感染症対策指針と研修・訓練の解説【基準第34条】
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障害福祉サービス事業所では、感染症の対策がとても重要です。利用者さんやスタッフの安全を守るため、「感染症の予防及びまん延の防止のための指針」(感染症対策指針)の作成と、定期的な研修・訓練の実施が厚生労働省のルール(基準第34条)で義務づけられています。これらは令和6年(2024年)4月から本格的に義務となり(それ以前は努力義務)、適切に実施することで事業所の信頼性を高め、安全で安心な環境づくりにつながります。本記事では、その内容とポイントをやさしくシンプルに解説します。
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感染症対策指針とは?
感染症対策指針とは、事業所内で感染症が発生しないように、また発生した場合でも被害を最小限に抑えるための基本的な方針やルールをまとめた文書です。これは事業所ごとに作成することが求められており、平常時・緊急時それぞれの対応策を定めます。指針を作成することで、いざという時に迷わず適切な対応ができるようになります。
指針に盛り込む主な内容
- 平常時の感染予防策: 日常的な衛生管理(施設の清掃や換気など)、手洗いや消毒など標準的な予防策の徹底、職員や利用者の健康チェック方法など。
- 感染症発生時の対応: 感染者や症状が出た方を発見したときの対処手順(速やかな隔離や必要な医療機関への連絡)、感染拡大を防ぐ措置(消毒や換気の強化、濃厚接触者の特定)、保健所や行政への報告・相談方法。また、利用者のご家族や他の関係者への連絡方法、事業所内での情報共有体制も明記します。
- 関係機関との連携: 協力医療機関や保健所、行政の福祉担当部署との連絡先を決めておき、緊急時に速やかに支援や指示を仰げるようにします。誰が連絡役になるかといった役割分担も決め、指針に書いておくと安心です。
上記のような内容を盛り込むことで、「平常時に何をするか」「感染者が出たらどう動くか」が誰にでも分かるようになります。厚生労働省は指針作成のための手引きやひな形(テンプレート)も公開しており、各事業所はそれらを参考に自施設の実情に合わせて作成できます 。指針は一度作ったら終わりではなく、定期的に見直し・更新することも大切です。例えば新しい感染症の情報が出た場合や、研修・訓練で課題が見つかった場合には、感染対策委員会で内容を検討し、指針をアップデートします。
作成時のポイント
専門用語ばかりにならないようにし、誰もが理解できる平易な表現で書きましょう。また、自事業所の規模や利用者の特性に応じて必要な項目を追加したり調整したりします。たとえば重度の障害のある方を多く支援する施設では、より丁寧な健康観察方法を盛り込むなど、現場に即した内容にします。指針を作成したら職員全員に周知し、印刷して掲示したり、ファイルにしていつでも見返せるように備えておくと良いでしょう。
感染症予防のための研修・訓練とは?
「研修および訓練」とは、スタッフに対し感染症対策に関する教育やシミュレーションを定期的に行うことです。単に指針を作るだけでなく、職員一人ひとりが正しい知識と行動手順を身につけることが目的です。具体的には、「研修」と「訓練」は次のように少し内容が異なります。
- 研修(座学的な勉強会): 感染症に関する基本知識や予防策を学ぶ講習です。例えば、感染症の基礎知識(感染経路や症状、消毒方法など)や、先述の事業所の指針に基づいた衛生管理の徹底事項を職員に教育します。資料を用いて講義形式で行ったり、グループ討議を行うこともあります。研修によって職員全員の理解度を高め、日頃から衛生的なケアを実践できるようにします。
- 訓練(シミュレーション): 感染症が発生した想定で行う実践的なトレーニングです。平時から「もし事業所内で感染者が出たら…」を想定し、役割分担の確認や対応手順の練習を行います。例えば、ある利用者さんが感染した場面を仮定し、最初に誰に報告するか、どの部屋に隔離するか、他の利用者への対応や消毒はどうするか、といった一連の流れを机上シミュレーション(テーブルトーク)や実地訓練で行います。訓練により、職員は非常時の動きを体で覚え、迅速に行動できるようになります。
研修や訓練は少なくとも年に1回以上は実施する必要があります。また、新しく職員を採用したときには、できるだけ早く初期研修を行い、全員が同じレベルで対策を理解できるようにすることが望ましいです。研修のテーマは毎回同じでも構いませんが、季節性インフルエンザが流行する前の時期に予防策の研修を行ったり、新型感染症の情報が出た際にはその都度追加研修を行うなど、内容やタイミングを工夫すると良いでしょう。
研修・訓練の実施方法
事業所内で独自に実施しても構いませんし、自治体や専門機関が提供する研修資料・動画を活用することもできます。訓練方法も柔軟で、紙上で手順を確認する机上訓練と、実際に動いてみる実地訓練を組み合わせて行うのが効果的です。例えばまず机上でシナリオを検討し、その後で防護具を着ける練習や消毒作業のデモをする、といった流れです。訓練後には参加者で「もっとこうした方がいい」という点を話し合い、今後の改善に活かします。なお、研修や訓練を行った際は実施日時・参加者・内容などを記録し、保存しておきましょう。これは職員への周知徹底だけでなく、万一行政から確認が入った際に「適切に研修を行っている」ことを示すためにも重要です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
最後に、障害福祉サービスの事業者やこれから起業を考える方が実務で押さえておくべき要点をまとめます。
- 指針の策定と共有: 自事業所の実態に合った感染症対策指針を作成し、内容を職員全員と共有しておきましょう。平常時と緊急時の対応手順が明文化されていることで、いざという時に慌てず対応できます。
- 定期的な研修の実施: 年に1回以上は必ず感染症対策の職員研修を行います。感染予防の知識をアップデートし、日頃から衛生意識を高めてもらう機会にしましょう。新人職員には早めに研修を受けてもらい、全員が同じ基準で行動できるようにします。
- シミュレーション訓練の実施: 感染症発生を想定した訓練も定期的に実施します。机上訓練でも構いませんので、「誰が・いつ・何をするか」を具体的に練習してください。訓練結果は指針の見直しにも役立ちます。
- 記録と見直し: 作成した指針や実施した研修・訓練の内容はきちんと記録に残しておきます。定期的にそれらを振り返り、必要に応じて指針を更新したり、新たな研修計画を立てたりしましょう。特に感染症対策委員会を設置している場合は、委員会で定期的に状況を点検し、改善を図ることが望ましいです。
- 利用者と職員の安全確保: 何より大切なのは、こうした対策を通じて利用者さんと職員の命と健康を守ることです。感染症対策は一見手間に思えますが、徹底することでサービスの質を維持し、事業所の信頼にもつながります。「自分たちの職場は安全だ」と胸を張って言えるよう、日頃から準備と教育を怠らないようにしましょう。
