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独習 障害福祉サービス 指定基準 | 第三(居重同行) 3 運営に関する基準 (26)身体拘束等の禁止 前半

「身体拘束等の禁止」を解説【前編】基準第35条の2の①・②をわかりやすく


記事の概要:
「身体拘束等の禁止(基準第35条の2)」について、2つの点に絞って平易に解説します。本記事(前編)では、身体拘束の原則禁止と緊急やむを得ない場合の条件、および身体拘束適正化検討委員会の設置に関する内容を扱います。

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① 緊急やむを得ない場合を除き身体拘束は禁止

身体拘束等の禁止とは、障害福祉サービスの提供時に利用者の行動を制限する行為(身体的拘束など)を原則として行ってはいけないという決まりです。例えば、ベルトやひもで身体を固定したり、部屋から出られないようドアを鍵閉めすることなど、利用者の自由を奪う行為は「身体拘束等」に当たります。これらは利用者の尊厳や人権を損なう恐れがあるため、法律上も原則禁止されています。

しかし、利用者または周囲の人の生命や安全を守るために本当に緊急でやむを得ない場合には、例外的に一時的な身体拘束が認められることもあります 。ただしその場合でも、次の「3つの要件」を全て満たす必要があります。

  • 切迫性: 利用者本人や他の人の生命・身体に今すぐ危険が及ぶ可能性が非常に高いこと
     (例: 自傷行為や他害行為で命に関わる危険が目前に迫っている)。
  • 非代替性: 身体拘束以外に危険を防ぐ方法が他にないこと
    (例: 他の対応策を試しても効果がなく、拘束以外に手段が残されていない)。
  • 一時性: 身体拘束が一時的な措置であり、必要最小限の短時間にとどまること
    (例: 危険が去ったらすぐに拘束を解く)。

上記の3要件を全て満たして初めて「緊急やむを得ない場合」と言えます。言い換えれば、「今まさに危ない!」「他に手がない!」「(でも緊急事態が過ぎれば)すぐに止めることができる」の全てが揃った状況だけが例外となるのです。

さらに、仮にこのような緊急やむを得ない理由で身体拘束等を行った場合でも、その方法や時間は必要最小限に留めなければなりません。具体的には、「どのような拘束を行ったか」「どれくらいの時間行ったか」「拘束中の利用者の心身の状態」「緊急でやむを得なかった理由」などを詳しく記録する義務があります。また、組織としてその緊急性の判断プロセスをきちんと確認し、全ての要件を満たしていたことを記録しておく必要もあります。これにより、「本当にやむを得なかったのか」を後から検証できるようにし、安易な拘束の発生を防ぐ狙いがあります。

② 身体拘束適正化検討委員会の設置と運営

事業者には、身体拘束を無くすための取り組みとして「身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会」(通称: 身体拘束適正化検討委員会)を定期的に開催することが義務付けられています。この委員会は、施設・事業所内の様々な職種のスタッフで構成し、メンバー各自の役割を明確に決めておくことが望ましいとされています 。例えば管理者、支援員、看護師など幅広いスタッフが参加し、必要に応じて専任の対策担当者を置くといった体制です。

また、この委員会には第三者や専門家の意見を取り入れることが推奨されています。具体的には、外部の医師(精神科医など)や看護師といった専門家に協力を仰ぎ、客観的な視点で助言を得る工夫が考えられます。中立的な第三者を交えることで、「本当に拘束以外に手はなかったのか?」といった検討をより慎重に行うことができるでしょう。

委員会の開催頻度は少なくとも年1回以上が必要とされています。事業規模によっては事業所ごとではなく法人全体で合同の委員会を設置することも可能です。例えば、小規模な事業所が複数ある法人では、各事業所単位ではなく法人全体でひとつの委員会を作って対応することも認められています。

さらに、障害福祉サービス事業所では虐待防止委員会の設置も義務付けられていますが、身体拘束適正化検討委員会はこの虐待防止委員会と一体的に運営しても差し支えないとされています 。メンバーが重複する場合は会議をまとめて効率化し、虐待防止委員会の中で身体拘束廃止に向けた議題を扱う形でも構いません。

委員会で話し合った結果や対策は、必ず全ての従業者に周知徹底することが求められます。例えば、会議の内容を議事録や社内メールで共有したり、職員会議で報告したりして、スタッフ全員が認識を共有することが大切です。せっかく立てた再発防止策も、現場の職員に伝わらなければ意味がありません。情報共有によって組織全体で「身体拘束ゼロ」に取り組む姿勢が重要です。

最後に押さえておきたいのは、この委員会の目的が「責任追及」ではなく「再発防止とケアの質向上」である点です。身体拘束の事例報告や検討は、職員を罰するためではなく、なぜ起きてしまったのかを分析して次に活かすためにあります。現場のスタッフは委員会に対して萎縮する必要はなく、むしろ積極的に情報を出してよりよい支援方法を模索する場と捉えましょう。

身体拘束適正化検討委員会における6つの具体的な対応内容(ア~カ)


項番掲示する情報の種類内容(やさしい説明)
報告様式を整備身体拘束等の事例報告に使うフォーマットをあらかじめ作成しておく。紙・電子問わずOK。
事例ごとに記録・報告身体拘束が発生したら、その状況や背景を詳細に記録し、定められた様式で報告。
委員会で集計・分析報告された事例を集計し、傾向や課題を見える化。事例がゼロでも利用者支援の状況確認を行う。
発生原因と方策を検討事例の適正性を見極めつつ、再発防止・廃止に向けた具体策を検討。
結果を職員に周知分析結果や再発防止策を全職員に伝達。情報共有で組織全体に意識を浸透。
実施後の効果を検証対策を講じたあと、改善されたかどうかを検証。必要に応じて追加の対策も。


また、委員会の対応内容はすべて記録し、5年間保存することが義務づけられています。これは後日の監査や内部点検において重要な証拠資料になります。


事業者・起業希望者が押さえるべきポイント

  • 身体拘束は原則NG: 利用者の安全が危機的状況で他に手段がない場合に限り、一時的に許されるのみです。3要件のすべてが揃わない限り行ってはいけません。
  • 記録と検証が必須: やむを得ず拘束した場合は、実施状況や理由を詳細に記録し、後から振り返りができるようにしておきます。記録には組織として緊急性を確認した経緯も残し、同じ状況を繰り返さない改善策につなげましょう。
  • 委員会を設置・活用: 身体拘束ゼロを目指すには、形式的に委員会を置くだけでなく、実効性のある話し合いが不可欠です。年1回と言わず定期的に情報共有し、外部の意見も取り入れながら常に支援方法の見直しを図りましょう。
  • 小規模でも工夫可能: 人員が限られる場合は法人全体で委員会をまとめたり、既存の虐待防止委員会と兼ねることも可能です。無理なく継続できる体制を整え、継続的に取り組むことが重要です。

【免責事項】

本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。