障害者支援施設における事故発生時の対応とは?リスク管理と損害賠償のポイント
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障害者支援施設に限った話ではありませんが、障害福祉サービスの現場では利用者の安全を守ることが最も重要です。そのためサービス提供中に事故が起こってしまった場合、事業者はどのように対応すべきでしょうか。本記事では、厚生労働省が定める指定基準の基準第54条「事故発生時の対応」について、やさしくシンプルに解説します。この規定は、事故発生時の連絡や記録、損害賠償などリスク管理に欠かせないポイントをまとめた重要なルールです。
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基準第54条「事故発生時の対応」の解説
障害者支援施設では、利用者の安全を守ることが最優先です。しかし、どれだけ注意していても、施設の利用中に転倒や誤嚥、突発的な体調変化、備品の破損など思いがけない事故が起きることは避けられません。基準第54条は、こうした事故が発生した場合の事業者の具体的な対応義務を定めています。
まず、万が一事故が発生した場合は、何よりも利用者の安全確保と応急措置が最優先となります。その後、できるだけ早く都道府県や市町村などの行政機関、そして利用者の家族に対して、事故の内容や状況を正確かつ速やかに報告することが求められます。実際の現場では、例えば「利用者が施設内で転倒し、骨折が疑われる」ケースや、「入浴中に意識を失った」といった場合、すぐに職員同士で連携し、医療機関への連絡や救急搬送の手配も同時並行で進めることになります。
加えて、事故の状況や対応内容を詳細に記録することも重要です。記録には、事故が発生した日時・場所・経過、当時の職員や利用者の状況、対応にあたった内容、連絡先・連絡した相手、その後の経過までを残します。これにより、行政からの調査や家族への説明にも客観的な根拠を示せますし、後日のトラブル防止や施設運営の信頼維持にも直結します。
さらに、施設のサービス提供が原因で利用者がけがをしたり、所有物が破損した場合などには、速やかに損害賠償を行う義務があります。これは、例えば施設側の過失で転倒事故が起きて入院を要した、持ち物が壊れたなど、事業者の責任が明らかな場合には、誠実かつ迅速に対応する姿勢が事業継続に不可欠だという考え方です。
事故発生時に備えた事前準備(対応手順の策定)
日頃から事故対応マニュアルや緊急時対応手順を作成しておくことは、いざという時に現場で迷わず動けるための基本です。たとえば、「事故発生時の連絡フロー」や「現場職員が取るべき行動リスト」をあらかじめ定め、定期的に職員全員で共有・訓練しておくことが推奨されます。
また、AED(自動体外式除細動器)の設置や、職員による救命講習の受講も事故対応力を高める具体的な対策です。現場では「心停止した場合、何分以内にAEDを使えるか」で命運が大きく変わるケースがあるため、こうした備えは利用者だけでなく職員自身の安心にもつながります。もし事業所内にAEDを設置できない場合でも、地域の公共施設やコンビニ等に設置されたAEDの場所や連絡体制をあらかじめ確認し、緊急時に備えて地域と連携することが望まれます。
損害賠償への備え(保険加入のすすめ)
現実的には、どれだけ注意を払っていても施設内での事故がゼロになることはありません。そのため、損害賠償保険(賠償責任保険)への加入は、事業者にとってほぼ必須とも言えるリスク管理手段です。たとえば、「転倒事故で利用者が長期入院し高額な賠償責任が発生した」「誤薬により医療費が発生した」などの例で、賠償保険に加入していれば、賠償金の大部分が保険でカバーされ、施設の経営への影響を最小限に抑えることができます。万一の時も、迅速に被害者への補償ができることで利用者・家族への信頼維持にも直結します。
事故原因の究明と再発防止策(リスク管理)
事故対応は、その場で終わりではありません。なぜ事故が起きたのか、どうすれば再発を防げるのかを徹底的に検証し、職員全体で共有することが非常に重要です。たとえば、同じような転倒事故が続く場合は、「動線の安全確認」や「職員の見守り体制の強化」、「施設内の段差や滑りやすい箇所の改修」など具体的な改善策を実施します。また、厚生労働省が示す「福祉サービスにおける危機管理に関する取組指針」なども活用し、リスク管理の具体例を学ぶことで、組織的な安全文化の構築を目指してください。
事業者・起業希望者が押さえるべきポイント
- 事故発生時の初動対応と記録:利用者のケガや急変などの事故が起きた場合、まずは応急措置を最優先で行い、すぐに行政や利用者の家族へ正確に連絡します。事故の内容や対応状況は漏れなく記録し、後日の原因調査や再発防止策、行政対応にも役立てます。
- 日頃からの備え(マニュアル・緊急体制・保険):事故時の対応マニュアルを整備し、職員がすぐに確認できる状態を作っておくことが大切です。AED設置や救命講習も推奨されており、備えが難しい場合は近隣施設との連携を図ります。また、損害賠償保険への加入で万一の賠償リスクに備えます。
- 事故原因の検証と再発防止策:事故後は、原因を職員間で確認し、再発防止のため手順や設備、研修内容などの見直しを進めます。厚生労働省の危機管理指針も参考にし、組織的なリスク管理体制をつくることが重要です。
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