障害福祉サービスのサービス提供責任者の配置基準をわかりやすく解説
記事の概要:
障がい者向けの訪問系サービス事業(居宅介護や重度訪問介護などの障害福祉サービス)を運営・開業するには、「サービス提供責任者」(通称:サ責)の配置が法律で義務付けられています。本記事では、サービス提供責任者の配置基準についてやさしくシンプルに解説します。
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サービス提供責任者とは何か?
サービス提供責任者とは、訪問系の障害福祉サービス事業所に必ず配置しなければならない重要なスタッフです。具体的には、ヘルパー(従業員)のサービス計画の作成や調整、利用者やご家族との連絡調整、ヘルパーの指導・シフト管理などを担う役職です。いわばヘルパー業務の現場責任者であり、質の高いサービス提供のカギを握ります。事業所ごとに最低1名は配置が必要で、場合によっては複数名配置しなければなりません。サービス提供責任者自身もヘルパーとして利用者宅へ訪問することがあり得、また、管理者(事業所の責任者)と兼務することも可能です。小規模事業所では管理者がサービス提供責任者を兼ねても差し支えありません。
サービス提供責任者の配置基準とは?
配置基準とは、事業所の規模(サービスの提供量や利用者数、スタッフ数)に応じてサービス提供責任者を何人置かなければならないかという基準です。障害福祉サービス事業では、次の3つの指標のいずれかに応じて必要なサービス提供責任者の人数を決めることになっています:
- ① 延べサービス提供時間:事業所が1ヶ月に提供した総サービス時間が450時間(待機や移動時間を除く)またはその端数を超えるごとに1人以上
- ② 従業者の数:事業所のヘルパー等従業者数が10人またはその端数を超えるごとに1人以上
- ③ 利用者の数:事業所のサービス利用者数が40人またはその端数を超えるごとに1人以上
上記の「〜ごとに1人以上」というのは、例えば40人を超えて最大80人まで利用者がいる場合は2人以上、81~120人なら3人以上…と段階的に必要人数が増えるイメージです。ただし、この3つの基準はすべてを満たす必要はなく、「事業規模のうち最も小さい指数(低いもの)を基準に配置すればよい」とされています。少し分かりにくいですが、一番条件が緩い方法で計算した人数で足りればOKという考え方です。例えば、「延べ提供時間が450時間を超えていて本来なら2人必要なケースでも、ヘルパー数が10人以下なら②の基準では1人で足ります。また利用者数が40人以下なら③の基準でも1人で足ります。」つまり月450時間・スタッフ10人・利用者40人という3つの基準の中で、該当する人数が一番少なくて済む基準に合わせて配置すればよいのです。
基準の背景と制度の趣旨
なぜこのように3つの基準があるのでしょうか? これはサービス提供責任者の業務量が、利用者数だけでなく提供するサービス時間やスタッフの管理人数にも左右されるからです。例えば少数の利用者でも一人ひとりに長時間のサービスを提供していればサ責の負担は重くなりますし、利用者が多くても短時間の支援ばかりなら負担は比較的軽くなります。またヘルパーの数が多ければそれだけ調整・指導の手間も増えます。そこで、利用者数・サービス提供時間・従業者数の三方向から事業規模を測り、バランス良く配置人数を決められるようになっているのです。この人員基準は事業運営の最低ラインであり、あくまで「最低◯人は配置すること」という基準です。サービスの質を維持するため、事業所は業務の実態に応じて必要十分な人数のサ責を配置する責任があります。
配置基準の具体例と図表による説明
では、実際にどのくらいの規模で何人のサービス提供責任者が必要になるか、具体例を見てみましょう。
- 小規模な例:利用者20人、ヘルパー12人、月間サービス提供時間640時間の場合。
利用者20人は基準③では1人分の範囲です。ヘルパー12人は基準②では2人必要、サービス時間640時間も基準①では2人必要ですが、利用者が40人以下なのでサ責1人で足ります。少人数の利用者に対する長時間サービスのケースですが、基準上は1名でよいことになります(現実にはかなり多忙になりますので、余裕をもって配置することが望ましいでしょう)。
- 中規模な例:利用者50人、ヘルパー15人、月間サービス提供時間450時間の場合。
利用者50人は40人を超えているので2人以上必要(③の基準)になります。ヘルパー15人も10人超で2人以上必要(②の基準)、サービス時間450時間ちょうどは1人分です。この場合も、①の基準によってサ責配置は1名でよいことになります - 大規模な例:利用者120人、ヘルパー30人、月間サービス提供時間900時間の場合。
120人の利用者数だと3人以上(40×3=120ちょうどなので3人)(③の基準)、ヘルパー30人だと3人以上(10×3=30ちょうどで3人)(②の基準)、提供時間900時間はちょうど2人分(450×2=900で2人)(①の基準)です。基準上は2名のサービス提供責任者が必要となります。
上記のように、自社の事業規模を利用者数・サービス時間・スタッフ数の観点から確認し、一番少ない人数で済む計算方法に当てはめて必要人数を割り出します(ただし、現場負担を考慮し、自発的な増員による手厚い体制構築も事業者さまの努めです)。
配置基準の特例要件とは?
上述の基準は基本のルールですが、一定の条件をすべて満たす場合には配置基準が緩和される特例があります。簡単に言えば、大きな事業所で体制が整っている場合には、サービス提供責任者1人あたり利用者50人まで担当可能という緩和措置です。緩和の条件となる特例要件は次の3つです。
1.常勤のサービス提供責任者を3名以上配置していること。
→ 常勤(フルタイム)スタッフとしてのサ責が少なくとも3人いる規模であることが条件です。小規模事業所では該当しませんが、中~大規模ではまずこの条件を満たす必要があります。
2.サービス提供責任者の業務に主として従事する者を1名以上配置していること。
→ 少なくとも1人は、ヘルパー業務よりもサービス提供責任者の業務を優先して担当している人がいることを指します。具体的には「月のヘルパー業務時間が30時間以内」に抑えてサ責業務に専念しているスタッフなどが該当します。
3.サービス提供責任者の業務が効率的に行われていること。
→ サービス提供責任者の業務遂行にあたり、省力化・効率化が図られている場合です。例えば、専用のソフトウェアや情報共有システムを導入して計画書作成や連絡調整をスムーズにしたり、サ責同士でチームを組んで相互にフォローし合う体制を築いたりする等、業務効率アップの取り組みを行っていることが求められます。
上記3つの条件をすべて満たす事業所では、サービス提供責任者1人で利用者50人まで(または50人を超える端数ごとに+1人)の配置でも認められるようになります。これは平成27年(2015年)の基準改正で設けられた緩和措置で、現在も適用されています。例えば先ほど「利用者50人でサ責2人必要」としたケースでも、この特例要件を満たしていれば1人で対応可能になります。ただし特例を適用するにはハードルも高いため、「50人につき1人で良いケースは限定的」だと理解しておきましょう 。特例を利用する事業所でも、常勤換算を使う場合は別表のとおり一定数の常勤サ責が必要になるなどの細かい注意点があります 。無理のない体制構築が大切です。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 配置基準の確認と計画:障害福祉サービス事業を始める際は、自事業所のサービス規模を見込み、サービス提供責任者を何名配置すべきか事前に計算しましょう。利用予定者数、提供予定サービス時間、雇用予定ヘルパー数をもとに、人員配置基準を満たす計画を立てます(必要に応じて常勤換算を活用)。人員基準を満たさないと指定が取れず、事業運営自体ができません。
- 記録とモニタリング:事業開始後も毎月、利用者数やサービス提供時間、ヘルパー数を記録・集計し、サービス提供責任者の必要人数が変化していないか確認しましょう。利用者の増加などで基準を超えそうな場合は早めに増員し、基準違反とならないよう努めます。
- 特例要件の活用検討:事業規模が拡大してサービス提供責任者を複数名配置するような段階になったら、特例要件の適用も視野に入れましょう。十分なサ責の員数を確保し、業務効率化ツールの導入やチーム体制の整備などに取り組むことで、将来的に「50人に1人」体制を実現できるかもしれません。
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