指定居宅介護の運営規程(基準第31条①〜⑤)をやさしく正確に解説
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指定居宅介護を行う障害福祉サービス事業者は、それぞれの事業所ごとに「運営規程」を整備することが義務づけられています。これは、事業の適正な運営と、利用者に対する適切なサービス提供を確保するための基本的なルール集のようなものです。本記事が実務上の見落としを防ぐための参考となれば幸いです。
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運営規程について
まず、運営規程は、事業所が行うサービスについて、その方針や内容、体制などを定める文書であり、利用者との契約や運営の基本となるものです。通知では、同一事業者が同じ敷地内で複数のサービスを一体的に運営する場合、これらをまとめてひとつの規程として作成することも認められるとされています。このように、柔軟な運用も可能ですが、内容そのものはしっかり押さえておく必要があります。
① 「従業者の職種、員数及び職務の内容」については、日々の実際の業務に即した記載が求められます。とくに「員数」、すなわち配置される従業者の人数については、日によって変動することが多く、規程を作る際に一人ひとり正確な人数を記載し続けるのは現実的ではありません。そこで通知では、法令上必要とされている人数を満たしている限り、「〇人以上」といった表現でも差し支えないとされています。これは、重要事項説明書など、利用者への情報提供文書に記載する場合にも同様であるとされています。こうした柔軟な運用は、過度な事務負担を避けつつ、最低限守るべきラインは守るというバランスの取れた考え方と言えるでしょう。
② 「指定居宅介護の内容」については、居宅介護の中に含まれる具体的なサービス内容――たとえば、身体介護、家事援助、通院等介助、そして通院等乗降介助――をきちんと明記することが必要です。これらは単なる言葉の並びではなく、支援内容の違いによって利用者のニーズや報酬区分も異なります。したがって、事業所がどの範囲の支援を提供するのかを明確に示すことは、利用者との信頼関係の構築にもつながります。抽象的に「介護サービスを提供する」と書くだけでは不十分で、何が含まれていて、何が含まれていないのかが、第三者にもわかる形で記載されている必要があります。
③ 「支給決定障害者等から受領する費用の額」では、単に利用者の1割負担額だけでなく、それ以外に請求する可能性のある費用も明示しておくことが必要です。通知が指しているのは、たとえば交通費や実費負担が発生する場合の金額などであり、これらが不明瞭なままでは後々トラブルになりかねません。基準第21条第3項にあるような、利用者が負担すべきその他の費用についても、あらかじめ運営規程に記載しておくことで、透明性を高め、公平な運営を図ることが可能となります。
④ 「通常の事業の実施地域」は、サービスを提供するおおよその地域を示すものであり、客観的に見て範囲が明確になるよう記載することが求められます。たとえば「○○市内全域」や「△△町の北部地区」など、第三者が見て「このあたり」とわかるように定めておくのが望ましいとされています。ここで注意すべきは、あくまでこの地域は“通常”のサービス提供範囲を示すものであって、それを超えた場所へのサービス提供を禁じる趣旨ではないという点です。たとえ定めた地域外であっても、利用申込みや行政との調整があれば柔軟に対応できるようにしておくことが、利用者本位の姿勢として求められます。
⑤ 「事業の主たる対象とする障害の種類を定めた場合の当該障害の種類」は、最も誤解が生じやすい項目です。基本的に、指定居宅介護事業者は障害の種別によらず、すべての利用者を受け入れることを前提としています。そのうえで、もし特定の障害種別――たとえば、重度の身体障害や重度の知的障害など――について専門的な支援体制を構築している場合には、「主たる対象者」として、その種別をあらかじめ運営規程に明示することが認められています。これは、サービスの質や安全性を確保するための合理的な措置であり、事業者の専門性を示すうえでも有用です。そうして「主たる対象」として明記した障害種別の利用者から申込みがあった場合には、原則として断ってはいけません。つまり、自ら専門と定めた障害のある方に対して「対応が難しそうだから」といった理由でサービス提供を断ることは、正当な理由がない限り認められないということです。言い換えれば、主たる対象を掲げるということは、それに対して責任を持つという覚悟が求められるということです。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- スタッフの人数は「○人以上」としてもOK。ただし最低基準は厳守。
従業者の配置は日々変動するため、「○人以上」といった柔軟な記載が認められています。ただし、基準第5条で定められた人員配置基準を下回る運用は絶対にNGです。運営規程や重要事項説明書では、誤解を招かない表現を心がけましょう。 - サービス内容・提供地域・費用は、誰が読んでもわかる具体性が必要。
抽象的な書き方(例:「居宅介護を行う」)では不十分です。身体介護や通院等介助など、サービス内容を明確に列記することが重要です。また、地域や費用に関する記載も「目安ではあるが客観的に特定可能」である必要があります。 - 主たる対象障害を定めたら、対象者の申込みは原則として断れない。
自ら専門として掲げた障害種別の方から申込みがあった場合、正当な理由なく断ることはできません。必要性に応じて専門性の明示は可能ですが、受入れ姿勢と運営責任をセットで持つことが前提です。
