指定居宅介護の「会計の区分」「記録の整備」「準用」をわかりやすく解説
記事の概要:
本記事では、障害福祉サービス事業者やこれから起業を目指す方に向けて、厚生労働省の定める指定居宅介護の運営基準のうち「会計の区分」「記録の整備」「準用」について解説します。基準の原文に沿いつつ、実務上のポイントや注意点をまとめました。それぞれの項目で何をしなければならないか、またやってはいけないことを明確にしています。
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(32)会計の区分(基準第41条)
「会計の区分」とは、事業ごとにお金の管理を分けることです。指定居宅介護事業者について、基準第41条では「指定居宅介護事業者は、指定居宅介護事業所ごとに経理を区分するとともに、指定居宅介護の事業の会計をその他の事業の会計と区分しなければならない」と定められています。すなわち、事業所単位で帳簿を分け、さらに居宅介護の収支と他の事業の収支を混ぜずに別々に管理しなければなりません。
このルールの目的は、事業ごとの収入・支出を明確にして不正やミスを防ぐためです。例えば、一つの法人が居宅介護と就労支援B型など複数の障害福祉サービスを行っている場合、それぞれのサービスごとに別々の会計帳簿を用意します。他の事業の売上を居宅介護の経費に充てたり、その逆を行ったりすると会計が不透明になり、行政から指導を受ける原因になります。帳簿上も事業所ごと・サービスごとに独立したお金の流れを記録することが必要です。
実務上は、事業所ごとに別の預金口座を用意したり、会計ソフトで事業所ごとに部門管理を行ったりする方法があります。「あたかも別法人であるかのように帳簿を分ける」イメージで、収支報告書や貸借対照表も事業ごとに作成します。ポイントは、異なるサービス間でお金を融通しないことです。多機能型事業所(複数のサービスを一体的に提供する事業所)であっても例外はなく、すべてのサービスについて会計区分が求められるので注意しましょう 。
(33)記録の整備(基準第42条)
「記録の整備」とは、必要な書類をきちんと作成し保存しておくことです。指定居宅介護事業者は利用者への支援内容や運営に関する様々な記録を残し、それを一定期間保管しなければなりません。基準第42条では記録すべき事項と保存期間が定められており、第2項で少なくとも次の記録を完結日から5年間保存するよう求められています。
特に苦情対応の記録や計画書は業務終了後につい疎かになりがちですが、後から行政からの確認や監査が入ることもあります。保管方法は紙でも電子データでも構いませんが、見やすく整理し、安全に保存することが大切です。
注意点: 保存期間中に事業所を閉める場合でも、指定を受けていた期間の記録は責任を持って保管する必要があります。また、記録の改ざんや虚偽記載は厳禁です。記録は利用者支援の振り返りやサービス向上にも役立つ財産ですので、単なる義務と捉えず日々こまめに記録を付け、適切にファイリングしておきましょう。
(34)準用(基準第43条)
「準用」とは、ある決まり(規定)を他の場面にも当てはめて適用することです。基準第43条では、指定居宅介護の基準の一部を他のサービスにもそのまま準用する(適用する)ことが規定されています。対象となるのは重度訪問介護、同行援護、行動援護というサービスです。これらは居宅介護と別種の障害福祉サービスですが、運営上の多くのルールは居宅介護の基準をそのまま使う形になっています。
※第32条は「介護等の総合的な提供」に関する規定で、同行援護・行動援護では適用除外となっています(これらのサービスは性質上、居宅介護との一体的提供を想定しないためと考えられます)。
上記のように、重度訪問介護は居宅介護と同等の運営基準が課せられています。例えば重度訪問介護事業所でも、居宅介護事業所と同じように「会計の区分」や「記録の整備」など全てのルールに従わなければなりません。同行援護と行動援護についても、ほとんど同じルールに従います(サービス提供のしかたが特殊な部分のみ独自規定がありますが、それ以外は共通です)。要するに「居宅介護の基準をしっかり読んでおけば、重度訪問・同行・行動援護にも応用できる」ということです。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 会計は事業所ごと・サービスごとに分けて管理する: 金銭管理を一元化せず、指定を受けた各事業所単位で経理帳簿を用意しましょう。他事業の収支と混同すると不正経理とみなされる恐れがあります(絶対にお金の出入りを混ぜないこと)。
- 重要な記録はすべて残し、最低5年間保管する: 日々のサービス記録から苦情対応、計画書、役所への届け出控えまで、書類は整理して漏れなく保存しましょう。保存期間内に破棄すると法令違反です。紙でも電子でも見直せる形で保管し、必要に応じてすぐ提示できるようにしておくと安心です。
- 他サービスにも共通するルールを理解する: 自社が提供するサービスが居宅介護以外でも、居宅介護基準で定められた運営ルールがそのまま課せられるケースがあります。「重度訪問介護・同行援護・行動援護=(原則的には)居宅介護と同じ運営基準」と覚えておき、該当する場合は居宅介護事業所と同様の体制整備・運営を心掛けてください。
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