障害者支援施設における身体拘束等の禁止(基準第48条)の実務ポイント
記事の概要:
身体拘束等の禁止(基準第48条)は、障害者支援施設において利用者の尊厳と安全を守るための重要なルールです。本記事では、その内容と事業運営上のポイントをやさしくシンプルに説します。緊急やむを得ない場合以外での身体拘束は禁止されており、仮に行う場合でも記録や社内手続きが求められます。また、身体拘束適正化委員会の設置や指針の策定、定期的な職員研修など、実務上の対応策についても詳しく説明します。
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身体拘束等の禁止とは?
身体拘束とは、利用者の行動や体の自由を物理的に制限する行為のことです。たとえばベッドや車いすに体を縛り付けたり、部屋から出られないようにすることなどが含まれます。障害者支援施設等(障害福祉サービス事業所)では、利用者の人権尊重の観点から、こうした身体拘束は原則として禁止されています。これは厚生労働省の基準第48条に明記されたルールで、施設を運営する上で絶対に遵守しなければなりません。
緊急やむを得ない場合のみ例外
身体拘束が例外的に認められるのは、利用者本人や他の利用者の生命や身体を守るため、緊急でどうしても行わざるを得ない場合だけです。この「緊急やむを得ない場合」には、次の3つの要件をすべて満たす必要があります:
- 切迫性(危険が目前に迫り、放置すれば利用者の生命・身体に重大な危険が生じる状況)
- 非代替性(身体拘束以外に危険を避ける方法がなく、他の手段では代わりにならないこと)
- 一時性(あくまで一時的な緊急措置であり、ずっと継続するものではないこと)
この三要件を全て満たして初めて、「緊急でやむを得ない」状況と言えます。例えば、利用者が突然暴れて自傷他害の恐れがあり、すぐに止めないと命に関わるような場合で、ほかに代わる手段が無く、一時的に拘束する以外に方法がない――このようなケースが考えられます。
身体拘束を行った際の記録義務
上記のような真に緊急な場合であっても、身体拘束を行った際には必ず記録を残さなければなりません。基準第48条1項および2項では、緊急やむを得ない場合に例外的に身体拘束等を行ったときは、その拘束の方法および時間、当時の利用者の心身の状態、そして緊急やむを得なかった理由を詳細に記録することが定められています。また、組織(施設)としてその緊急性・非代替性・一時性の三要件を満たしていたか確認した手続きを行った旨も記録しておかなければなりません。要するに、「なぜそれが必要だったのか」「他に手段は本当になかったのか」「どれくらいの時間それを行ったのか」などを、後から検証できるよう書面等に残して5年間保存することが求められるのです。
身体拘束適正化のための体制整備
緊急時以外の身体拘束を防止し、万一発生した場合も適切に対処するために、事業所では体制整備が義務付けられています。具体的には、(1)身体拘束適正化検討委員会の設置、(2)身体拘束等の適正化のための指針の整備、(3)職員研修の実施の三つが、基準第48条第3項により定められています。順番に見ていきましょう。
身体拘束適正化検討委員会の設置
まず事業所ごとに、身体拘束適正化検討委員会(名称は通知上のもの。以下「委員会」といいます)を設置する必要があります。この委員会は、施設内で身体拘束ゼロを目指すための対策を検討する役割を担うものです。メンバーはできるだけ幅広い職種で構成しましょう。例として、施設長(管理者)、医師、看護職員、生活支援員、サービス管理責任者など、様々な立場のスタッフを含めることが推奨されています。委員の役割分担や責任範囲を明確にし、さらに身体拘束対策の専任担当者を決めておくことも重要です。必要に応じて第三者や専門家の参加も検討します。例えば精神科の専門医など外部の専門家の意見を取り入れることで、より適切な検討が期待できます。
委員会は少なくとも年に1回以上開催することが必要です。ただし、人員に余裕がない小規模事業所などでは、同様のメンバーで構成される虐待防止委員会と委員会を一本化して運営することも可能です。同じメンバーで二つの委員会を開くより、一体的に開催した方が効率的であれば問題ありません。また、委員会は各施設単位でなく法人単位(事業所を運営する法人全体)でまとめて設置することも認められています。グループ全体で一つの委員会を作り、施設の規模に応じて対応することもできます。
委員会で検討・実施した内容は記録を取り、5年間保存する決まりです。では、委員会では具体的にどんな活動を行うのでしょうか。厚生労働省の通知では、委員会による具体的な対応策の例として、以下のような項目が示されています:
上記のように、委員会では「報告→分析→周知→改善→効果検証」という一連のPDCAサイクルを回していくことが期待されています。ポイントは、発生した事例を隠さずに共有し、原因を分析して次につなげることです。決して「違反した職員を罰する」ことが目的ではなく、再発防止とより良い支援方法の検討が目的である点に留意しましょう。
身体拘束等の適正化のための指針の整備
次に、各事業所では身体拘束等の適正化のための指針(いわゆる「身体拘束適正化指針」)を策定する必要があります。これは、施設として身体拘束ゼロを目指すための基本方針や手順を定めたガイドライン文書です。全職員に周知するとともに、入所者やその家族からの閲覧請求にも対応できるようにしておきます(利用者等が希望すればこの指針を見られるようにすることも義務です)。
指針には、以下のような項目を盛り込むことが求められています:
この指針は、施設運営の内規として全職員に徹底させるとともに、利用者やご家族にも開示できる形で整備しておくことが重要です。指針を策定しただけで満足するのではなく、実際に職員がそれを理解・実践できるよう、周知徹底を図りましょう。
職員研修の実施
三つ目の義務は職員研修です。施設の従業者に対し、身体拘束等の適正化(廃止)に関する研修を定期的に行わなければなりません。基準では少なくとも年1回以上の研修実施が求められており、さらに新しく採用された職員に対しては必ず入職時にこの研修を受けさせることが重要だとされています。また、実施した研修の内容を記録として残すことも必要です。研修では、身体拘束をしないケア方法や緊急時の対応策、関連する法令知識など、基礎的な内容の周知徹底と啓発を図ります。
研修の実施形態は各事業所の状況に応じて構いません。社内研修として行っても良いですし、外部機関が実施する研修に職員を参加させる形でも問題ありません。また、他の研修とまとめて実施することも可能です。例えば、「虐待防止研修」の中で身体拘束廃止に関する内容を講習した場合などは、別途研修を行わなくても身体拘束適正化の研修を実施したものとみなされます。要は、名称や形式にこだわらず、全ての職員が年に一度以上は身体拘束ゼロに向けた知識を学ぶ機会を設けることが重要です。新入職員には入職時に必ずこのテーマの研修を受けてもらい、また研修記録を残すことで、研修実施状況を確認できるようにしておきましょう。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 身体拘束は原則禁止:利用者の安全確保のため緊急でやむを得ない場合以外、身体拘束(利用者の行動を物理的に封じる行為)はしてはいけません。どうしても行う場合も、切迫性・非代替性・一時性の3条件を満たす必要があり、拘束方法・時間、利用者の状態、理由などを詳細に記録しておく義務があります。
- 緊急時の対応も記録徹底:緊急やむを得ない理由で身体拘束を行った際は、上記内容の記録に加え、施設としてその判断過程(3条件を満たしていたか確認したこと)も記録し、少なくとも5年間は保存しましょう。後で問われた際に説明できるよう、書面で残すことが大切です。
- 身体拘束適正化委員会の設置:事業所ごと(または法人ごと)に、身体拘束削減のための委員会を組織します。施設長や職員、医師など多職種で構成し、年1回以上の開催が必要です。虐待防止委員会と合同で開催することも可能です。委員会では、発生事例の報告・分析・周知・改善策検討・効果検証を行い、その記録を5年間保管します。
- 身体拘束適正化指針の策定:施設として、身体拘束廃止に向けた基本方針や手順を定めた指針を作成し、全職員に周知します。この指針には、委員会の仕組み、研修計画、事故発生時の対応方法、利用者への開示方法など必要事項を網羅しましょう。指針は利用者や家族にも閲覧可能にしておきます。
- 職員研修の徹底:すべての職員を対象に、少なくとも年に1回は身体拘束等の適正化に関する研修を行います。新入職員には必ず入職時に研修を実施してください。研修内容は記録として残し、実施状況を確認できるようにします。他の研修(例:虐待防止研修)に組み込む形で行っても構いませんが、全職員が定期的に学べる機会を確保することが重要です。
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