運営指導 クラスター13「情報公開・秘密保持・個人情報」|2 運営指導に向けた秘密保持対策:退職者のアカウント停止と情報漏えい防止の進め方
前回の第1回では、クラスター13「情報公開・秘密保持・個人情報」が、秘密保持、個人情報の提供、利用前の情報提供、広告表示を横断して扱うテーマであることをご説明いたしました。利用者や家族に関する情報は、職員が支援のために日常的に扱う一方、事業所が誤った取扱いをすれば、利用者や家族との信頼関係そのものを損なうおそれがあります。
しかし、事業所が雇用契約書に秘密保持の条項を入れ、採用時に職員から誓約書を受け取っているだけでは、情報漏えい対策として十分とは言い切れません。紙の支援記録が外部に持ち出されたままになっていないか、職員が私物端末や個人メールで情報を扱っていないか、誤送信が起きた場合に職員が誰へ報告するのか、さらには退職した職員のアカウントがシステムに残っていないかまで、日常の運用として確認する必要があります。
特に障害福祉や障害児支援の現場では、個別支援計画、送迎表、連絡先一覧、支援記録、医療的な配慮事項、家族からの相談内容など、取扱いに慎重さを要する情報が数多く存在します。現在は、情報が紙媒体だけではなく、メール、クラウド、チャット、スマートフォン、SNS、口頭での共有にも広がっています。
クラスター13「情報公開・秘密保持・個人情報」第2回となる今回は、現職の職員だけでなく、異動者や退職者も含めた秘密保持のあり方について整理します。ここでの重要なポイントは、事業所が誓約書を保管しているかどうかではありません。事業所において、採用から日常業務、退職・異動、そして事故発生時に至るまで、情報管理が途切れずに行われているかが重要です。
本稿でいう「クラスター」とは、運営指導で示される多数の着眼点を、中原太事務所が実務上の観点から整理・分類した独自の区分です(行政の公式用語ではありません)。行政の着眼点を単に並べるのではなく、事業所運営のどの場面でその着眼点が意識されるかを基準に、関連項目をまとめています。
行政の確認ロジックは「書類→記録→運用」です
まず確認されるのは「書類」です。事業所において、秘密保持規程又は方針、就業規則や雇用契約書における秘密保持に関する条項、従業者・管理者から取得する誓約書などが、現行の業務内容に合う形で整備されているかを確認します。あわせて、それらの書類に退職後も秘密を漏らさないことが記載されているか、また、事業所が紙資料の持出し、私物端末の利用、SNSの投稿、メールの送信、口頭での情報共有をどのように扱うかというルールが整理されているかも重要な評価基準となります。
次に見られるのが「記録」です。事業所が、職員の採用時や配置時に誓約書を取得した記録、秘密保持に関する研修・周知を行った記録、職員の異動・退職時に行った貸与物や資料の返却確認の記録が残っているかを確認します。さらに、業務用メール、共有フォルダ、クラウド、チャット等へのアクセス権限を停止した記録が残っているかどうかも確認の対象となります。仮に誤送付、誤送信、資料の紛失、誤った公開設定などが起きた場合には、何が起きたのか、誰が確認したのか、事業所がどのように対応したのか、そして再発防止のためにどのルールを見直したのかを、事業所が後から行政へ説明できるようにしておく必要があります。
最後に問われるのが「運用」です。例えば、「送迎表を自宅に持ち帰る必要がある場合、職員はそれをどのように扱うのか」「利用者情報を含む連絡をメールで送る前に、誰が何の項目を確認するのか」「職員が私物スマートフォンで支援に関する写真や情報を扱ってよいのか」「退職者が出たとき、誰が端末の返却とアカウントの停止を完了したか確認するのか」といった問いに対し、現場の職員と管理者が正しく答えられるかが大切です。秘密保持は職員個人の注意力だけに任せるのではなく、事業所としてルールを確認する仕組みにする必要があります。
つまずきやすい点:秘密保持の誓約書はあるのに、退職者の情報管理が終わっていない
何が問題か
実務において頻発しているのは、事業所が採用時に誓約書を回収していながら、職員の退職や異動の際に、システムのアカウント停止や物品の返却を管理者が客観的に確認していないという「実態」です。この管理不足により、元職員が業務用メールや共有フォルダにアクセスできる状態が放置され、私物端末や個人クラウドに利用者の個人情報が残されたままになってしまいます。
なぜ問題か
行政の運営指導では退職後も含めた厳格な情報管理措置が求められており、事業所が口頭のみの確認で済ませていては、適切な運用の証拠を行政へ説明できないからです。さらに、公的な事例集が示すように、日常のメール誤送信や資料の紛失といった平時の不注意こそが重大な情報漏えいにつながるため、事業所には退職時のアクセス権限削除と日常的な運用の徹底が不可欠となります。
ありがちな誤解(NG解釈)
「職員が雇用契約書に署名しているので、事業所として秘密保持について追加の確認を行う必要はない」
「採用時に職員から誓約書を取っていれば、職員の退職時に事業所が確認することはない」
「退職した職員は信用しているので、事業所は共有フォルダや業務用アカウントをすぐに止めなくてもよい」
「職員が利用者名を出していなければ、SNSや私物端末で支援内容を共有しても問題はない」
「メールの宛先を間違えても、事業所が相手方に削除を依頼すれば、その記録を残さなくてよい」
「紙資料は事業所内で扱っているので、事業所として持出しや保管の方法を細かく決めなくてもよい」
――こうした考え方では、現職者による日常的な取扱い事故だけでなく、退職・異動時に残る情報へのアクセスや、誤送信・紛失が起きた際の対応漏れを防げません。秘密保持は職員個人の常識に任せるものではなく、事業所が採用から退職まで確認を続けるための仕組みとして整えることが重要です。
そのまま使えるチェックリスト(書類/記録/運用)
書類
- 秘密保持規程又は個人情報保護方針が、現行の業務実態に合っている。
- 就業規則又は雇用契約書に、秘密保持に関する具体的な記載がある。
- 秘密保持誓約書に、職員の退職後における情報の取扱いが明記されている。
- 紙資料、私物端末、メール、SNS、口頭共有に関する取扱いルールが策定されている。
- 退職・異動時に管理者が確認すべき返却物、および停止すべきアカウント対象が整理されている。
記録
- 職員の採用時や配置時に、事業所が誓約書を取得した記録を確認できる。
- 秘密保持又は個人情報取扱いに関して、職員に実施した研修・周知の記録がある。
- 退職・異動時における資料の返却、貸与物の返却、アクセス権限停止の記録が残っている。
- 紙資料、端末、共有フォルダ等の管理状況を、事業所が定期的に点検した記録がある。
- 誤送付、誤送信、資料の紛失等が起きた場合の、事業所の対応経過が残っている。
- 事故後に再発防止のために行ったルールの見直しや、職員への再周知の記録を確認できる。
運用
- 管理者が、職員の採用・配置時に誓約書の取得とルールの周知を確認している。
- 職員が、利用者情報を含む紙資料や端末の適切な取扱い方法を自ら説明できる。
- 職員が、メールを送信する前に宛先、添付ファイル、共有範囲を確認している。
- 私物端末、私用メール、SNSの利用可否について、職員が正しく理解している。
- 退職・異動時に、管理者が物品の返却とアクセス権限の停止を完了したと確認している。
- 情報漏えい又はそのおそれがあった場合の、事業所内の連絡・確認手順を職員が共有している。
まとめ
秘密保持において本当に重要なのは、事業所が誓約書を一度取得して保管することではなく、現職の職員が日々の支援記録や個人情報を適切に扱い、退職あるいは異動した職員が事業所の情報へ接触できる状態を一切残さないことです。採用時から退職時に至る情報管理の流れを記録とともに整えることは、万が一の事故の際に行政へ適切な対応を証明できるだけでなく、職員一人ひとりがルールに守られているという安心感を持って日々の支援に専念できる環境をつくることにも繋がります。
【免責事項】
本稿は、運営指導で確認されやすいポイントを、実務の目線で整理したものです。制度の取扱いは年度や自治体、事業所の状況によって変わることがあるため、最終的には最新の公式資料とあわせてご確認ください。また個別具体的な判断において迷う点や不安が残る場合は、状況を伺ったうえで整理のお手伝いもできますので、お気軽にご相談ください。