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独習 障害福祉サービス 指定基準 | 第三(居重同行) 3 運営に関する基準 (2) (3)

宅介護サービスにおける契約支給量の報告と提供拒否の禁止をわかりやすく解説


記事の概要:
障害福祉サービスの一つである居宅介護サービス等には、事業者が遵守すべき重要なルールとして「契約支給量の報告義務」(基準第10条)と「提供拒否の禁止」(基準第11条)があります。本記事では、この2つのルールについて、やさしくシンプルに解説します。

契約支給量とは、利用者(障害のある方)と事業所が契約した1か月あたりのサービス提供量のことです。事業所は契約時に、この契約支給量などを利用者の受給者証(サービス利用のための証明書)に記載し、市町村へ報告する義務があります。また、契約したサービス量の合計(複数の事業者がその特定の利用者さんへそれぞれ異なるサービスを支給した場合の、契約支給量の合計)が、その利用者ごとに行政から支給決定された上限枠(支給量)を超えてはいけません。

一方、提供拒否の禁止とは、原則として利用申込みを断ってはいけないという決まりです。特に、障害の重さ(障害程度区分)や所得の高い・低いといった理由でサービス提供を拒むことは禁止されています事業所がサービス提供を断れるのは、人手不足や対応地域外など正当な理由(もっともな理由)がある場合に限られます。

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契約支給量の報告義務(基準第10条)

まず、基準第10条「契約支給量の報告等」についてです。これは、居宅介護サービス事業所等が利用者と契約を結ぶ際に、その契約内容を受給者証に記載し、市町村に報告する義務などを定めた規定です。

具体的には、事業所と利用者が居宅介護サービス等の契約を締結したとき、利用者が持っている受給者証に次の事項を記載します:

  • 契約した事業者および事業所の名称
  • 提供する居宅介護サービスの種類や内容
  • 1か月あたりに提供するサービス量(契約支給量)
  • 契約を結んだ日付(契約日)
  • その他必要な事項(※利用者によって必要となる情報)

そして、もしその契約によるサービス提供が終了した場合には、その終了した日付を受給者証に記載します。特に月の途中で契約が終了した場合は、その月にすでに提供したサービス量も記録することになっています。契約期間の開始から終了まで、どの事業所がどれだけサービスを提供したかが受給者証で一目でわかるようにするための措置です。

次に契約支給量の上限についてです。契約支給量とは、その利用者に対してその事業所が1か月に提供するサービス量のことですが、受給者証に記載する契約支給量の総量が、その利用者の支給決定された上限(支給量)を超えてはならないと定められています。つまり、市町村が「この利用者は月○○時間までサービス利用可」と決定した範囲内で契約を結ばなければなりません。上限を超える量で契約してしまうと公的給付の範囲を超えてしまうため、契約前に利用者の支給量(上限枠)を必ず確認し、その範囲内でサービス提供計画を立てることが重要です。

最後に、市町村への報告についてです。基準第10条第3項では、受給者証への記載を行った場合に、遅滞なく(遅れることなく)その内容を市町村に報告しなければならないと規定されています。つまり、契約を結んだら遅れることなく市区町村(自治体)へ契約内容を知らせる必要があるということです。具体的には、受給者証に書き込んだ事業所名・サービス内容・契約支給量・契約日などの情報を、市町村役所に提出・連絡します。この報告によって、市町村は利用者がどの事業所と契約し、どれだけサービスを利用する予定かを把握できます。事業所側も報告を怠らないように注意しましょう。

提供拒否の禁止(基準第11条)

次に、基準第11条「提供拒否の禁止」についてです。簡単に言えば、「正当な理由(もっともな理由)がない限り、利用申込みを断ってはいけない」という決まりです。居宅介護サービス事業所等は、原則としてどのような利用申込者に対してもサービス提供を引き受ける義務があるとされています。

特に注意すべきなのは、利用申込者の障害の程度が重いことや所得が低い/高いことを理由にサービス提供を拒むことは明確に禁止されている点です。例えば、「重度の障害だから対応が大変そう」「収入が少なそうだから支払い能力が不安」といった理由で、「うちの事業所ではお受けできません」と断ることはできません。利用者の障害の重さや経済状況で差別的に選別せず、公平に対応することが求められます。

では、どんな場合であればサービス提供の申し込みを断ってもよいのか、つまり提供拒否の正当な理由とは何でしょうか。基準第11条では、事業所がサービス提供を断ることのできる正当な理由として、主に次のようなケースを挙げています。

  • 定員オーバーの場合:現在のスタッフ数や提供体制では、新たな利用者の申し込みに応じきれない場合(=人手やサービス提供枠がいっぱいの場合)。
  • サービス提供地域外の場合:利用申込者の居住地が、その事業所の通常のサービス提供エリアの外である場合。たとえば、事業所が○○市内のみを対象に居宅介護を行っているところ、遠方の△△市に住む方から申し込みがあった場合など。
  • 対象外の障害の場合:事業所の運営規程でサービスの主な対象とする障害の種類をあらかじめ定めていて、その対象に該当しない障害の方から申し込みがあった場合 。またはその他、利用申込者に対してその事業所では適切なサービスを提供することが困難な場合。たとえば、サービスの対象を「知的障害のある方」と規程で定めている事業所に、視覚障害の方から申し込みがあったケースなど。また、設備や専門知識の関係でどうしても対応が難しい特殊なニーズの場合も含まれます。
  • 医療ケアが必要な場合:利用申込者がサービスを利用する前に入院治療が必要な状態である場合。たとえば、病状が安定せず本来は病院で治療を受けるべき状態のときは、居宅介護では対応できないためお断りが認められます。

以上のような正当な理由がある場合のみ、例外的にサービス提供の申し込みを断ることが認められています。裏を返せば、正当な理由がなければ利用申し込みを断ることは禁止です。例えば「他に優先したい利用者がいるので断りたい」「障害が重くて対応が大変だから断る」といった理由は正当とは言えません。

事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

最後に、居宅介護サービスの事業者やこれから起業を考えている方向けに、実務上チェックすべきポイントをまとめます。

  • 契約時は受給者証に契約内容を記載:利用者と契約を結んだら、受給者証に事業所名、サービス内容、契約支給量(1か月のサービス量)、契約日などを記入する。契約終了時には終了日(途中終了ならその月の提供量)も忘れずに記載。
  • 契約支給量は上限枠内で設定:契約支給量は、市町村が決定した利用者ごとの支給量(利用上限)を超えない範囲で契約する。契約前に利用者の支給決定内容を確認し、上限内でサービス計画を立てる。
  • 契約内容は速やかに市町村へ報告:契約を締結し受給者証に記載したら、遅滞なく(できるだけ早く)契約内容を市町村に報告する。
  • 利用申込みは原則断らない:基本的に、サービス利用の申込みがあれば受け入れる。障害の重さや所得の多少を理由に提供拒否しない。不当な選り好みは厳禁。
  • 提供拒否が認められる場合は限定的:サービス提供を断れるのは正当な理由がある場合のみ。それ以外の理由で断ってはいけない。
  • サービス対象を限定するなら規程に明記:特定の障害種別に特化したサービス提供を考える場合は、運営規程に対象範囲を明記しておくこと
  • 正当な理由で断る際は代替措置を:やむを得ず正当な理由で申込みをお断りする場合も、放置せず他の事業所を紹介するなど迅速に利用者へのフォローを行いましょう。利用者がサービス難民にならないように配慮することも事業者の責任です。


【免責事項】

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