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独習 障害福祉サービス 指定基準 | 第三(居重同行) 3 運営に関する基準 (22)勤務体制の確保等

宅介護サービスの勤務体制確保とハラスメント対策:事業運営のポイント


記事の概要:
居宅介護サービスを運営するためには、法律で定められた勤務体制のルールを守り、スタッフが安心して働ける職場を作ることが重要です。本記事では、厚生労働省の通知文書「勤務体制の確保等(基準第33条)」に基づき、事業者やこれから起業を考える方に向けて、勤務表の作成や従業者(スタッフ)の定義、研修参加の計画的確保、そしてハラスメント対策について、やさしくシンプルに解説します。

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勤務体制の確保に関する4つのポイント

以下では、勤務体制の確保に関連する重要なポイントを4つに分けて説明します。それぞれ勤務表の作成義務、従業者の定義、研修参加の計画的確保、ハラスメント対策義務に関する内容です。

1. 勤務表の作成義務とその記載項目

障害福祉サービス事業所ごとに、勤務表(シフト表)を作成することが法律で義務付けられています。原則として毎月ごとに作成し、スタッフ一人ひとりについて次の項目をはっきり記載しなければなりません:

  • 日々の勤務時間:そのスタッフが各日何時から何時まで働くか(勤務シフト)。
  • 職務の内容:その時間帯にどんな仕事(支援内容)をするか。例:利用者への身体介護や家事援助など具体的なサービス内容。
  • 常勤・非常勤の別:スタッフがフルタイムの常勤か、パートタイム等の非常勤かの区別。
  • 管理者との兼務関係:そのスタッフが事業所の管理者(事業所の責任者)を兼ねている場合は、その旨を記載。
  • サービス提供責任者である旨:そのスタッフがサービス提供責任者である場合は、その旨を記載。


以上の項目を明確に示すことで、事業所内の勤務体制が一目で分かるようになります。勤務表を整備することにより、誰がいつどの業務を担当し、主要な役割(例えばサービス提供責任者や管理者)を兼ねているかが把握できます。これは利用者に適切なサービスを安定して提供するための基本です。

2. 指定居宅介護の従業者に関する定義とその重要性

居宅介護サービスは、事業所の従業者(スタッフ)によって提供しなければならないと規定されています。では「事業所の従業者」とは具体的に誰のことでしょうか? 簡単に言えば、その事業所と正式に契約を結び、管理者の指示のもとで働いている人のことです。つまり、雇用契約などを結んで事業所の管理者の指揮命令下にあるスタッフでなければ、利用者に対して居宅介護サービスを提供することはできません。

このルールの重要性は、サービスの質と責任の明確化にあります。例えば、スタッフが他の会社から臨時に借りてきた人や契約関係のないボランティアだった場合、管理者が直接指示・管理できず、サービス品質や緊急時の責任が不明確になってしまいます。それを防ぐために、事業者は自社のスタッフだけでサービスを提供する体制を取る必要があります。これは利用者に安心安全なサービスを提供するとともに、何か問題が起きた際に事業所として適切に対応できるようにするためです。

3. 従業者の研修参加の計画的確保

質の高い障害福祉サービスを提供するには、スタッフのスキル向上と知識習得が欠かせません。そのため、法律では事業所の従業者に対し、研修に参加する機会を計画的に確保することが求められています。具体的には、次のような研修への参加機会を事業所が計画して用意することが大切です:

  • 外部研修への参加:介護や障害福祉に関する公的な研修機関や民間団体が実施する研修会・講習会にスタッフを送り出す。新しい介護技術や制度の知識を学ぶ良い機会になります。
  • 事業所内での研修:事業所内で定期的に勉強会や研修を行う。先輩スタッフが新人に指導したり、事例検討会を開いたりして、現場で役立つ知識をスタッフ同士で共有します。


研修への参加機会をきちんと確保すれば、スタッフの能力が向上し、働く意欲の維持にもつながります。結果的に利用者へのサービスの質も向上します。

4. ハラスメント対策義務の詳細(セクハラ・パワハラ・カスハラを含む)

安全で働きやすい職場環境を守るため、事業所にはハラスメント(嫌がらせ)を防止する義務があります。法律により、職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)を防止するための措置を講じることが障害福祉サービス事業者(居宅介護)にも義務づけられています。ここで「セクハラ」「パワハラ」に加え、近年問題となっているカスタマーハラスメント(カスハラ)についても触れておきましょう。

  • セクシュアルハラスメント(セクハラ):職場における性的な言動による嫌がらせのことです。例えば、スタッフに対して不必要に性的な話題を振る、身体に触れる、といった行為が該当します。なお、上司や同僚だけでなく利用者やその家族から受ける性的嫌がらせもセクハラに含まれます。
  • パワーハラスメント(パワハラ):職場の優位な立場にある人(上司や先輩など)が、業務の適正な範囲を超えて他のスタッフに精神的・身体的苦痛を与える言動をすることです。例えば、必要以上に叱責する、無視する、大声で威圧するといった行為がパワハラに当たります。
  • カスタマーハラスメント(カスハラ):顧客や利用者、そのご家族などからスタッフへの悪質な迷惑行為のことです。例えば、利用者や家族からの度を超えたクレームや暴言、理不尽な要求などがカスハラにあたります。セクハラやパワハラと異なり、カスハラ防止は現時点で法律上の義務ではありませんが、適切に対策を講じることが望ましいとされています。

事業者が講じるべきハラスメント防止策として、厚生労働省の指針でも次のような具体例が示されています。まず、セクハラ・パワハラについて事業所が必ず実施すべき基本的な対策は以下のとおりです:

  • 方針の明確化と周知:職場でハラスメントを行ってはならないことを就業規則や社員ハンドブック等にはっきり明記し、全スタッフに周知徹底します。「ハラスメントは許さない」「困ったときはすぐ相談を」といった事業所の方針を掲げ、共有します。
  • 相談窓口の設置と体制整備:ハラスメントに関する相談や苦情を受け付ける担当者をあらかじめ決めておき、スタッフが安心して相談できる窓口を設置します。誰に相談すればよいか周知し、相談があった場合に適切に対応できる仕組みを作ります。

さらに、カスハラ(顧客等からのハラスメント)への対策について、事業者が講じることが望ましい取り組みの例も示されています。可能な範囲で次のような対策に努めると良いでしょう:

  • カスハラ相談への対応体制:利用者や家族からのクレーム・嫌がらせについても、社内で適切に対応できるよう相談窓口やルールを決めておきます。
  • 被害を受けたスタッフへの配慮:万一スタッフがハラスメント被害に遭った場合、心のケアに配慮したり、加害者となっている利用者への対応を一人に任せきりにしないなどの措置を講じます。
  • 予防のための取組:日頃からマニュアルの整備や研修の実施等により、ハラスメントが起こりにくい環境作りと、万一発生した場合の適切な対処法を周知します。


このように、ハラスメント対策はセクハラ・パワハラだけでなくカスハラも視野に入れて包括的に行うことが望まれます。職員が安心して働ける職場は、良質な障害福祉サービスを提供する土台となるため、事業者として積極的に取り組みましょう。

事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

最後に、障害福祉サービス事業者およびこれから起業を目指す方が実務上特に注意すべきポイントをまとめます。

  • 勤務表の徹底整備:毎月の勤務表を欠かさず作成し、上記で挙げた必要事項(勤務時間や職務内容、常勤/非常勤の区別など)をきちんと記入しましょう。勤務表は職員配置や勤務体制を示す証拠書類でもあります。行政監査や評価の際に整備状況をチェックされることもあるため、常に最新の情報を反映させておくことが重要です。
  • 自社スタッフによるサービス提供:居宅介護サービスは、自社で雇用・契約したスタッフのみで行うようにします。他社からの応援スタッフや契約外のボランティアに頼りたくなる場合もあるかもしれませんが、公式に位置づけられた従業者でない人によるサービス提供は規準違反となります。
  • 計画的な研修と人材育成:スタッフの研修計画を予め立てて、計画的に実施しましょう。新人研修だけでなく定期的なスキルアップ研修や勉強会を取り入れ、継続的な人材育成を図ります。研修に参加しやすいよう勤務シフトを調整したり、研修費用を事業計画に組み込んでおくと安心です。研修修了後はスタッフ同士で学んだことを共有し、職場全体の質向上につなげましょう。
  • ハラスメントの無い職場作り:ハラスメント対策については、就業規則や社員教育の中で繰り返し周知徹底し、風通しの良い職場文化を育ててください。セクハラ・パワハラはもちろん、利用者からのカスハラについても、現場スタッフが一人で悩みを抱え込まないよう管理者がサポートする姿勢を示すことが大切です。問題が起きたときは迅速に対処し、再発防止策まで講じましょう。


【免責事項】

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。