)に違反している事実が確認された場合も、監査に移行することがあります。例えば、必要な有資格者が配置されていない人員基準違反や、重大な記録漏れ・虚偽記録といった問題が発覚したケースです。本来は改善指導で済む事案でも、違反の程度が悪質だったり改善が見込めないと判断されれば、行政はより踏み込んだ調査(監査)に踏み切ります。
以上のように、監査は「事業所に何らかの異常や重大な懸念がある」と行政が判断した場合に行われます。言い換えれば、日頃から法令を遵守し適正な運営に努め、利用者対応や請求業務で問題を起こさなければ、通常は突然の監査に至ることはありません。次に、そうした監査を回避し安心して事業運営を続けるために、事業者・起業希望者が特に留意すべきポイントを確認しましょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 苦情を未然に防ぐ利用者対応:利用者やその家族から不満や苦情が出ないよう、日頃から丁寧な説明と対応を心がけましょう。万一クレームが発生した場合も真摯に向き合い、早期解決に努めることが大切です。苦情が行政にまで届く事態を防ぐことで、監査リスクを大幅に減らせます。
- 請求業務の正確さと透明性:サービス報酬の請求は正確かつ公正に行い、不適切な水増し請求や誤請求がないようチェック体制を整えましょう。日々のサービス提供記録や利用者のサインなどエビデンスの管理も徹底し、データ分析で疑いを持たれる要素を作らないことが肝心です。
- 運営指導での指摘事項は速やかに改善:定期の運営指導で何らかの指摘を受けた場合は、放置せず速やかに改善措置を講じましょう。軽微な指摘でも対応せず繰り返すと「指定基準違反」の常態化と見なされ、監査への移行につながりかねません。指摘箇所の改善報告は期限内に確実に行い、同じミスを繰り返さないことで行政からの信頼を得ることができます。
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