事故発生時対応ガイド【基準第40条】
記事の概要:
厚生労働省の通知で定められた「基準第40条(事故発生時の対応)」は、障害福祉サービス事業者がサービス提供中に事故が起きた場合の対応義務をまとめたものです。本記事では、その趣旨と具体的な対応ポイントについて、やさしくシンプルに解説します。事故発生時の連絡や賠償、AED設置や救命講習、損害賠償保険の加入、事故原因の分析と再発防止策、さらにはリスクマネジメント指針の活用など基準第40条の重要ポイントをしっかり理解できることを目的としています。
事故が起きたらまず何をすべきか?──連絡・応急対応・賠償
障害福祉サービス事業所で利用者にサービスを提供している最中に事故が発生したら、事業者には迅速かつ適切な対応が求められます。基準第40条では、利用者が安心してサービスを受けられるようにするため、事故時の事業者の具体的な義務が定められています。
まず最優先すべきは利用者の安全確保と応急対応です。事故が起きたら、職員は落ち着いて利用者の状態を確認し、必要に応じて応急手当をします。状況によってはすぐに救急車(119番)を呼ぶなどの救命措置を取ることも含まれます。また、他のスタッフとも連携し、現場の安全を確保しましょう。
応急対応を行った次に、関係各所への速やかな連絡が義務付けられています。具体的には、事故の内容を利用者のご家族(保護者等)に連絡するとともに、事業所の所在地の市町村および都道府県にも報告します。行政への報告は、公的機関が状況を把握し必要な支援や監督を行えるようにするためです。事故の程度によっては警察等への連絡も必要になる場合がありますが、最低限、家族と行政への連絡は欠かせません。
次に、損害賠償への対応です。サービス提供が原因で利用者に怪我などの被害を与えてしまった場合、事業者は速やかに損害賠償を行う義務があります。例えば、スタッフの不注意で利用者が転倒し骨折した場合など、明らかに事業者側に賠償すべき責任がある事故では、できるだけ早く補償の手続きを進めます。賠償が遅れると利用者や家族に不安を与えてしまいますし、信頼も損なわれかねません。
平時の備えが事故対応の明暗を分ける
以上が事故直後の初期対応ですが、平時からの備えも基準第40条の解釈上とても重要だとされています。厚労省の通知では、「事故発生時の対応方法をあらかじめ定めておくこと」が望ましいとされています。つまり、事業所ごとに事故対応マニュアルやフローチャートを用意し、職員全員に周知しておくことが推奨されます。これにより、実際に事故が起きた際も迷わず対応できます。
図: 事故発生直後から再発防止策までの一般的な流れを示したもの
さらに、備えておくべき具体策として厚労省通知では損害賠償保険への加入が望ましいとされています。保険に入っておけば、いざというとき迅速に賠償金を支払うことができ、事業者自身の経済的なリスクにも備えられます。また昨今では、事業所にAED(自動体外式除細動器)を設置したり、職員が救命講習(心肺蘇生法やAEDの使い方等)を受講したりすることも強く推奨されています。法律上の義務ではありませんが、利用者の命を守るためのリスクマネジメントとして有効です。
起きた事故を活かす「原因分析」と「再発防止策」
事故への対応が一段落した後は、事故原因の解明と再発防止策の検討が必要です。起きてしまった事故について、どのような経緯で発生したのか、事業者に落ち度がなかったか、どうすれば同じ事故を繰り返さないようにできるかを冷静に分析します。この際、現場の職員だけでなく管理者も交えてース検討会議(事故後のカンファレンス)を開き、改善策を話し合うと良いでしょう。話し合った内容は記録し、すべての職員と共有して現場に反映させます。
厚労省では、福祉サービス事業者向けに「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取組指針」というガイドラインも示しています。この指針には、事故を未然に防ぐための体制づくりや、万が一事故が起きた場合の対処法、組織として取り組むべきリスク管理のポイントがまとめられています。事業者やこれから開業しようとする方は、一度この指針にも目を通し、自身の事業所のリスクマネジメント計画に取り入れると良いでしょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 事故時の連絡義務: 事故が起きたら利用者の家族等および事業所管轄の市町村・都道府県へ速やかに連絡・報告する。必要に応じ警察や消防への通報も行う。
- 応急対応と救命措置: 利用者の安全確保が最優先。応急手当や119番への通報など適切な救命措置を迅速に行う。AEDの設置や職員の救命講習受講も平時から準備。
- 速やかな損害賠償: サービス提供に起因する事故で利用者に損害を与えた場合、早急に賠償する義務がある。あらかじめ損害賠償保険に加入し、金銭面の備えをしておく。
- 事故対応マニュアルの整備: 事故発生時の手順を定めたマニュアルやフロー図を事前に用意し、職員全員に周知・訓練しておくことで、いざという時に落ち着いて対応できる。
- 事故原因の分析と再発防止: 事故後に原因を調査分析し、再発防止策を講じることが欠かせない。ケース会議で検討した改善策を記録し、職員に共有して実践する。
- リスクマネジメント指針の活用: 厚労省の示す危機管理の指針や自治体のガイドラインを参考に、自事業所のリスクマネジメント体制を構築・見直しすることで、事故を防止し安全なサービス提供に努める。
【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としており、当事務所は十分な注意を払っておりますが、法令改正や各種解釈の変更等に伴い、記載内容に誤りが生じる可能性を完全には排除できません。各事案につきましては、個々の事情に応じた判断が必要となりますので、必要に応じて最新の法令・通知等をご確認いただくようお願い申し上げます。

