障害福祉サービスの契約前に必要な「説明と同意」とは?重要事項説明書のポイント
記事の概要:
障害福祉サービス事業では、サービス提供前に内容および手続の「説明と同意」が義務付けられています。これは、事業者がサービス内容や契約条件を利用者に事前に説明し、納得(同意)してもらった上で契約を結ぶ手続きです。具体的には重要事項説明書と利用契約書という書類を用意し、契約前に利用者へ内容を説明します。本記事では、この「説明と同意」の概要と重要事項説明書に記載すべき内容、電子データでの交付は可能かどうかなど、やさしくシンプルに解説します。
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サービス提供前の説明義務とは?
障害福祉サービスの提供開始時には、事業者は利用者に対しサービス内容や手続き上の重要事項を事前に説明し、同意を得る義務があります。この説明義務は障害福祉サービスの運営基準(指定基準)にも明記されています。たとえば居宅介護サービスでは、運営規程の概要や職員体制など重要事項を書面で説明し、サービス開始にあたって同意を得ることが義務付けられています。つまり、契約前に重要事項をまとめた書面で利用者に説明し、理解・了承してもらってから契約する必要があるということです。
重要事項説明書に何を書く?(交付書面の内容)
では、重要事項説明書には具体的にどのような内容を盛り込む必要があるのでしょうか。基本的には利用者がサービスを安心して選択・利用できるようにするための情報を網羅し、それを丁寧に伝えます。主な項目の例は次のとおりです。
- 事業者・事業所の情報:事業者(法人)の名称・住所、事業所名や所在地、連絡先など基本情報
- サービスの内容と提供方法:提供する障害福祉サービスの種類・内容、提供方法の概要(サービス提供地域や日時など)
- 従業者の体制:スタッフの配置状況(何名のヘルパーがいるか、資格はどうか など)
- 利用料金と支払い方法:利用者が支払うべき料金(利用者負担額)やその算定方法、実費徴収がある場合の内容、支払い方法(現金・口座振込等)と支払期日
- 契約期間・解除条件:契約の有効期間や更新の有無、利用者から契約を終了する場合の手続き、事業者側から契約を解除する場合の条件
- 緊急時・事故時の対応:緊急時の連絡体制(主治医や家族への連絡等)や事故発生時の対応(行政への報告、損害賠償の方針など)
- 苦情受付窓口:サービスに関する苦情や相談を受け付ける窓口の連絡先(事業所内の担当者、管轄自治体の相談窓口など)
- 第三者評価の実施状況:評価の実施の有無、いつ実施したか、どこの機関が評価したか、その結果はどこで見られるか
- その他:上記以外で利用者のサービス選択に関係する重要事項があれば記載します
しかし、単に情報を伝えるだけでは不十分です。この制度では、利用者の障害の特性に応じて、適切に配慮したかたちで説明することが求められています。たとえば、知的障害のある方に専門用語だらけの説明書を渡しても理解できませんし、聴覚障害のある方に口頭説明だけをしても意味がありません。利用者一人ひとりの理解力や身体状況に応じて、やさしい言葉に言い換えたり、図やイラストを使ったり、場合によっては家族や代理人と一緒に説明したりするなど、伝え方に工夫が必要です。
また、その説明は書面によって行うことが原則です。つまり、パンフレットや「重要事項説明書」などの形で、文書として渡しながら説明しなければなりません。言い換えれば、「口頭で軽く説明して終わり」というやり方では不適切です。説明は一方的に済ませるものではなく、利用者が内容を理解し、納得できるように丁寧に行わなければならないのです。この「懇切丁寧に説明を行う」という言葉が条文に明記されている点は、非常に重要です。
そして、こうした説明をすべて終えたうえで、はじめて事業者は「この内容でサービスを受けます」という同意を、利用申込者から得なければなりません。この同意は、できる限り書面で確認することが望ましいとされています。なぜなら、後のトラブルを避けるためには、「説明を受け、納得の上で契約した」という事実を証拠として残しておく必要があるからです。利用者の保護、そして事業者自身の保護の両方の観点から、書面による同意取得が強く推奨されているのです。
契約が成立したとき
次に、契約が成立したときには、特定の事項を記載した契約内容をまとめた書面を利用者に交付しなければならないと定められています。
この「記載すべき事項」は5つに整理されています。
- 「事業者の名称と主たる事務所の所在地」です。どこの法人がどこで運営しているサービスなのか、責任主体を明確にするためです。
- 「提供する指定居宅介護の内容」。どのようなサービスを、どういう内容で提供するのかを書きます。たとえば、「身体介護」「家事援助」などの具体的な内容や提供方法が該当します。
- 「利用者が支払うべき額に関する事項」。これは単に「利用料はかかります」ではなく、自己負担額の算定方法や、交通費や実費負担がある場合にはその金額まで、具体的に明示する必要があります。
- 「サービスの提供開始日」。契約はいつから有効になるのか、サービスはいつから始まるのか、はっきりさせることで後日の認識違いを防ぎます。
- 「苦情を受け付ける窓口」。何か問題があったときに、誰に、どう連絡すればよいのかを利用者に明示しておくことが必要です。
これら5項目は、契約内容として最低限記載が求められている項目であり、省略することはできません。
電子データでの交付は可能?
最近ではペーパーレス化も進み、「重要事項説明書や契約書を紙ではなく電子データで交付できないか?」と考える方もいるでしょう。結論から言えば、利用者の承諾を得た場合に限り、書面ではなく電子的な方法(電磁的記録)で提供することも可能です 。メールでPDFファイルを送る方法でも問題ありません。ただし、利用者が希望しない場合は無理に電子交付にせず紙の書面を渡しましょう。また、電子交付を行う際は事前に利用者の同意をきちんと得ることが必要です。電子データで交付した場合も法律上は紙の書面交付と同じ扱いになりますが、後日のトラブル防止のため、可能なら利用者から受領確認をもらうか契約書に電子交付した旨を記載しておくと安心です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 契約前の説明義務を確実に果たす: サービス開始前には必ず重要事項説明書を用いて利用者に内容を説明し、理解・同意を得てから契約書にサインしてもらいましょう。
- 書類の内容は常に最新に更新: 重要事項説明書や契約書の内容は事業運営の実態に合わせて最新の情報に保ちます。サービス内容や料金を変更した際は書類を速やかに修正し、既存の利用者にも改めて説明しましょう。
- 契約書と説明書の内容を一致させる: 契約書と重要事項説明書で記載内容(特に日付や料金、解約条件など)に食い違いがないようにしましょう。矛盾があると後でトラブルのもとになります。
- 利用者の署名をもらっておく: 法律上、書類への押印や署名は必須ではありません (〖障害福祉サービス事業者向け〗重要事項説明書の基本と押さえるべきポイント | 障害福祉開業サポート)。しかし説明を受けた証拠になり、利用者の安心感につながるため、契約書や重要事項説明書に利用者の署名をもらいましょう。署名済みの控えは事業者側でも保管しましょう。
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