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独習 障害福祉サービス 指導監査 | 指定障害福祉サービス事業者等指導指針 6 監査への変更

営指導から監査への移行に関する実例と解説


記事の概要:
障害福祉サービス事業者に対する「運営指導」と「監査」は、それぞれ目的と性格が異なります。通常の運営指導は事業所の運営改善を図るためのもので、穏やかな確認・助言の場です。しかし、運営指導の途中で重大な問題が発覚した場合、指導が中止され即座に「監査」に切り替えられることがあります。監査へ移行すると、行政は強い権限で調査を行い、厳しい処分も検討されます。この記事では、運営指導から監査へ変更されるケースについて、実例を交えながらやさしくシンプルに解説します。

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運営指導と監査の違い

まず、運営指導と監査の基本的な違いを押さえましょう。運営指導(旧称:実地指導)は、自治体担当者が障害福祉サービス事業所を訪問し、適切に運営されているかを確認・指導する場です。目的はサービスの質向上と法令遵守の支援にあり、指摘事項があれば改善方法のアドバイスが行われます。多くの場合、事業所との協力的な雰囲気の中で進められ、いわば事業所の「健康診断」のような位置づけです。

一方、監査は、運営基準違反や不正の疑いがある場合に行われる厳格な調査です。監査では事業所に対し強制的な検査権限が行使され、違反が確認されれば報酬の返還命令や事業指定の取消しなどペナルティを視野に入れた措置が検討されます。つまり、運営指導が「問題点の是正指導」であるのに対し、監査は「違反を見逃さないための取り締まり」という違いがあります。

監査への変更が行われるケース

通常の運営指導から監査へ切り替わるのは、どのような場合でしょうか?厚生労働省の通知では、主に次の2つのケースが想定されています。

利用者の生命・身体の安全に危害を及ぼすおそれがある重大な運営基準違反が発覚した場合

(例)職員による利用者への虐待や必要な介護・支援の著しい怠慢が疑われるケースです。実際に、広島市の放課後等デイサービス事業所で障害児に対する虐待行為が発覚し、運営法人が事業指定を取消される事態となりました。さらに、定員や人員基準の大幅な違反も重大な問題です。例えば、ある施設で定員を超える利用者を受け入れていたことが運営指導中に発覚し、定員超過の基準違反として介護報酬の返還や新規利用者受け入れ停止の処分が科されたケースもあります。このように利用者の安全に関わる違反が見つかれば、行政は運営指導を中断して即座に監査に移行します。

著しく不正な請求(不正請求)が行われていると認められた場合

(例)サービス提供の実態がないのに介護給付費や障害福祉サービス費を架空請求していたり、提供時間を水増しして不正に請求していたケースです。現に、必要な常勤職員を配置していないのに書類上は配置したように装い、約2,700万円もの給付金を不正受給していた事業者もいました。この事業者は障害児通所支援の指定取消処分を受け、関連する別施設も半年間の指定停止処分となっています。また、愛知県では大手グループホーム運営法人による食費の過大徴収や報酬の不正請求が発覚し、県内の複数施設が一斉に指定取消となりました。さらに厚生労働省は当該法人の不正が組織的と判断し、全国約100か所の関連グループホームに今後5年間は新規指定や更新を認めない「連座制」を適用しています。不正請求総額は数億円規模に達しており、悪質な不正が明らかになった場合、行政は躊躇なく監査に踏み切り厳正な対応を取るのです。

事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

最後に、障害福祉サービスの事業者やこれから起業を目指す方が特に注意すべきポイントを3つにまとめます。

  • 日頃からの法令遵守と記録整備: 運営指導は予告なく行われることもあります。人員配置や設備基準を常に満たし、支援記録や請求の根拠となる書類を正確に整備しておきましょう。定期的な自主点検により、法令違反や不正の芽を早期に摘むことが大切です
  • 利用者の安全・権利の徹底確保: 利用者への虐待や権利侵害は論外です。虐待防止研修の実施や職員間の情報共有体制(ヒヤリハットや苦情の報告制度など)を整え、問題発生時には隠さず迅速に対応してください。現場で問題を見過ごせば利用者の生命に関わるだけでなく、事業継続も危ぶまれます。
  • 不適切な請求をしない仕組み作り: 請求業務は複数人でチェックし、故意でなくとも誤請求がないよう確認プロセスを設けましょう。不正請求が発覚した場合、一発で事業停止級の処分となります。加算要件を満たさないまま請求しない、サービス提供の事実を偽らないなど、基本を徹底することでリスクを回避できます。


【免責事項】

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。